My Fair Lady #62

「あの、、トゥギさん?」
「はい、何ですかチャンミナさん。ところで歳はいくつ?僕は34歳だけどね」
「あ、じゃあヒョンですね。僕は30歳ですから」
「だろうね。明らかにチャンミナの方が肌艶いいしね」
ニコニコとハンドルを握るトゥギは、最初に目的地の住所をナビに入れるなりいきなりナビの指示に逆らって進み出していた。
今、その逆走の意図を聞こうとしたのにいつの間にか話がすり替えられていて調子が狂う。
「ふふふ…かなり困った様子だね。僕の行動が理解出来ないって顔に書いてある」
「ハイ、全然理解出来てないです、でもトゥギヒョンは悪い人じゃ無そうだから信じてますけど」
「あはは、チャンミナに悪い事したら僕はそっこうクビだよ。じゃあそろそろ理由を教えてあげようかな」
「お願いします」
「君と友人だって言ったのは、僕が管理を委託されているマンションの住人と個人的に付き合ってはいけないって会社の規則があるからなんだ。だから僕は君とあの瞬間から友人になる必要があったわけだね、そうしないとこうして車で送る事さえ出来ないから」
「…あの」
「うん?」
「規則を守りつつ僕と友人になってまで僕を送ろうとして下さってとても感謝しています…けど、どうしてそこまでして、、」
僕に気を掛けてくれたのか不思議でならなかったんだ。
それ程面識があるわけじゃないのに…
「君の背中があまりにも寂しそうだったんだ。呼び止めなればあの雨の中にスッと溶けて消えてしまいそうなくらいにね」
そう呟いたトゥギの横顔は、僕と4歳しか変わらないとは思えない程に大人の雰囲気を帯びていた。
「大丈夫。ちゃんと送るから、だから少しの間だけ目を瞑っててくれるかな」
規則を破ろうとした事に目を瞑れって言ってるのかと思っていたら、どうやら額面通りに目を閉じろと言っていたのでそっと瞼を下ろす。
目を閉じるとそこは夜の闇とはまた違う暗い世界が待っていて、途端に心細さが襲う。
「トゥギヒョン…っ、、」
目を開けようとした瞬間、耳障りのいい音楽が流れ出す。
「チャンミナ、怖くないよ」
トゥギは暗示を掛けるみたいに僕の膝をトントンと軽く叩き、タイトルさえ知らない音楽が心に溜まってしまった澱を除いてくれるようだった。
そして…
何処を走っているのか分からないトゥギの運転は滑らかに僕を眠りに落として行った。
どれくらい寝てしまったのか───
肩を揺すられて重い瞼をこじ開けてみれば、眉尻を下げて苦笑するトゥギの顔が迎える。
「あ・・僕、すっかり寝てしまって…」
「いや、それはいいんだけどね。…チャンミナは帰る家を間違えてしまったらしいね。ほら」
トゥギが、まだぼんやりと思考が回らない僕を気遣いながら車窓の外を指差す。
「あの車はユノ様だね、ナンバーがそうだし」
「っ!?」
ガバッと体を起こして言われた外を見ると、アパートの前の小路に寄せられたユノの車があった。
「僕はここまで。あとは自分で行っておいで」
そう言ってトゥギは僕に傘を渡す。
「トゥギヒョン、、、」
「僕は実は、…ユノ様のいちファンなんだ。内緒だけどね」
と、笑った。
「だから僕にも良くしてくれたんですね…有難う御座います」
そう御礼を伝えて傘を握り締めると、トゥギは首を横に振って見せる。
「それは違う…欲張りかもしれないけど、チャンミナとは純粋に友人で居続けたいんだよ。駄目かな?」
トゥギの目は真っ直ぐに僕を捉え、その瞳に嘘は感じられなかった。
「僕で…いいんですか?」
「勿論!」
ユノをファンだと告白した時よりも、嬉しそうにトゥギは笑って答えた。
雨は幾分か雨足を弱めてはいたけれど、傘を差さずに歩ける程じゃなかったのに。
僕が車に近付いて行ったら、それに気付いたユノが傘も差さずに出て来てしまう。
「ユノッ、、っ!」
慌てて駆け寄ってユノを傘の下に入れると、ユノは僕を見ずにいきなり頭を下げる。
「え、?」
振り返るとトゥギが車から顔を出していたので、ユノはトゥギに頭を下げたのだと分かった。
「ユノ・・・」
「帰るぞ」
だけど、この一言が僕の中のリミッターを振り切った。
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