いとしの癖っ毛#1 -お前と俺の関係-
俺には6年付き合ってる恋人がいて。
付き合うきっかけを作ったのは向こうだった。
『ヒョンを好きになってごめん』
高校卒業と共にソウル市内の大学に進学をする事になり春には離れ離れになる事が決まった長年隣の家に住んでいた幼馴染みであり、血の繋がりは無いけれど実弟のように可愛がっていた、そんなチャンミンからの─────
まさかの告白。
俺は馬鹿だからそれを冗談だと思って笑ったんだ。
だけどチャンミンは覇気の無い声で『ごめん』って俯いて…
その時、俺は咄嗟にチャンミンの腕を掴んで必死に何かを喋った。
じゃないともう本当にチャンミンが俺の前から消えてしまうと思ったから。
嬉しいって言ったのは覚えてる。
『それなら付き合って』…そうチャンミンは俺に言い、それに対して俺は『あぁ』って答えた。
…多分。
チャンミンは俺の気持ちが恋じゃ無いって分かってた筈だ。
チャンミンが大学生活を送っていたのはソウルと言っても郊外の方で、学生ばかりが集まる場所って感じじゃない。
だからか、チャンミンが祖父から任されて大家をしている築40年のアパートには色んな事情を抱えた人々が集まっていた。
ニューハーフのキーちゃんにシングルマザーのボア姐さんと息子のスグン。
あとは小劇団の監督兼脚本家兼俳優のトミーさん。
皆んなチャンミンがお世話になった縁でアパートに住むようになったって聞いてる。
謂わばチャンミンの恩人だ。
そこに更に付け加えるなら…俺が6年間、チャンミンとの関係に躊躇している間を支えてくれた人々である。
6年間放っておいていたのを重々承知の上で、そんな俺の入居をチャンミンは許してくれた。
4年間はチャンミンの大学生活が忙しいだろうから…
その後の2年間は社会人として慣れる為に…
要はチャンミンとの距離を詰める事を躊躇した言い訳に過ぎない。
正直、急にソウルの本店に異動になった時、俺は逃げられないと悟った。
チャンミンにその旨を伝えると、アパートに空きがあるから住んだら?ってあっさりと俺を招き入れた。
俺の部屋はチャンミンの部屋の隣だと聞いていたのに、付き合ってるのに別々に居るのはおかしいと住人達が口々に言うので一緒に住む事にしたのだけど…
チャンミンとは付き合ってから何度か帰省した時にデートらしきものをしただけでキスも未だ。
手すら繋いで無い。
清い交際を6年間続けた俺は26歳の今、転機を迎えようとしている。
「ヒョン、折角だし。一緒に寝ない?」
チャンミンは光州の実家の部屋もそうだけど、このアパートの部屋もいつも小綺麗にしていて。
俺が一緒に過ごさせて貰っていても全く狭さを感じさせない部屋の作りをするやつだった。
だから、てっきり、布団は2枚敷くもんだとばかり、、、、
「嫌ならいいけど」
俺が返答にまごついている間にチャンミンは押入れから布団を引っ張り出そうとしていた。
「お、…俺は嫌じゃ無いけど!でも、、」
「でも、何」
「俺寝相悪いし…」
「そんなの知ってる、何年の付き合いだと思ってんの」
12年。
チャンミンが父親の転勤でソウルから光州の俺の家の隣に引っ越してから今までで12年だ。
チャンミンの人生のきっちり半分を俺が占めたんだ。
「僕だって言うほどそんなに寝相良くないじゃん」
「だな!寝惚けたチャンミンに何回殴られたか分かんないぞ俺」
「…ごめん、夢の中でラスボス倒す為に必死でさ。起こしてくれてんのがヒョンだって分かってれば絶対に殴らないんだけど、ね?」
「お、おぅ…そんな気にしてねぇよ。昔の事だし」
「…ありがと」
ね?って上目遣いで俺を見上げていた時にはもう既にチャンミンに布団に引き摺り込まれていた。
ハナから布団をもうひと組出す気なんてさらさら無かっただろ?
俺の知っているチャンミンってこんな感じじゃなかった。
小6で光州に来たチャンミンはすぐに中学に上がって、二学年上の俺とは一年だけ同じ校舎で時間を共有したんだ。
その頃のチャンミンは目がやたらくりくりと大きくて癖っ毛の髪をセットすると言う事も知らずにほんと自然体だった。
人見知りは最初から激しくて、だけど周囲はそんなチャンミンが可愛いくて仕方がなくて。
そっとしといてくれなかったっけ。
本人は目立つ事を嫌っていたのにもてはやされる人生を歩んで来たチャンミン。
沢山の女の子に言い寄られていたのを俺は知ってるんだぞ。
もしかしたらソウルと言う都会で女の子だけじゃなくて男にも言い寄られたりしてたんじゃないのか?
「…ヒョン。もっとくっ付いていい・・?」
「……あぁ」
俺のどこがそんなに。
チャンミンの顎が俺の鎖骨に埋もれて。
膨らみのない俺の胸とチャンミンの胸がくっ付いた。
俺でいいのかなって心底思う。
だけどその答えは高鳴るチャンミンの心音が教えてくれる。
どくどくどくどく、って。破裂するんじゃないかって程に煩く俺の胸をチャンミンの胸が打つ。
「チャンミン…心臓はやいね…」
「ん、っ」
今、唾を飲み込めなくて返答出来なかったでしょ。
それって心臓が口から飛び出そうなくらいに緊張してる時になるよね。
俺の背中に回ったチャンミンの腕はぎこちなくてカタカタと小刻みに震えていた。
余裕ぶって俺を招き入れて、そのくせ触れられてるだけでこんな反応を見せてくれるなんて。
「……チャンミン…」
本音で愛おしいと思う。
それがチャンミンと同質の想いじゃないとしても、俺は腕の中で震える身体を心から愛おしかった。
そっと背中を摩るとチャンミンはあからさまに腰を引いた。
「おやすみ」
「あぁ…おやすみ」
ごめんな、チャンミン。
まだお前の気持ちに追い付けないんだ。
いつかチャンミンと同じ反応が俺にも現れるその日まで。
もう少し、もう少し。
待っててくれ。
※ 雲/田/はる/こさんの「いとしの/猫っ/毛」より設定を少しお借りしてます。
ですがこの作品はオリジナルです。
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付き合うきっかけを作ったのは向こうだった。
『ヒョンを好きになってごめん』
高校卒業と共にソウル市内の大学に進学をする事になり春には離れ離れになる事が決まった長年隣の家に住んでいた幼馴染みであり、血の繋がりは無いけれど実弟のように可愛がっていた、そんなチャンミンからの─────
まさかの告白。
俺は馬鹿だからそれを冗談だと思って笑ったんだ。
だけどチャンミンは覇気の無い声で『ごめん』って俯いて…
その時、俺は咄嗟にチャンミンの腕を掴んで必死に何かを喋った。
じゃないともう本当にチャンミンが俺の前から消えてしまうと思ったから。
嬉しいって言ったのは覚えてる。
『それなら付き合って』…そうチャンミンは俺に言い、それに対して俺は『あぁ』って答えた。
…多分。
チャンミンは俺の気持ちが恋じゃ無いって分かってた筈だ。
チャンミンが大学生活を送っていたのはソウルと言っても郊外の方で、学生ばかりが集まる場所って感じじゃない。
だからか、チャンミンが祖父から任されて大家をしている築40年のアパートには色んな事情を抱えた人々が集まっていた。
ニューハーフのキーちゃんにシングルマザーのボア姐さんと息子のスグン。
あとは小劇団の監督兼脚本家兼俳優のトミーさん。
皆んなチャンミンがお世話になった縁でアパートに住むようになったって聞いてる。
謂わばチャンミンの恩人だ。
そこに更に付け加えるなら…俺が6年間、チャンミンとの関係に躊躇している間を支えてくれた人々である。
6年間放っておいていたのを重々承知の上で、そんな俺の入居をチャンミンは許してくれた。
4年間はチャンミンの大学生活が忙しいだろうから…
その後の2年間は社会人として慣れる為に…
要はチャンミンとの距離を詰める事を躊躇した言い訳に過ぎない。
正直、急にソウルの本店に異動になった時、俺は逃げられないと悟った。
チャンミンにその旨を伝えると、アパートに空きがあるから住んだら?ってあっさりと俺を招き入れた。
俺の部屋はチャンミンの部屋の隣だと聞いていたのに、付き合ってるのに別々に居るのはおかしいと住人達が口々に言うので一緒に住む事にしたのだけど…
チャンミンとは付き合ってから何度か帰省した時にデートらしきものをしただけでキスも未だ。
手すら繋いで無い。
清い交際を6年間続けた俺は26歳の今、転機を迎えようとしている。
「ヒョン、折角だし。一緒に寝ない?」
チャンミンは光州の実家の部屋もそうだけど、このアパートの部屋もいつも小綺麗にしていて。
俺が一緒に過ごさせて貰っていても全く狭さを感じさせない部屋の作りをするやつだった。
だから、てっきり、布団は2枚敷くもんだとばかり、、、、
「嫌ならいいけど」
俺が返答にまごついている間にチャンミンは押入れから布団を引っ張り出そうとしていた。
「お、…俺は嫌じゃ無いけど!でも、、」
「でも、何」
「俺寝相悪いし…」
「そんなの知ってる、何年の付き合いだと思ってんの」
12年。
チャンミンが父親の転勤でソウルから光州の俺の家の隣に引っ越してから今までで12年だ。
チャンミンの人生のきっちり半分を俺が占めたんだ。
「僕だって言うほどそんなに寝相良くないじゃん」
「だな!寝惚けたチャンミンに何回殴られたか分かんないぞ俺」
「…ごめん、夢の中でラスボス倒す為に必死でさ。起こしてくれてんのがヒョンだって分かってれば絶対に殴らないんだけど、ね?」
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「……あぁ」
俺のどこがそんなに。
チャンミンの顎が俺の鎖骨に埋もれて。
膨らみのない俺の胸とチャンミンの胸がくっ付いた。
俺でいいのかなって心底思う。
だけどその答えは高鳴るチャンミンの心音が教えてくれる。
どくどくどくどく、って。破裂するんじゃないかって程に煩く俺の胸をチャンミンの胸が打つ。
「チャンミン…心臓はやいね…」
「ん、っ」
今、唾を飲み込めなくて返答出来なかったでしょ。
それって心臓が口から飛び出そうなくらいに緊張してる時になるよね。
俺の背中に回ったチャンミンの腕はぎこちなくてカタカタと小刻みに震えていた。
余裕ぶって俺を招き入れて、そのくせ触れられてるだけでこんな反応を見せてくれるなんて。
「……チャンミン…」
本音で愛おしいと思う。
それがチャンミンと同質の想いじゃないとしても、俺は腕の中で震える身体を心から愛おしかった。
そっと背中を摩るとチャンミンはあからさまに腰を引いた。
「おやすみ」
「あぁ…おやすみ」
ごめんな、チャンミン。
まだお前の気持ちに追い付けないんだ。
いつかチャンミンと同じ反応が俺にも現れるその日まで。
もう少し、もう少し。
待っててくれ。
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