2019_08
24
(Sat)23:00

Blue Jeans #6

相変わらず非常識な時間に掛けて寄越すもんだと一瞬眉を寄せたが、ここで出なければもう二度とこの画面に男の名前が表示されない気がして数回のコールで応えた。勿論そんな時間であれば俺はアフターの真っ最中であり、隣に居る常連客に断りを入れた上で賑わしい個室から煙草片手に抜け出す。器用に電話をしながら火をつけるのはもう手慣れたもので、久し振りの男の声を聞きながらゆっくりと肺を満たしていく。だが、半分も吸えていないというのに二言三言のやり取りだけで用件を告げて切ろうとする男に腹が立った。待たされた時間の割に男の態度があっさりしているように思えたのだ。だから俺はわざと今日は何時に行けるのか時間が読めないような空気を匂わせてからその通話を終わらせた。
「ちょっと子供じみてたか?」
胸がすくとまではいかないものの、まるで焦らしに焦らしで返すような幼い自分の言動につい自嘲気味な笑いが漏れ出る。そんな俺を個室で待たされていた客は不機嫌な顔で出迎えたが、平謝りしながらも意識は男がどんな顔をして俺を待つだろうとその事ばかりが占めていた。




ご丁寧な事にアフターが終わるまでに男はジーピーエスで自分の所在地を俺に知らせて来ていた。お陰で難なく示された住所までタクシーで乗り付けが出来、心の中で軽く舌打ちをする。一応取り付けていた約束の時間からそれ程大幅には超していないのだ。
更にタクシーを降りて男が入力したマンション名とその付近にそびえ立つ高層タワーの一致を確認するなりその高さを見上げて溜め息を吐いた。
「あいつ、いいとこの坊ちゃんだったりして」
人とのコミュニケーション能力の低さが金持ちの傲慢さから来るものなら厭味な奴だなとげんなりしたが、約束をした以上はそれを反故するのだけは俺の中で絶対に許されない行為にあたり、渋々目的を果たすべく喝を入れ直す。
男の住まいはタワーの丁度真ん中の階にあり、これ以上の階だったらどんな眺めが拝めるだろうとぼんやりと考えるうちに男の手が俺を招き入れる。お互いに違和感のある対面になるのかと思いきや、俺を家に上がらせながらも男は耳に当てたスマホの相手との会話に意識を取られているようで。適当に座ってくれと、ジェスチャーだけでやたらデカいソファに促される。
「俺帰るわ」
男にそう言い放ちすぐさま踵を返す。いくらなんだってコミュニケーション能力の低さにも程がある。俺を出張ホストかなんかだと勘違いしているなら胸糞が悪過ぎる。待たされた分だけ俺の中で期待が膨らんで、もっと良い奴なのかと勝手にそう描いていた部分もあった。結局は会えない時間が記憶を美化させていたと言うことで、けれどよくも知らない男の家なんかにのこのこと出向く自分も自分だと更に腹ただしさが募っていく。
「待って…っ」
男の声よりも早く腹に回された腕、それに引き寄せられる形で俺の意識も背後の男に向く。
「…怒らせたなら謝ります」
くぐもった熱がうなじに押し当てられ、腹を押さえていた手がその少し下をやんわりと包んだ瞬間、俺の中の何かが弾け飛んだ。
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