2019_07
10
(Wed)20:45

Blue Jeans #3

何度か体位を変える間に俺の下で男は数回達して自分自身が何を口走っているのかも分かっていないような状態に陥っていた。俺と言えば男がどんな仕事をしているのかも知らされていないので遠慮なく男の中を掻き回しまくった。けれど一度も男からは足が立たなくて辛かった、などの苦情は無い。だから俺の一回が終わる頃になると男は軽く意識を飛ばし、うわ言のように俺の下の名前を呼び続けた。だが本名はいまだに明かさずに俺達の体の関係は成り立っている。明かす事のリスクと、その代償を天秤にかければ自ずとその選択肢は消える。
意識を完全に持って行かれた男から、芯を失ったものを引き抜くと一回分にして結構な量の体液が薄い膜の中に吐き出されていた。そう言えば近頃はこの男としかしていないのかと、至福の紫煙を燻らせながら無防備なその寝顔を眺めて思った。
「子羊って言うか、子鹿だよなぁ…」
やってる最中もずっとあの印象的な瞳で俺を見つめる男は羊よりもどっちかと言うと鹿に近い。伏せられた睫毛を擽りながら、この図体からして子鹿でもないなと苦笑していると、寝ていた筈の男の瞼が動く。指先を掠めるように睫毛が押し上げられ、咄嗟に引いた手に男の指が重なる。そして絞り出すように出された声。何かを俺に言いたかったらしいが、散々喘がされた喉ではまともな声なんて出せないようではっきりとは聞き取れない。そのか細い声を拾おうと体を寄せると、微かに『煙草』と聞こえた。
「煙草?あぁ、火を気をつけろってか」
てっきり寝煙草を咎められたのかと思ったが、男はそれを否定するように首を横に振る。じゃあ何だと顔を顰める俺に対し、重たげな体を起こすと、ベッドの脇に落ちていた袋を指差す。確かそれは男がホテルに入る前から抱えていた物で、何か最中に使うのが入ってるのかと思っていたが。
「俺が開けても?」
頷くのを確認するなり持っていた煙草の火を消してその袋を覗くと、男には必要の無さそうな物が見えた。
「勝手に吸わないと思い込んでたけどな」
以前やった後に隣りで気持ち良く吸っていたら男の煙たげなその様子から喫煙家じゃないと判断したのに。袋の中の電子煙草を男に放ると、首を振って突き返される。
「吸わないのか?」
手の中の真新しいパッケージと無言で見つめる男の丸い瞳を交互に見ながら尋ねれば、人差し指だけをゆっくりと俺に向けて寄越す。という事はこれは俺への物なのか。
「そんなに煙たいのが嫌だったとはなぁ」
そこまでだったか、と思わず苦笑しながらパッケージをこじ開けようとする俺を、突然強い力が引き寄せる。そして耳元でボソリと何かが呟かれた。
『次は家で』
男はそれだけを言うなり布団にくるまって身を隠してしまう。まるでその姿は殻に閉じこもったミノムシで、男がどんな表情でその言葉を発したのかも見損ねる程に俺は呆気に取られていた。
「なぁ、…家って、おい」
丸い殻をいくら揺さぶっても男は顔を出す気配も無く、俺は俺でくつくつと込み上げた笑いが抑えきれずそのミノムシに倒れ込んで声を漏らして笑った。リスクへの代償が男の家ならば、それも悪くないと早くも思い直している自分に気付いて尚更笑えた。
「賭けに勝ったと思っていたんだけどなぁ」
どうやら俺もこの男に嵌ってしまったらしい、見事なまでに。
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