2019_07
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(Wed)20:43

Blue Jeans #1

その日の売上目標額をクリアしていた俺は颯爽と常連客と共に夜の街へと繰り出す。枕営業をしないのが売りの俺のスタイル通りにカラオケでひとしきり騒げば、それでアフターは終了。割と早い時間に開放されたその足で今度は馴染みの店へと向かう。そこのマスターから仕事中に入っていた連絡がずっと気掛かりだった。
「どれ?迷える子羊ちゃんは」
小声でマスターに聞けば目線だけでその存在を伝えられる。振り向けばすぐにそれと分かった。確かに今もこうして涎を垂らして機会を狙う狼の群れの中でも、その子羊は呑気にビールなんかを煽っている。初めて見る顔だし、マスターから俺に連絡が来るという事はここがどんな店なのかも知らないのだろう。
「なぁ、隣りいいか?」
どこかぼんやりとしていた筈の男の瞳の焦点が、俺をみとめた途端に目の奥に光が見えた。それだけこの男の目に強く惹き付られる何かがあった。その目力の強さに一瞬怯んだものの、男は以外にもあっさりと隣りを許した。暫く一緒に飲んで、二軒目に誘うと素直にそれにも応じた。周りの狼達はそんな俺達を遠巻きに眺めているだけで、マスターは厄介事にならずにホッとしたに違いない。
二軒目に行くと見せ掛けて狭い路地で強引にキスを仕掛けた。同性は許容範囲内じゃないとなればここで一発食らって当然のところを、その男は僅かな抵抗を見せただけで舌を割り入らせても最後まで手は出てこなかった。
「…逃がしてやろうと思ったんだけどなぁ」
マスターの厄介事を処理してやった御礼に味見程度のキスぐらいはと思っていたが、目の前の何にも動じない男に俄然興味が沸く。
「あそこがどんな店なのか、本当は知ってたとか?」
あの店で見るのは初めてなだけで、他で結構漁ってるのかもしれない。だが、男は予想に反して首を横に振る。
「そう…じゃあ俺と先へ進んでみる気があるならこのまま着いて来いよ。その代わりもう来た道には戻れない、どうする」
決して無理強いはしない、男であろうが女であろうが選択肢は必ず与えて自分で決断をさせる。自信過剰かもしれないが、俺に嵌ったら後戻りは不可能だ。
考える時間を充分に与えてから先にゆっくりと歩き出す。遅れて男の足音が追ってくる気配に、この賭けは成功したと思った。
そして案の定、男は見事な程に俺に嵌っていった。
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