Road -始まりの時-
下手すると壊れ物でも扱うかのように慎重に僕を家まで連れて帰ってくれた。
暫くしてから戻って来たユノは髪を濡らしていて、シャワーを浴びて来た事を知る。
「乾かさないと風邪引くよ」
ユノは何かと風邪を引きやすい体質だから、冬場は絶対に髪を乾かすべきだと口を尖らせる。
「あぁ、分かってる。チャンミンが寝落ちしてないか見に来ただけだって」
尖った唇ごとユノの掌に包まれる。
その手は少し湿っていた。
体も碌に拭かないうちに出て来たのかな?と思ったら、口元が勝手に緩んでしまう。
現金なものだ。
出口の見えないトンネルだと決め付けていた頃だってこの想いは潜んでいた筈なのに。
よく見ようとしなかった僕が悪いんだ。
「ユノ…好きだよ」
ぎゅ、と。ユノの背中にしがみ付くと、コツンと僕の額にユノのおでこが当てられる。
「なぁそれ明日の朝も聞かせて…?」
「う、うん…分かった」
流石に酔っている状態で告白されても信用ならないのかもしれない。
はぁ、と溜め息混じりの息を吐いてユノはパッと僕の頬を離した。
その呼気から溢れたアルコールの匂いが、僕の思考を酔わせるみたいに。
僕を見下ろすユノの壮絶な色香にしばし見惚れた。
すると、いつぞやと同じ。
親指で唇をなぞられる。
「キス、しても?」
顔がぐっと近付いてユノが問う。
「…う、うん」
さっきからユノの色気に圧倒されて、僕は吃った返事しかしていない気がする。
顔なんて火が出そうに熱い。
「目は閉じてな」
こくりと頷いて、言われた通りにぎゅっと目を瞑る。
ドッ、ドッ、ドッ、ドッ。
心臓が口から飛び出しそうに高鳴る。
一度離れた筈の手が再び僕の頬に添えられると、ゆっくりと顔が近付いて来る気配を感じて手に汗を握った。
「っ、…」
人の体温。自分以外の者の熱さが唇に触れる感触に、一瞬電気が走る。
びくりと竦んだ体に、押し付けられていた唇も固まったみたいに数秒お互いに動きを止めていたけれど。
はむと、ユノが唇を柔く食むから再び僕の体に電気が走り抜ける。
「…、ッ、…っ…」
キスの種類で言う所のディープキス一歩手前、濃厚さは一切無いのにユノとの唇の触れ合いだけで僕の思考は蕩けた。
「…髪乾かして来る」
唐突にユノの熱が唇から離れて、物欲しげに僕は咄嗟に服を掴んでしまう。
その仕草にユノは優しく目を眇めると、すぐに戻ると残しておでこにキスを落として行く。
あちこち触れ合う度に自分がどれ程甘やかされてるかも、愛されてるのかも。
ユノの全部から溢れ出て僕を包み込んでいるようだった。
胸に手を当てるとまだ痛いくらいに心臓が高鳴っている。
唇をそっと撫でるとじんっと甘い痺れが再び蘇る。
「…ユノ………」
想いを自覚した途端に僕は欲張りになってしまったようで。
もう既にこの手がユノの温もりを求めている事に口元に自然と笑みがこぼれ出る。
その夜は文字通りにユノの腕の中にすっぽりと包まれて眠りに就いた。
昨日の夜空のようにスッキリとした目覚めとはいかなった僕を、ユノは昨夜同様に甘やかした。
水分を求めた僕の口に、ユノのそれが重ねられて何度も何度も水を与えられた。
しかも寝起きで、髭も目立つ僕をユノは愛おしい物に触れるように包み込んで離そうとしない。
一向に布団から抜け出せないまま、ずるずると目覚めの微睡みをユノの腕の中で過ごす。
「チャンミン、昨日の事…」
目が覚めてからずっとその事が気になってどのタイミングで口にしていいのか、迷っていた所をユノが切り出してくれる。
正直、その所為で眠りも浅かった。
「あのね好きだよ…僕もユノが」
真正面と言うか、腕枕の状態でユノに告げる恥ずかしさたるや。
なんて甘いシチュエーションなんだろうと照れる。
「ん、…っ」
目尻を思いっ切り下げたユノが僕の耳の縁を撫でるので、その擽ったさに身を捩る。
「俺、まだ夢でも見てるのかな…?」
「…うん?」
「チャンミンの事を好きだと自覚してからずっと思い描いてたような出来事の連続で…正直、俺まだ夢でも見てる気がして」
いつも自信に満ち溢れて男らしいのがユノの代名詞なのに、今僕の目の前で瞳を揺らすのも紛れもなくユノなのだという事実に胸が甘酸っぱさで一杯になる。
「…ユノ。ずっと、って、いつから僕の事をそんなに…?」
すると、ふっ、と。
柔らかな笑みを浮かべたユノは「友達だと宣言した時点で多分、もう惹かれてたのかもな」と呟いた。
胸が苦しかった。
そんな風に想いを寄せてくれていた事を知ってしまった今、ユノと過ごした時間を無性に取り戻したい。
「チャンミン…有難うな、応えてくれて」
自然と涙が溢れた。
僕の方こそと、言いたいのに胸が詰まって上手く言葉が紡げない。
「もう少しだけ、このままで…」
僕を引き寄せるユノの体温がじんわりとまた心に染みて、暫く涙は止まる事を知らなかった。

今日はホミンの日♡おめでとう御座います(*˘︶˘*).。.:*♡

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