2018_04
03
(Tue)00:00

いとしの癖っ毛#2 -うたた寝-

チャンミンの部屋と俺の部屋は二階建てアパートの二階部分にあって、残りの一部屋にボア姐さんとスグンが住んでいる。

トミーさんは一階にある部屋をふた部屋も使い、舞台で使う道具や衣装を保管させて貰っているらしい。

トミーさんは大抵部屋に籠って脚本を書くか、飲むかの毎日で。
ネタになりそうな話題があればと住人達のよもやま話に首を突っ込みたがった。


そして、一階部分の残りの一部屋にキーちゃんが住んでいる。

自称夜の蝶のキーちゃんは朝方帰宅して日中は睡眠を摂り、夕方になるとアパートの住人に手料理を振る舞ってから夜の街へと出掛けて行く生活を送っていた。


ボア姐さんは女手一つでスグンを育てる為にキーちゃんと同じ水商売に転身したらしいが、歌う事への情熱を捨て切れずにジャズバーに席を置いて貰っていると話していた。


そして同居人で俺の恋人のチャンミンはと言うと。

大学を卒業したら普通にリーマン街道まっしぐらかと思われた周囲の期待をよそに、何故かいきなり物書きの道に進み始めてしまっていた。

日がな一日、パソコンの前でぽちぽちしているのがチャンミンの仕事なので、自分が休みだとしても俺は決してチャンミンの邪魔はしないと決めていた。






と、俺は、決めていたんだけど…




「ユノーッ!今日は何して遊ぶ!?」

鍵の掛かっていない玄関のドアをスグンが思いっ切り開けて入って来るのはまだ許す。
そして遊ぶ為に俺を誘うのも大丈夫だ。

だけどな、スグン。
勝手にチャンミンと俺の間に割り入って座るのはどうかと思うぞ、、、

出版社の締め切りに追われて昨夜も殆ど寝ていないであろうチャンミンは蒼白な顔でパソコンと向き合っているからって、俺はその隣で大人しく読書をしていたってのに…


「な、スグン。外行こうぜ」

「は?ユノ何言ってんの。この雨でどこで遊ぶんだよ」

「どこって、、デパートとか…」

「やだよ。だって母ちゃんが寝てんのにお小遣い貰いに行けないじゃん。それよりもこの前約束したやつやろうよ!」

「あー・・・あれかぁ、、?」


お小遣いぐらい俺が出してやるよって言葉を咄嗟に飲み込んだ。
ボア姐さんから下手にスグンを甘やかしてくれるなとキツく言われてるからだ。


「チャンミン、ここで邪魔にならないようにするから遊んでいいか?」


「・・・どーぞ」


抑揚の無い声だけど、チャンミンの了解は得たので安心して俺はスグンと遊ぶ事にした。











「ギャハハっ!ひでぇ~ほんとユノの絵って、腹痛いッ!!チャンミン見て!見て!」

「あ、こらっ!チャンミンの邪魔すんじゃねぇよ!?」


スグンのリクエストで巷で流行中の漫画のキャラを描いただけなのに…


「うーん・・?ブッ、ゆのっ、、相変わらず…アッハ、アッハハ!!」

さっきまでの青白い顔を赤に変えてチャンミンは腹を抱えて笑い転げた。


「な、、!?チャンミン!お前まで何なんだよッ///」

久々に描いたからあれだけど、俺だって結構真面目に頑張ったつもりだ!
それをこんなに笑うとは失礼な奴らめッ。



「ひぃ、、涙出るッ…おかしいな?僕はユノの絵に対して免疫ある筈なのに、、、破壊力凄まじいねほんと」

「…うるせぇなこれでも必死だっつーの」

「うんうんごめん。で、これ何描いたの?イエティ?」


そこでまたスグンは盛大に吹き出した。

「ち、ちがう、、漫画のキャラっイエティって、、お゛ながいた゛い~~~」

スグンは笑い過ぎて涙まで流している。



は?
チャンミン。マジで言ってんの…?

床に笑い転げるスグンに反して俺の表情が思いの外硬かったらしく、チャンミンは若干焦りだした。

チャンミン優しいしね。俺の事ラブだもん。

当てなきゃ恋人の沽券にかかわる重大な事だとでも思ってんのかね。


「スグン、、ヒント頂戴!」

俺の顔をチラッと盗み見ながらチャンミンはなんとかスグンからヒントを聞き出そうと必死だ。


…マジで?見てわかんねぇの、、?

スグンは『ハガレン』と、大大大大ヒントをチャンミンに与え、それを聞いたチャンミンは迷う事なく。

「アルだ!でしょ!?」

と、叫んだ。

















正解は、エドですけど?




















しこたま笑って涙を流したスグンとチャンミンに罰として、スラダンの流川を描かせてみたら俺と似たり寄ったりの画力かと思われたので。
その旨を二人に伝えたら口を揃えて『どこが!?』と噴気しやがった。

そんな二人もよっぽど笑い疲れたのか、昼間の窓から降り注ぐ陽射しに包まれて眠り込んでいた。

「やっと静かになったな。よしそろそろ起きた頃だろ?」

チャンミンは昨夜の寝不足でまだ当分眠りこけるに違いない。
俺はその間を利用してある事をやってみようと密かに企んでいたんだ。

その企みは決して俺一人じゃ出来ないので、協力者が目を覚ますまで今日は大人しくしていたのだけど…




「キーちゃん、起きてた?ごめんね」

「ん~大丈夫~。今日約束してたもんね、上がって上がって~」

寝起きとおぼしきキーちゃんはちょっと気怠げで変なフェロモンを撒き散らす。
俺の寝起きと大違い、全然髭が見当たらないんですけど。



「チャンミンさんには何て言って出て来たの?」

洗顔し終えたキーちゃんはむきたて卵みたいなツルピカのお肌を俺に晒す。

「あー、チャンミンには言ってない。っていうか今は部屋でスグンと昼寝してるから大丈夫」

「あっそうなの?じゃあちゃっちゃとやってしれっと戻ったらいいのね」


俺の腕にするりと絡み付くキーちゃんの身体からは女性っぽい匂いがした。
ウィッグを被る前の短髪は男そのものなのに、キーちゃんは全身で女の色気を醸し出すから妙にそわそわしてしまう。

「やだぁ~取って食わないわよ~。だってユノさんは私のタイプじゃないんだもん」

「俺だってそんなの分かってるよ///!キーちゃんはあれだろ、ト、」

「シャラップ!!」


トミーさんが好きなんだろ?って口を滑らす前に鬼の形相と化したキーちゃんに阻まれて俺は口を閉ざした。

ボア姐さん曰く、乙メン心はナイーブなんだっけ?
取り扱い要注意でした、反省します、はい。



「えっと、ユノさんって包丁持った事あるかしら?」

貝のままで首を横に振ると、キーちゃんはピーラーを俺に手渡してジャガイモの剥き方を教えてくれた。




そうなんだ。

今日、俺は密かにチャンミンの為を思って手料理を作ってあげようと企んでいたのである!

その協力者としてキーちゃんに前々から相談を持ちかけていて、決行の日が今日なわけで…
締め切りと戦うチャンミンに滋養強壮作用がある食べ物を口にしてもらいたくて…



「ユノさん、、、、、」


「ん?」


俺の手元を覗き込んだキーちゃんがわなわなと震えている。

一体どうしたんだ?



「は、、、」

「は?」


ガシッと手を強く握られてドキッとした。
案外キーちゃんって握力強いし。


「ハウスよッ!ユノさん!?戦力外にも程があるからっ!!」


「え!?なに、、」










ものの10分も経たないうちに戦力外通告を受けた俺は、ピーラーを握りしめたままで部屋を追い出されてしまった。


「ハウスって……キーちゃん、、、」












すごすごと言われた通りに部屋に戻ると、そこにスグンの姿は消えていた。
その代わりにテーブルの上に書き置きのメモがあって。

“ユノ画伯へ。じゃましてごめん”

俺が小6の時に画伯なんて字を知らなかったのにな…とか、つい変な所に感心をした。



「邪魔じゃなかったよな?なぁ、チャンミン」

うねりのある癖っ毛を指で梳いて頭を撫でてもチャンミンはピクリともしない。

「久々に笑ったチャンミンを見れたもんな。ま、笑い過ぎだったけど」

撫でながら体をチャンミンに寄せると、その顔がほんのり赤らんでいた。



耳の縁、真っ赤だし。








俺の存在をこんなに喜んでくれるのはチャンミンだけだ。
絵も料理も壊滅的に駄目なのに、ほんと、俺の何がいいのか。


「俺の帰る家はやっぱりここなんだよな?」


無言なのに、だけど無意識のうちに口の端を上げてしまったチャンミンが愛おしくって。





俺はそっとその唇にキスをした。








「柔らけぇ…」








その日、久しぶりにチャンミンの涙を見た。

ぶわっと子供みたいに感情を溢れ出したチャンミンを。





そんな姿を、俺は素直に好きだと思った。






俺達は初めてキスをした。







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