2019_08
24
(Sat)23:03

Blue Jeans #7

まさか帰るなんて思ってもみなかった。男の様子から腹を立てているのは分かったけれど、この場をどう切り抜ければいいのかそれが分からない。今まで人を引き止めるなんて経験もない僕にはその術が身に付いていない。だけど勝手に足は男の背中を追い掛ける。顔を見た瞬間から触れたくて触れたくて、手を伸ばせば捕まえられる距離に居た筈だった。それがまた遠ざかろうとするなんて、そんなの有り得ない。捕まえた瞬間、男からは相変わらず女の匂いがしたけれど、それに入り交じって人の肌の匂いも感じ取ったらもう駄目だった。喉から手が出る程、体が本能で欲する程、僕はこれが欲しい。
「っ、…」
男の膨らみを包んだ掌を掴み上げられ、反対の手からもスマホが消える。男の手がそれを奪った後にどうしたのかまでは知らない。もう電話の相手とは明日まで連絡がつかないのだろうと思ったけど、それもどうでもよくなる程に男の口付けにただ痺れた。あぁそうだこれも欲しかったんだと、柔らかい舌にくるまれながらうっとりと思考が溶け出していく。男にしては珍しく長いキスが終わってみれば、僕の頬にはあの綺麗な指の痕が付き、そして男のジャケットの背の部分には僕から握られた皺が波打っていた。互いに弾む呼吸の中で先に笑みを零したのは男の方が早く、続けて僕もゆらゆらと笑った。
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