2019_08
24
(Sat)22:58

Blue Jeans #4

靴に片足を突っ込んだ際に視界に必ず入り込む電子煙草はいまだに開けられた形跡が無い。このまま開けられないのなら人にやるかまたゴミ箱行きだなと思いながらもその場所から他へ移す気すら起こらない。
これを俺に寄越した男とはかれこれ一ヵ月近く会っていないのだから、これも同じ月日をこの玄関で使われもせずに置かれているわけで、それを憐れだなと思った。そしてすぐに何が、とも。使う機会を与えられないこの電子煙草なのか、それともその機会を待つ自分をか。
その馬鹿な考えを振り払うようにマンションのエントランスを出てすぐさま胸ポケットの煙草を取り出して火をつける。唇に挟んだ紙の感触、それとこの吸い込んだ時の何とも言えない香りが至福だと感じる。出始めの頃に俺も一度は電子煙草を試した事はあったが、あれにはこの感動が薄かったように思えて常には持ち歩かなくなり再び紙巻き煙草に戻っていった。あの時は勢いで開けて使おうかとも思ったけれど、男の放った言葉の衝撃ですっかりとその機会を失って今に至る。
「いまいち、スッキリしないな」
一本吸い終える間にも頭の中はあの男の事ばかり考えている自分にほとほと嫌気が差してそう呟いた。次は家で、と言われたその言葉の意味を俺は男の家に招かれると捉えたわけだが、待てど暮らせどあれ以来音沙汰が無いのがおかしい。かと言って俺から連絡を取って家に上げろと催促するのも癪な気がして放置した結果がこれだ。
遊び相手に不自由はないので、男からの連絡が来ないとなれば数人から受けていたお誘いの中でもめぼしいのと会ってやってみたが、何だか物足りなさだけが増幅してあとは全て断った。結局のところ、俺は男からの連絡をこうして待ちわびているわけだ。
「もう少し待ってみるか」
人からの連絡を待つ行為が新鮮だと思えるうちはまだ待てると、ふかした煙を夜の街に広げた。
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