Yes, my lord.〜執事の素性〜#5

玄関で撫でられたシャンパンゴールドのル◯バは何処か誇らしげに見え。
僕も執事としての自分の立ち位置を取り戻そうと気持ちを切り替えた。
のだが…
ユノ様に続いて2階に上がると、また少しの段差に乗り上げて動けずに固まる赤いル◯バの茜が目に留まり。
「お前の担当はこの広い廊下だと言うのに…」
確か、以前もユノ様のお部屋の前でこうして茜は固まっていたような気がした。
段差から外してやると、ユノ様のお部屋の前の廊下を茜はくるくると行き来し出す。
「茜はシックな配色な為、この廊下を任せたが。何故か偶にこうして俺の部屋の前で動けずに固まってる事が多くてな」
やはり僕だけでなく、ユノ様も何度か固まる茜に遭遇している御様子。
「似たような段差は他にも御座いますのに、何故毎回この場所なのでしょうか?」
「…さぁな。それは茜にしか分からん事だろう」
キビキビと無駄のない動きをする茜に、ユノ様は目を眇めてそう仰ったのだ。
「では私はこれにて失礼致します。何か御用が御座いましたら何なりと申し付け下さいませ」
「あぁ、分かった」
自室のドアを開けてユノ様がお部屋に入られるのを見送るつもりで廊下で見守っていると、少し開いたドアの隙間から華やかなピンク色のル◯バがちらりと姿を現わす。
パー子はユノ様のお部屋の中を担当しているのか…
身体が半分お部屋に入った所で、ユノ様がくるりとその身を反転させ。
「休日に付き合わせて悪かったな。ゆっくり休んでくれ」
そう言い残して、そしてバタンとドアを閉めてしまうのだ。
「あ…」
ドアの前で棒立ちの僕の脚元に、コツンと何かがぶつかり。
視線を下げると、そこには茜が固まって居た。
「お前…センサーが故障しているのかもな」
声を掛けても、ジッとそこから動かない茜はまるで部屋の外に取り残された僕を慰める為に寄り添っているように思えてしまう。
「ユノ様のお部屋に入れないのはお前もか…」
よしよしと、茜を撫でる。
先程ちらりと姿を見せたパー子が決して憎い訳では無いが、ユノ様に囲われてる事が僕にとって羨望に値するのであった。
それ故、つい茜に感情移入してしまい…
「チャミ子、ファイティン」
《チョン・チャミ子・茜》と、ミドルネームまで付けてしまったのだ。
いつかお前だけはユノ様のお側に仕えられる様に僕がサポートしてやるからな…
そっと固まるチャミ子を抱き上げて心の中でそう誓った。
「チャンミン君、少し時間を頂けますか?」
「イ・ソジン様……っ…」
声を掛けられたのは自分の部屋へと戻る途中だった。
イ・ソジン様が僕を待ち構えていたかのように廊下の隅にいらっしゃったのだ。
「お部屋。宜しいですか」
「は、い…」
僕は先にイ・ソジン様に部屋へと招き入れようとドアを開けると。
イ・ソジン様は腕の中のチャミ子を一瞥してから部屋へと脚を踏み入れた。
「センサーの故障かと思いまして」
部屋を見回すイ・ソジン様の背中に向かって話すと、こちらを振り返らずにこう仰った。
「故障なら、替えをまた用意せねばですね」
抑揚の無いその声を耳にして、僕は背中に嫌な汗が走った。
チャミ子に自分の姿を重ね見て。
ゾクッと寒気がしたのだった。

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