2017_08
13
(Sun)00:00

Yes, my lord.~試用期間にて~#4








昼にまた厨房を覗いたがチャンミンの姿はもうそこには無かった。

だが、チャンミンが腰掛けていた料理長の丸椅子が珍しく隅に片付けられずに出しっ放しだった事に気付き、思わず頬が緩む。

「相当今日はダメージが重いらしいな」

丸椅子の座面を木目に沿って撫でては、先刻触れたチャンミンの髪の毛を思い出していた。

普段はあの癖のある髪の毛を上手く固めて執事らしく見せてはいるが、オフの姿はまだ学生でも通用する若々しさがあったな…

確か…俺と誕生月が同じ筈だからまだ28歳だったか。

二年前の自分もあのように眩しい程の瑞々しい肌をしていただろうかと、チャンミンを見る度に思う事がある。

「俺もそろそろ食事には気を配る必要があるのか…?」

チラリと冷凍庫に目を向けて唸ったその時、微かな物音がして厨房の入り口の方を向くとそこに人影が見えたのだった。

「誰だ」

じいかと思っていたが、声を掛けられて顔を出したのは今の今まで俺の意識を支配していたチャンミンであった。

「…失礼致します」
「チャンミンだったか。…あぁ、俺がここに居ると厨房が使い難いだろう」
「いえ、ユノ様が終わるまで私は幾らでも待ちますのでお気にせずお使い下さい」

朝よりも言葉遣いに執事らしさを取り戻したチャンミンに少々がっかりしたが、酷い寝癖は直しても直しきれなかったらしく。
ピンッと跳ねた髪の毛がやけに愛くるしい。

「待つと言っても俺はただレンジで温めて終わりだ。そんなに時間は掛からないから安心していい。それよりもチャンミンの胃は落ち着いたのか?」

見れば顔色は朝と打って変わって血色が良い。
敢えて聞かずとも分かったが、念の為の確認だったのだが…


"ぐぅ。"

はい、と答えようとしたチャンミンの口の代わりにその腹が素早く鳴った所為で俺は腹を抱えて笑ってしまう。

「そうか、、ははっ!分かった。少し待て、確か二人分の…あった、これだこれにしよう」

主に俺が食べる用の冷凍食品達を漁ると探していた物が見つかり、テキパキとパッケージの指示通りに解凍時間を電子レンジに入力し終える。
そして更に二人分の食器を用意し始めると、チャンミンはやっと意図が分かったのか大いに慌て出した。

「ユノ様、、!私の分までなど御準備されなくても結構で御座います。どうか御自分の御昼食だけを…」
「馬鹿を言うな、こんなに大量のパエリアを一人で食べ切れる筈が無いだろう。それともチャンミンは魚介が苦手か?」

パエリアが入れられてあった袋には3~4人前とデカデカと書かれてある。
それを目の前に突き付けられたチャンミンは困った顔をしたが、電子レンジから漂い出した魚介の香りに生唾を飲み込むのを俺は見逃さなかった。

「どうなんだ。苦手なら俺もこれ以上無理強いはしないが」

加熱完了の電子音が二人の会話を遮り、仕方無く温め終わったパエリアを取りに行こうと背を向けた俺にチャンミンが何か呟いた気がして振り向くと。

「…サラダを」
「ん?サラダ…?」
「私は魚介も大好きですっ!!ですからパエリアは喜んで御馳走になりたいと思います!その御礼として私もサラダを用意して来ます!!!」

言うが早いか、チャンミンはパパッとあり物の野菜で彩り豊かなサラダを作り上げて戻って来る。

「ふふ」
「…何ですかユノ様、、」

俺と接する時の執事のチャンミンは物言いに淀みが無い。
もしくは冷たい印象さえ抱かれがちなのに…

目の前のこのチャンミは何と例えたら良いのか迷う程に…そうだ、とことん愛らしいのだ。

「いや。常にこれだと俺も面食らうが偶にはいいかもしれないな」
「何の事でしょう、、?」
「何でもない、こっちの話だ」

緩んだ口元を隠してチャンミンの目の前にパエリアを置いてやると、怪訝な表情で俺を見ていたチャンミンの顔がパアッと輝き出す。

「くくっ、本当に好きなんだな。それなら遠慮しないで沢山食べて欲しい」
「あ、はい…有難う御座います」

取り分け用の皿を渡すと気不味そうに目を合わせるが、気負わせないように頭をひと撫でして「召し上がれ」と言うと。
受け取った皿で顔を隠して悶え始めた。

照れる要素がどこにあったと言うのだ?

一瞬、疑問符が浮かんだがいよいよ俺の腹の虫も鳴り出してチャンミンどころでは無くなっていた。







「海老は」
「…好きです」

きっちり真ん中から半分のパエリアを食べ終えたチャンミンに俺の分から海老を投げてやる。

「ムール貝は」
「大好きですが…」

ムール貝は3つ立て続けに移動させた。

「あの、、ユノ様の分が、、」
「食えるなら食え」

海老もムール貝もペロリと平らげたチャンミンの口にサフランの効いた黄色いご飯粒をスプーンで押し込むと、むごむごとチャンミンは顔を赤くして口を手で覆った。

「朝はチャンミンにして貰ったからな。だから昼は俺からあーん、を返しておいたぞ」

その言葉を聞いてチャンミンは喉を詰まらせていたようで、酷く噎せた。


「ほほほ…仲が宜しくて良い事ですな」

食堂に並んで座る俺とチャンミンを見つけたじいが中に入るでもなく入り口でニコニコと笑っているのを見て、チャンミンの顔からサーっと血の気が引いた。

もしや、執事が主人と食卓を同席して許される筈が無いとでもじいに教え込まれているのか…?

じいこそ、俺と茶飲み仲間だと言うのによく言うぞ。

「じい、」
「ユノ様。宜しいのですよ、今日は我々も休日ですから」

言い訳を見透かされた上に更に咎めないと先手をじいに打たれて、流石の俺も押し黙った。

ニッコリと笑ってその場からじいが去るとチャンミンは頭を抱えたが、俺はじいの言った一言に心を揺さぶられていた。


休日ならチャンミンと普通に接しても良い、と言うことか…?












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