【ホミンホ合同企画ミーアゲ】雲竜風虎#1

その日、屋敷に漂う緊張感は半端なものじゃない事ぐらい俺にだって分かっていた。
刻々と時間が過ぎて行くのを誰もが歯痒く思うばかりで。
世の中、どうにもならないものってのがあるんだなって…
忌々しく呟いた時にそれまでの静寂を破る怒気をはらんだ声が屋敷中を震わせた。
「若、じゃなかった。組長のお帰りですか」
「あぁ。えらく御立腹の御様子と見た。まぁ、察してはいたがな…。ミノ、お前は奥座敷に控えておけ。何かあれば直ぐに組長の元に駆け付けられるようにな」
「はい、承知しました」
数ヶ月前まで、俺は本宅におられる先代の組長に仕えていた身で。
まだこの別宅には不慣れな所がある。
それでも先代の組長の傍付きを長らく勤め上げた父の影響の所為で、襲名を終えたばかりの現組長の周辺の警護を任されると言う大役を担ってしまっていた。
そう言うポジションは主従関係を最も重視するであろうこの世界において、自分が適しているとはいまだに思えない。
勿論、先代の組長に心酔していたってのも理由の一つではある。
けれどそれ以前に俺は、新たな主である現組長に密かに嫉妬をしていた。
組長に対し、絶対忠誠で己の命を捧げる身でありながら…
あれは数ヶ月前、現組長の襲名披露まで遡る。
先代の組長には本妻の他に妾の子やら何やらと血縁者は多くいたらしいが、皮肉な事に男児は現組長だけしか産まれなかった。
そうなると本妻の子でなくとも早々に跡取りとして育てられ、現組長に跡目を継がせる先代の親分の考えに対して異論を唱える者など現れる筈も無く。
産まれながらに最高地位を約束されていた為か、27歳と言う若さで若衆のトップである若頭の座を当たり前ように就任した経歴も皆納得の元であった。
襲名披露の儀式は組事務所の大広間で行われ、各関係者が見守る中で進められる。
粛々と口上を述べる現組長は紋付羽織袴をビシッと着こなし、32歳と思えぬ威風堂々としたオーラで他を圧倒させた。
儀式が終盤に差し掛かるとあれ程ピリピリと張り詰めていた場の空気はすっかり和やかな雰囲気に変わっていた。
元々、先代の組長が御歳70を迎えるにあたり、隠居の意向を示しての跡目相続であった為、一切ギスギスとした様なものは無かったのだ。
ゆえに、その雰囲気はまるで挙式後の披露宴のような穏やかさでもあった。
俺はそんな中でもずっと先代の組長の傍に控えていた。
跡目を継いだ組長は祝いの盃をあらかた受け終えて皆の談笑に耳を傾けている。
その様子を横目で伺いながら自分と大差ない歳の組長と言う存在を盗み見ていたんだ。
この時点で俺はもう組長付きの立場だったが、過去にそれ程接触の機会が無く、とても遠い人に思えていた。
その人の顔から一瞬、笑みが消えた瞬間。
静かに口元が開き始める。
「談笑の所、水を差すようで申し訳ありませんが。本日、お集まり頂いた皆様にもう一つ、この場をお借りして私から御報告が御座います」
まさか、その場の雰囲気に乗じて組長が組の存亡を揺るがす重大発表を行おうとは誰しも思わずに。
ただポカンと酌をしていた者さえ手を止めて組長の言葉に耳を澄ます。
「控えの者を、こちらへ」
口上の時も感じたけれど、低いが良く通る良い声だった。
皆が組長に倣って視線を最も上座に近い入り口へと移すと。
す、す、すと三度に分けて襖が開き、開いた隙間から膝を折って床に額をつける着物姿の人物が見えた。
それに伴って上座の組長が立ち上がるのは同時のタイミングだった。
「顔を上げて入れ」
皆の視線が一斉にその者に集中する。
「…はい。失礼致します」
その声に緊張感が一層高まり、空気がピンッと張り詰め出していた。
静々とした動作でつけていた額を床から離すと、完全にはまだ顔が見えないにもかかわらず上座に近い席の方からどよめきが起こる。
「おぉ、これ程までとはな…」
先代の組長も堪らずと言った様子で息を吐くのを俺は不思議に思い、思わず尋ねてしまっていた。
「おやっさんも御存知では無かったのですか?」
「あぁ。あやつ、儂には男色の気が無いのをよう知っとるくせして今日まで顔を見せようとはせんのだ。そのくせ跡目を継ぐ条件として自分が選んだ伴侶を絶対に譲らんときた、全く誰に似てあれ程強情な性格になったもんだか」
「はぁ、…そうでしたか」
「しかし。まぁ、あれだけの者に魅入られればそのように頑なになるかもしれんなぁ」
ほうっと、溜め息を溢しながら顎下の白い髭を摩る姿は先代の組長と言うよりは好々爺そのものだ。
昔から付き人をしていた父の側でうろちょろしていた俺を先代の組長は孫かと疑われる程に可愛がってくれた過去があり。
その延長で随分身分差のある俺にも自分の事を《おやっさん》と気安く呼ばせていた。
勿論、一見好々爺にも見えるこの先代がトップの座を守り抜く為にどれ程の伝説を残して来たのかも重々承知でいる。
けれどそれでも俺はおやっさんの持つ慈悲深さに心酔して今の関係があった。
それに比べて。
現組長と俺の繋がりは希薄過ぎて襲名披露を迎えた今もこうして心が追い付こうとしていなかった。
そんな組長が魅入られた者に対しても関心は薄く、周りのざわつきが一層高まる中でも俺の視線はおやっさんか組長にしか行かない。
だからこそ、気付くのか一歩も二歩も遅れを取った。
その差が俺と組長の違いだと、全く気付きもせずに…
「改めましてこの場をお借りし、私めの伴侶となる者を皆様の前で御紹介させて頂きます」
やはり初耳だったのか。
場が一気に動揺の空気に包まれて行く。
無論、組長の脇に控えながらも半歩後ろに下がっている者が見るからに男だと分かるからこそのどよめきだった。
しかし、俺には組長の姿に遮られてその顔は見えないのだが。
「ほほほ、話の腰を折って済まないな。ちと儂から先に説明が必要であろう」
よっこいしょと膝に手を付いて立ち上がったのは先代の組長だった。
先程、俺に話した様な事を皆の前でも言って聞かせると。
それぞれに複雑な表情を見せてはいたが、先代と現組長の間で交わされた約束ならば誰しも口を挟む事など敵わぬと言った様子で押し黙った。
「申し訳御座いません。…先代のお手を取らせました」
「いや、いい。これぐらいの事だ。しかしお前は誰に似てそう口下手になったのかのぉ。もう少し言葉を付け足さんとそっちの別嬪さんにもいつ愛想尽かされんか分からんぞ」
ふぉふぉふぉと、おやっさんの笑いでまた場が和む。
しかし、それに反して組長の口が真一文字に結ばれるのを俺は見逃さなかった。
「その口下手ゆえに先代の様に幅広く情をかける事は私には不可能で御座いまして。この者もそれを重々承知しております。御心配には及びません」
「そうか、要らぬ心配だったか!ふぉふぉふぉ!」
こうなると遠回しに厭味の応酬と言うか、ただの親子喧嘩に俺も皆も苦笑いしかない。
だが、そのやり取りを聞いてクスッと組長の隣で笑う声に。
先程よりも上座の組長に近付いていたおやっさんの相好が一気に崩れて行く。
「早う紹介してやれ、この別嬪さんを」
半歩下がっていた身体をおやっさんが捕まえて前に引き摺り出した途端。
ピキッと組長の額に青筋が入ったのをまたまた俺は見逃さなかった。
「先代が腰を折るから先に進めずにいたのです。先ずはその手をお離し下さい。皆の者に見えません」
「おぉ、お前が嫉妬するなんぞ良いもん見せて貰った!こりゃ冥土の土産か」
茶化しながら退がる先代に、密かに舌打ちしていた組長も俺は見逃さない。
今日は儀式の為に大人しくしているが、普段の言葉遣いは荒い人なのだ。
「では、先程の続きですが…」
促される様に前に出された伴侶になろう人物を組長が紹介をしていたのだが───
ち、ゃんみんさん…?
漸く。
俺は組長の隣に立つ人物の顔を仰ぎ見ていた。
遅かった、一歩も二歩も、何歩でも足りない程に俺は遅い………
時が5年、10年、15年、と思考の中で巻き戻されて行く。
変わらないと思った。
あの頃とちっとも変わらない美貌で、その人は俺の目の前に現れただけだと。
「お?ミノの知り合いか」
いつの前にか定位置に戻っていたおやっさんに覗き込まれてハッと我にかえる。
この人は千里眼かと思う程に勘が鋭い。
隠し立ては無用と考えて素直に肯定する。
「…そうか」
それっきり、根掘り葉掘りと尋ねもせずにおやっさんが静かに瞼を閉じた。
それだけで俺の全てを察してしまったのではないかと。
冷たい物が背筋を伝って行き、ただただ身を硬くしたのだった。
チャンミンお帰りなさい、兵役お疲れ様でした(´•̥̥̥ω•̥̥̥`)♡
貴方の戻る場所はやはり東方神起ですね…♡
今回のイメージ画像も同企画に参加されているホミンを愛でるAliの小部屋のAliさんにお願いをしてお借りさせて頂いてます♡
いつも素敵な加工画像を有難う御座います( *´艸`)♪
#1から#3までミノが主人公になります。
おまけかな?最後の四話目がチャンミン視点です。
チャンミンお帰り!企画面白い!と思われた方はぽちっとお願い致します♪
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