2019_08
24
(Sat)23:04

Blue Jeans #8

あの怒りのままこの家を出て行っていたならば、この関係は完全に終わっていた筈だった。予想だにしていなかった男の引き止め方が、俺の心を再び向き合う気にさせたのは確かで。口数の少ない割に時折大胆な一面を見せる男に振り回されてる感がしないでもなかったが、それをもう不快だとは感じていなく。マンションを見上げて溜め息まで吐いた感情をまたしても撤回にしている自分に口の端が緩んでいた。
ここに来るまではどんな風に焦らしてやろうかと意地の悪いプレイが思い浮かんでいたが、キスだけでもあれ程瞳を潤ませていた男をとろとろになるまで甘やかしてやったらどんな風に蕩けるだろうかと。感情の引き出し方の不器用過ぎるこの男を組み敷いて胸が高鳴っていた。
「…っ、待って、今日は僕がします」
上半身への愛撫に身を委ねていた筈の男の口からそんな呟きが飛び出したかと思いきや、無防備に晒していた付け根をいきなり掴まれて息が止まる。その隙を突くように男が体を起こし、急所を握られたままの俺は最小限の刺激で受け流すべく咄嗟にその体を抱き留めていた。
「なぁっ、…男なら分かるだろ?」
してくれるのは有難い話だがソフトに扱えと更に付け加えて言ってやれば、男は握っていた手を緩め出す。
「した事なんて、…ある訳ないよな」
思わず口からついて出た問い掛けに顔を勢いよく上げた男の表情からもその答えが読み取れるのに、敢えて確認までしてしまう俺のこの余裕の無さ。涙袋まで赤くして、そんな顔まで、もうどうしてくれようか。
「っ、やめっ…」
わしゃわしゃと髪の毛を掻き毟ってやっても構い切れない。なんて言えば説明がつくのか。男がこう、いじらしいと言うのか。その素直さが良いと言えばいいのか。
「いい、無理すんな…気持ちだけな?」
自分でも驚く程に甘ったるい声が出たなと、男のプライドに傷を付けずに諦めを諭した。
「…無理なんてしてません」
強がる割に顔を寄せればあの大きな瞳を潜ませて、従順に唇を引き結ぶ。不満さは残しつつもキスをしたいのが手に取るように分かって堪らない。可愛いなぁと、同性に対する形容詞としては不適切なその単語が自然と男に繋がった。
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