My Fair Lady #30

ドンへとヒョクには来て欲しいと思っていたし、来て貰えて嬉しい。
そしてヒチョルも。
なのに、だ。シウォンは呼んでないのに……あぁ、ヒチョルに付いて来たのかぁ、、
袖から見たメンツに少し動揺してしまったけど、すぐに平常心を取り戻す事に心掛けた。
ユノを介して僕を知ったあのテーブル席の人達の共通点は一つ、僕の歌声を知らないという事。
外見だけに興味を持って来てくれたのなら、その度肝を抜くぐらいの印象を与えたい。
深呼吸をして心を落ち着かせる。
MCに呼ばれてステージのライトが一番当たる場所を目指した───
“Haven”の売りの一つである生演奏を聴かせてくれるバンドメンバーには、事前に一週間分の曲目を伝えておくので、その日の気分でこの曲が歌えないってのは許されない。
だから僕が何気なく選んだ今日の曲がJAZZのスタンダード・ナンバー”prelude to a kiss”なのも偶然の事で。
決して今日起きたユノとの事を考えてこれを歌うに至った訳ではないのだけど…
今までも何度も歌って来た筈なのに・・・
歌詞を噛み締めるようにして歌えている事に心が打ち震える。
頭の中で綴られた歌詞の先を辿りながら腹の底から湧き上がる想い。
切なくて、届かなくて。
焦がれる人と一つに溶け合いたいと偲ぶ恋心を抱えながら。
それでも自分の歌はその前奏曲だと、、
ただ貴方の口付けを待ちわびていると…
今まで、いや今だってユノへの想いを何度も打ち消した。
数日そこらで何が恋だと。
でも、、
この歌を、ユノを想わずして歌う事は出来ない・・・
歌の途中で無意識にそっと唇に触れた。
いまだにこんなにユノとの感触を思い出せるのに、、、
そこに心が通っていないキスだと分かるから、胸が苦しい。
鼻の奥がツンとなって慌てて頭の中からユノを追い出した。
感極まってステージの上で涙を流す歌手も居るだろうけど、お金を貰ってステージに立たせて頂く身としてはグダグダになる訳にはいかないから。
顔を上げて凛とした姿を見せよう。
この想いを明かせないとしても、せめて。
ユノの目に映る僕は貴方の誇りでありたい…っ…
演奏が終わると、一拍置いて拍手が湧き起こる。
それまでホールが静まり返っていた事に僕は気付いて無かった。
いつも野次を飛ばす連中までもが立ち上がって拍手を送っている事態にただ唖然としていた。
そんな中、その熱気の波を掻き分けて一人の男がステージの前に歩み寄る。
ユノだ…
「ちょっと待った!!」
ユノを追い越すようにしてもう一人駆け付けて来た。
シウォン、、、
突然二人の男がステージの前に跪き出したので、ホールに居た客が騒然とし出し。
ステージに立つ僕はどうしていいのか分からずにおろおろした。
すると、流石ベテランと言うのか。
MC担当が空気を読んで場を盛り上げる為に、僕がどちらの求愛を受けるのかと進行を始めた。
「ユノ、、どうして…?」
今日は手に花束を持っていないのに、片膝をついてステージの僕に向かって手を差し伸べている。
「いやぁ感激したよ!是非この手を取って欲しい」
僕はユノに話し掛けてるってのに、答えないユノの代わりにシウォンが横から割り込んで来る。
MCはさっきからどちらの手を取るのかと催促し、客席も悪ノリして囃し立てる。
仕方ないのでこの場を収めるためにユノの方の手を取ろうとしたら。
「ユノはどうだか知らないが、俺は本気だよ。君を泣かせる事はしない。だからどうかこの手を」
言ったシウォンの目がそれを嘘じゃないと語り掛ける。
そんな風に言われて一瞬ユノの手を取るのを躊躇(ためら)った。
「…何を戸惑う」
ユノが口を開いた瞬間、もうすぐ届くと思った手が空を切り。
そして僕の体はステージの下へと引っ張られて行く。
「戸惑う程、シウォンに情でも移ったか?」
見事僕の体を抱き抱えたユノにそう耳元で囁かれて、思い切り首を横に振ると。
「そうだろう。俺もハナからシウォンにくれてやる気なんてないがな」
そう不敵な程に得意げにユノは言うと、僕を抱え直してシウォン、ヒチョル、ドンへ、ヒョクの前を悠々と通り過ぎて行ったんだ。
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