My Fair Lady #31

ホールを出ると関係者以外立ち入り禁止区域を通り抜けて楽屋へとユノは進む。
勝手知ったる庭と言うのか、スタスタと迷いなく歩く足取り。
抱え直された時に思わず僕はユノの首に腕を回していた。
だから顔を上げればユノの表情を見れるんだろうけど、抱えられているだけでもこんなにドキドキと胸が鳴っているんだから。
ユノの顔なんてまともに見たら心臓なんて止まってしまうかもしれないと思って直視出来なかった。
「…重い」
そんな精神状況で舞い上がってた僕にはユノの発した一言が一瞬遅れて耳に届く。
「え、?」
「ここまで来ればもういいだろう。そろそろ降ろすぞ」
そう言うとユノは楽屋まであともう少しという、あまり人気の無い場所に来て宣言通り僕を降ろした。
地に足を下ろした僕は何というか、心が浮ついた分の空虚感が凄くて…
ユノに何を期待してたんだろう、、、
楽屋に居る同僚達に見せ付けたかったとか…?
いっときの夢にすっかりと溺れ切っていた僕は、突如引き戻された現実に戸惑い、ユノの前だと言うのに頬を紅潮させてしまう。
「悪かったな。シウォンが思いの外お前に肩入れしていたから、断ち切るにはああするしか無いと思ったんだ」
そう言ってユノの手が僕の頭にふわりと乗る。
そしてやわやわと不器用な手付きで撫でるから、尚更胸がぎゅっとなって切ない、、、
なのにユノの手を振り払う事も。
違うと、ユノに縋る事も。
僕には到底出来なかった。
ユノとは楽屋の前で別れ、一人楽屋に戻ると案の定待ち構えていた同僚達にからかわれてしまう。
中でも僕と歳の近いダンサーの女の子がしきりに僕とユノの関係性を聞こうとするので、内心うんざりとした。
“事情があってあの場はああするしか無かった”
”僕はユノから歌唱を学ぶ立場”
と、その子に繰り返す度に心に空いた穴がどんどん広がるようでただただ虚しい。
ようやく人が散って、ヒョクに教えて貰った薄付きのメイクを落とすと。
鏡の前で哀しそうに見つめ返す素顔の自分と目が合う。
「お前は何の為にユノの元に居るんだよ・・」
鏡の中で涙を堪えるその不細工な顔を指で弾いてみた。
店を出てユノの車が横付けされていたのを確認すると、数回深呼吸をしてから近付いた。
けれどまだ心の痛みは癒えていない。
車内は暫くお互いに沈黙が続いて、それに耐えきれずに車窓から見える景色をぼんやりと眺めていたら急にユノが口を開く。
「今日は何を考えてあの歌を歌った」
ユノをチラリと見ると前を向いたままハンドルを握って僕の答えを待っているようだった。
「笑わないで下さいね、…ユノとキスした事を考えて歌ったんです」
誤魔化す事も出来たし、嘘を吐いたって良かった。
なのに本音を打ち明ける事を僕は選んだ。
ユノがあの歌を聴いてどんな風に感じたのか、あそこで拍手を送ってくれたオーディエンスよりも何より。
ユノの感想が知りたいと強く思ったから、、
「チャンミン」
不意に呼ばれて顔を上げると、信号は赤に点灯し、ユノの手はハンドルから離れていた。
「っ、」
顎の先にユノの指が触れた瞬間。
僕の唇は塞がれていた。
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