My Fair Lady #45

一部始終をなんとかヒチョルに話し終えると、ホッとしたのも束の間今度は羞恥心が襲って来る。
出来れば隠しておきたい事だったけれど、ヒチョルはそれさえも見透かしているんじゃないかと考えると、下手に隠し立てするのはよくない気がして…
でもだからって恥ずかしいものは恥ずかしい。
「ユノを好きか。それは別に悪い事じゃない。あの弟は昔から色んなものに好かれるんだ。今みたいに人嫌いになる前は明るくて性格も朗らかだったし」
売れない時代からユノを知るヒチョルが”昔”と語るのは恐らく事故前の事だと確信した。
「あの、ユノはどうして今のように…?僕はずっと海外暮らしが長くて韓国の音楽事情には疎くて、実はユノの事もよく知らないんです」
本人が語る前に他人から聞くのは悪い気がしたけれど、ネットで調べるよりもこうしてユノの身近に居るヒチョルの口から聞き出す機会を逃したくなかった。
ヒチョルは僕の言葉に少し目を伏せると、「先ずはそれを食べてからにしようか」と言った。
チャーハンを一口含むと、あんなに美味しいと思った海鮮が、何だか味気の無いゴムのように感じられた。
それでも機械的に口に運び入れて皿を空にすると、ヒチョルがようやく口を開いてくれる。
「ユノは───」
話の途中まではオーナーから聞いていた事故の事だったけれど、そこから先はヒチョルが間近で見て来たユノの姿であって…
事故自体は事件性無いと警察の検証で明らかにされたのに、それ以来ユノはステージに立って照明を浴びると過呼吸を起こしてしまい。
その場に立ち続ける事が不可能になってしまったと言う。
医者の診断では心因性から来るもので、ユノのように歌う事を要求されている者は失声症に陥る危険性も孕んでいるので歌手活動の休止を迫られたそうだ。
ユノから歌う事を奪ったら・・夢を捨てろと言われてるも同然なのに、、
「───そんな事が、、」
「あぁ、今はだいぶマシになった方かな」
「マシ?」
「そう、あいつは自分の音楽に関わった人、全てを信用出来ないとどうしてか思い込んでしまって。俺やドンへなんかは音楽に関係無くユノと付き合って来た仲だったから幸いだったと言ったらいいのか」
「………」
「それでもユノは音楽から離れる事を選択出来ず、人前で歌うのを辞めると一人で曲作りに没頭し始めたんだ。事務所は怪我の責任もあってか、籍はそのままにしてマネージャーは別のアーティストに付けたりしたけど、そのマネージャーがこっそりとユノの噂を流して”あのユノが今は曲を作ってる”なんて。お陰で業界では結構話題になったらしい」
「そうなんですか…それでユノは作曲家に転身したんですね」
「あぁ。事務所の社長と俺は面識なんて無いけど、元マネージャーはやっぱりユノの人柄に惹かれたクチなんだろうな。ユノが昔の自分を取り戻す事はもう無理かもしれない。だけど一人でもこうして気付いてくれるだけで俺はいいと思うようにしてるのさ」
「………」
ヒチョルの目は僕をすり抜けてベッドに寝ているユノを見ているようなそんな遠い目をしていた。
ユノの過去を知りたいと思ったのに、いざ改めて聞いてみるとなんの言葉も出ない自分が情けなくなる。
「正直、ユノがチャンミン君を面倒見てると知って物凄く俺は驚いていた。確かにユノは酔うといつか自分の手で新人を育ててみたいってそんな願望を口にしてた事もあったが、それは事故前のあいつの言動であって。まさか今頃になって”Haven”のオーナーが持ち出して来るとは・・」
「えっ、作曲家になってからの発言じゃなかったんですか」
ヒチョルの言葉に今度は僕の方が衝撃を受けていた。
そんなに前の話を今頃蒸し返してたなんて全く知らなかったから、、、
「俺もドンヘ達も散々その話をユノから聞かされていたからこうして記憶に残ってるようなもんで。オーナーとユノがどう言う経緯で君を適任だと決めたのかは知らないが、ユノも何か思う事があったのかもな」
「そう、ですか…」
「だからユノにとって、俺達以外で懐に入れた人物は君だけなんだチャンミン君。もう少しユノの側に居てやって欲しい」
ヒチョルはそう僕に頼んでその話を終わりにした。
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