2019_08
24
(Sat)22:59

Blue Jeans #5

必要に迫られない限り家から出たいとは思わない。人との関わりも太陽の日差しも、出来る事なら全てシャットアウトして過ごせたならどれだけ楽だろうと真剣に考えた事が何度もある程、家に籠るのが苦じゃなかった。けれど流石に一ヵ月近くも誰ともやっていないのは体に悪い気がして、仕事が丁度山場を越えた辺りで少しなら時間が取れるだろうかとあの男の顔を思い浮かべる。当初はこんなに掛かるなんて予想もしなかったのに、思わぬシステムトラブルに見舞われて結局こんなに時間を費やしてしまったのだ。好きで始めた仕事だからこれも苦じゃない作業ではあるとは言え、男は僕からの連絡が無ければ会う気が無いのだろうかと不思議だった。僕なんて外に出れない体を何とか手で鎮めるたびに男の顔がチラついて別の器官が疼いて仕方がなかったというのに。という事は所詮、男にとって僕は数多あるおもちゃの中の一つのなのか。
「…面倒臭い」
他人は極力家に上げたくない為に溜まった物が自分の手で処理し切れない限度まで来てからやっと外に出る機会を設けていたのに。あの男なら家に呼んでもいいかもと唯一思えたから敢えて意味深に誘っておいた筈で、性欲処理まで自宅で済ませられたらこの上ない快適さだと。僕の中で出した本気の結論だった。
「はぁ」
仕事に没頭していた間には片隅に追いやっていた男の存在が今、こうして思考を埋め尽くしている現状に溜め息が出る。男に連絡を取ろうかと考え始めてからもう体がずっと疼いてどうしようもない。ほんの数ヶ月前に女を買っていた頃はこんなでも無かったと、熱く火照る体に参ってくる。
「って、考えてもどうしようもないけど…」
あの日、どうしても溜まったものを吐き出したくて外へ出たもののこれといった収穫も得られずにすっかりと気がそがれ、たまたま入った店であの男に出会った。よく動く唇の上の黒子と、それと同じように目の前で行き交う指の付け根の黒子にわけもなくただ惹かれ。苦手な筈の他人との関わりに億劫だと感じる暇もなく気付けば唇を奪われていた。あの時点で男の誘いに乗らずこの家に引き返せていたら今のこの体の奥から湧き上がる疼きを知らぬままだったのに。
「…なんでこの僕が」
てっきりやらせてくれるんだと期待したホテルで僕が襲われた。抵抗はしたようなしていないような、そこが曖昧なのは男のそれに至るまでの手管が恐ろしく上手かったわけで。流された自覚はあるものの、流されなければあの男に犯される経験は得られていない。
ぐちゃぐちゃと考えた末にようやく男の番号を探す。出なければ諦めるつもりでコール音に耳を傾けていると数回の呼び出しでそれが途切れた。代わりに耳の中に男の独特な声色が浸る。そう言えばこんな声だったと、懐かしさが湧くと同時に、ベッドの中ではもっと甘い響きだった事まで僕の記憶は引き出していた。
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