2019_08
24
(Sat)23:05

Blue Jeans #9

もしかして会わなかった期間に男の心境を劇的に変えてしまう何かがあったんだろうかと、ふわふわと地に足が着かないような不思議な心地で揺れていた。男とはそれ程長い付き合いでもないけれど、それでも常に感情の表面しか僕に見せていなかったし、楽しい事だけを追い求めていれば他はどうでもいい所があったようで。そこら辺の希薄感が僕には丁度良かった筈だった。
それがどうした事か、目の前でゆらゆらと体を揺らす男は体位も変えずにもうずっと僕の中を行ったり来たりしている。一度も達していないのは変わらずだけど、僕も変わらずに何度もイカされているのが謎だ。そんなに強く刺激を与えられている訳でもないのにとろとろに体も思考も蕩ける。
「…なんて顔してんだ?」
引き出した記憶よりも更に男の囁きが甘さを増していて、そっちこそどうなんだと言い返したいのに突き出した唇さえ溶かされてしまう。まるで蜜壷にとぷんと落ちたように、もがいてももがいても甘さしか感じないような。呼吸を求めて壷から這い出しても更に極上の甘美が待ち受けていたような、そんな甘々な男に目眩すら覚えるのに。それがまた嫌だと感じていない事に目が回る。結局男は最後の最後まで蜜壷から僕を救いはしなかった。




くわりと大きな欠伸をした、体はまあまあ怠い。ぺたぺたと素足で玄関まで行くと、探していたスマホは案の定電源まで落とされた状態で放置されていた。起動を待つ間に取り敢えずリビングのソファに寝転がってこれからの行動を考える。腹はかなり減っているし、体もさっぱりさせたい。あとは仕事の続きも気掛かりだった。ようやく起ち上がったスマホには通話を強制終了をさせられた相手から結構な件数のメッセージが届いていて思わず苦笑いをする。すぐに【無事】と、だけ返して体を起こすと男が丁度リビングに入ってくるタイミングで、その姿に眉を寄せてしまう。
「服を貸しますからそんな格好でうろうろしないで下さい」
ボクサーパンツしか身に付けていないのは単に着替えが無いからだと理解するものの、剥き出しの上半身に無数の痣が散っているのが目に痛い。雰囲気に流されたとは言え、僕も相当甘い事をしたもんだ。
着替えを渡すついでにシャワーを浴びるように促すと、男は素直にそのまま従って浴室へと消えた。何だかこう、ベッドの中とは打って変わって普通と言うのか。通常モードにシフトされた男の態度に少なくとも後ろ髪を引かれている自分に気付いて戸惑う。
「はぁ、調子が狂うな」
もしかしたら人間の三大欲求のうちの僕にとって一番重要なウェイトを占める食欲が満たされないからこうなるのだろうか。だからおかしな感情が湧くんだと、ぐちゃぐちゃと考え始めた思考も一緒くたに切り刻んでいく。
元々食べる事が好きだった。デリバリーに飽きても食への興味は尽きず、年々外出するのが億劫になっていくその葛藤の末に行き着いたのが自炊だった。しかもやり始めたら事のほか面白くて、味もさることながら見栄えも重視してしまう嵌りよう。食材もレシピもネットさえあれば手に入るこの世の中に感謝した。
「へぇ、意外だなぁ」
まだ濡らした髪をそのままに、キッチンを覗き込んだ男が作り上げていた物の出来栄えに感嘆の声を上げる。集中すると周りが見えなくなるのが僕の悪い癖だとは思うけど、普段は気にする相手も居ないのだから直す気はさらさら無い。
「髪を乾かさないんですか?」
僕が聞けば男は肩を竦めてドライヤーの場所が分からないからと言う。仕方無しに料理を中断して男にドライヤーを手渡し、浴室を出ようとした所を不意に回された腕に足が止まってしまう。
「なぁ、…あれって俺の分もあるんだよな?」
擽るような柔らかい愛撫がうなじに当てられ、腹に回されていた手でゆっくりとその下の膨らみを撫で上げられる。その指が臍まで上がるとするりと下着のゴムを擦り抜け、いつぞやのように毛の中をうねり、僕はその行方に息を詰めた。
「ん、どうなんだ…?」
際どい所を掠められてひくひくと喉が引き攣れるのに、男は肝心な箇所には触れようとしない。自分の目でも膨張具合は見て取れると言うのに。
「あ、りますっ…貴方の分も」
答えた瞬間、男の手がスッと抜かれ『続きは後でな』とだけ言われて背中を押し出されてしまう。
「やられた…」
じわじわと芯から体が熱い。
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