イクメンウォーズ Season2 #21

園長に放置をされた翌日は仕事が休みだというのに、生憎の雨空だった。
衣類は自宅の乾燥機で済むけど、寝具は纏めて一気に乾かしに行くつもりで。
脱水までし終えたカバーやシーツを抱えてマンションの共有スペースにあるランドリー室まで降りた。
コインランドリーと行ってもお店じゃないから、台数は少ない。
だけど天気に比例するように今日の稼働率は100%だった。
しかし、幸いな事に大型乾燥機はもう少しで乾燥を終える残り時間を示していたので僕は洗濯物を置いてその前で待つ事にしたんだ。
するとランドリー室の入り口から人の気配がしてそちらに視線を送ると、相手も僕を見て。
そして「あ!」と声を上げた。
「あ、こんにちは」
ミヌ君を預かっていた頃、隣に引っ越して来たと挨拶に訪れたいつぞやの青年が声を上げた主だった。
彼はニコニコと屈託の無い笑顔でこちらに走り寄ると、「ミヌ君は元気なんですか?ユノさんに聞いても最近の様子は知らないって言うんですよ」って…
「えぇ、、ミヌ君は元気ですよ…?」
「そう。良かった、遊びたかったのにいつの間にかいなくなっちゃってぇ~ほんと残念です!」
残念と言う割にはニコニコと笑みが絶えない彼に何も返せなかった。
「あ!やっと終わったーっ、ここ次使いますよね?」
待っていた乾燥機が動きを止めるなり、その青年が勢いよく乾燥機のドアを開けたもんで。
近くに立っていた僕の方まで、乾燥機の中の熱気が諸に当たる。
「あれ…この匂い、、、っ」
「え?あぁ!ごめんなさい、ベッドカバーに僕のお気に入りの香水を数滴垂らして洗濯しちゃってたから乾燥機の中も少し匂いが残っちゃったかな…どうしよう…」
「あ、いえ…香りだけならそのうち消えると思うので大丈夫ですけど」
「有難う御座います!そう言ってもらえて安心しました~、僕ね、この香りが一番好きなんですけど、仕事の関係上で今は別のを使ってるんですよぉ。だからせめて寝る時くらいはこの匂いに包まれたいなって思ってて」
へへっと、乾いたばかりのカバーに顔を埋めてその青年は嬉しそうに笑うんだ。
この人って本当にこの香りが好きなんだ…
でも僕はこの甘ったるい香りが園長の接待の時の匂いに似ていて鼻につくだけで気分が沈みそうになっていた。
「…っ」
「あれ?もしかしてこの匂い苦手でした、、?」
彼が使い終わった乾燥機に自分の寝具を押し込んだ際に思わず噎せそうになったのを見られてしまっていた。
「そっかぁ~…ユノさんははっきりと嫌いだって言ってたもんね。やっぱり一緒に住むだけあって嗜好が似てるんですかね?」
「…え…あの、さっきからユノさんの名前を…?」
「ん?ユノさんから聞いてません??えっと、僕の名前をもう一度言った方がいいのかなぁ…って、覚えてます?」
「あ、はい!確か、、イ・テミンさんですよね…?」
「はい!そうです。良かった~覚えて貰ってて。でもまだまだ知名度は低いからなぁ~ふふ」
くるくるとよく変わる表情が愛らしかったり、妖しかったり。
だけど…凡人の僕から見ても分かる事がひとつあった。
一般人とオーラが違うって事…
「おいっ」
聞き慣れたその声にパッと振り向くと…
「えんちょ、」「ユノさん!」
顔を覗かせた園長はまだ仕事中なのかスーツ姿だったけど、テミンさんは構わず抱き着こうとしていた。
「馬鹿、離せっ。俺が呼んだのはお前じゃねぇんだ」
だけど寸前のところで園長に阻止されてテミンさんは膨れっ面。
「むーッ!出た〜またユノさんのチャンミンさん病!でもいいの!?ユノさんは僕のご機嫌取らなくてもいいのぉ!?」
言うなりプイッと顔を背けてランドリー室を出て行ってしまう。
さっきまでのニコニコと笑っていた愛くるしい彼はそこには居なかった。
「おいこらっテミン!、、チャンミン…?」
後を追おうとしていた園長の袖を僕は思わず掴んで引き止めていたんだ、、、

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