2017_08
06
(Sun)00:00

Yes, my lord.~試用期間にて~#2








「…悪く無いな。この絶妙な塩加減がカスタードクリームの甘さを邪魔する事も無く、かえって旨味を引き出している気もするが」
「えぇ、確かにユノ様の仰る通りで御座いますね。塩など邪道かと思っておりましたが、これはこれでいけますな。いや、誠に美味で御座いました」


じいと相談して塩シュークリームに合う飲み物を紅茶では無く、焙じ茶にしたのも正解だった。

厳選茶葉をきっちりティースプーンで4杯はかり、急須に移し入れると次は約100度に熱したお湯をゆっくりと急須に注ぎ入れる。
注ぎ終わると急須を手に持ち軽く回しながら抽出させる。
時間にして30秒程待ったらあとは用意した湯飲みに濃さが均一になるようにして廻し注ぎを行う。
最後の一滴には旨味が凝縮されている為、しっかりと注ぎ切るのがじい流の焙じ茶の淹れ方である。

もう俺もすっかりと覚えてしまい、じいが休みの日に偶に一人で淹れたりもする程に。
実は焙じ茶が気に入ってたりもする。

まぁ、食べる物によって煎茶、番茶、玉露と茶葉も変えるし、淹れ方もそれぞれに適した方法も熟知しているので実際じいが居なくても困らない訳だが…

一人で食べるよりは二人で食べた方がより美味しく感じ、お茶も飲み残し無く適温のまま美味しく頂けるものだと俺は思うのだ。


「さてはて肝心のチャンミンの感想は如何なもので御座いましょうか。あの者は馬鹿が付くぐらい気持ちに正直ですゆえ、気に入れば素直にその旨を申し出る筈でしょう」
「そのようにじいが煽るから俺も躍起になると言うのに…。本当にそのように素直なチャンミンが見れるなら探す甲斐もあると言う事だ」

湯飲みを口元に寄せると鼻腔に香ばしい茶葉の香りが広がり、ほろりと気持ちが和む。

「ユノ様は大層チャンミンをお気に召した御様子ですが、まだ試用期間は残っております。あまり甘やかしてはじいが困るとお分かりでしょうに」
「甘やかしてなど…」
「いえ、言い訳は無用で御座いますユノ様」

ぴしゃりと言い放つじいの顔は茶飲み仲間から、俺が任命したチャンミンの管理責任者に変わっていた。


じいはもしや知っているのか…?

俺が明日休みを控えたチャンミンに、好物だと言うワインを与えた事を。

「まぁこれ以上ここに居りますと話が終わりませぬ。明日はユノ様も皆も折角の休み、湯飲みの始末はじいにお任せしてごゆっくりとお休み下さいませ」

時計を見ればまだ21時を過ぎたばかりだが、じいが気を利かせてくれたと思い素直に従って夜が更けるまで読み物を堪能した。





翌日は住み込みの使用人も通いの使用人も全て休日を取らせてある為に目を覚ましてから自身の支度、食事も自分でやらなければならない。

父と母が居た頃はシフト制で必ず誰かしら使用人が我々の世話をしていてくれていたのだが。
今は当主である俺だけの為にシフトをわざわざ組んでまで世話して貰うほどでも無いと考え、俺の会社の休みに合わせて完全週休二日制を数年前から導入したのだ。

よって、チャンミンもこの土日は執事をしない。

屋敷住み込みで働いてるのは執事のチャンミンと、細々とした雑用を担当する女性が一人だけ。
あとの使用人達は全員自宅からの通いだ。

俺とじいも含めてもたった四人だけしか居ない屋敷は普段にも増して静けさを感じさせるが、俺はそんな屋敷の雰囲気も好ましく思っていた。


「必要無いと毎回言ってるが、律儀だな」

厨房に入って直ぐに目に付く場所に俺宛のメモを取ると、それは料理長からの伝言が書いてあったのだ。

昨夜のうちに簡単に軽食を用意したらしく、それが冷蔵庫の中に入っているから食べて欲しいと書かれていた。

現在の料理長は俺が中学生の頃にこの屋敷に来たので、父の事も勿論知っているし、俺の成長ぶりもよく知った人物だ。

「いつまでも子供扱いなのか、単に世話焼きなのか…」

完全週休二日制を導入した機に俺も自分の事は自分で全て出来るようになろうと決心したのだ。

だが、料理長は俺の不器用さを心配していつまでも包丁を使う事を危惧してはこうして休日の朝食は前日に用意し、そして残りの食事の為に冷凍庫にレトルト食品を詰め込んでおいてくれるのだった。

「今日は鯵のマリネ、美味そうだな」

ご飯はじいが炊いてくれているのでそれを茶碗によそい、味噌汁はインスタントで済ます。

トレーにそれらを乗せて厨房を出た所で前から少し足元が覚束ない様子のチャンミンがこちらに歩いて来るのが見えて。
トレーを手にしたまま声を掛ければ何とも気不味い顔をして「…おはようございます」とか細く呟いたのだ。

「珍しいな、寝不足なのか?」

休日だから個々の好きなように過ごしていいのだが、チャンミンがピシッとしていないのが物珍しくてつい構ってしまった。

チャンミンは否定するように頭を振ったが、その瞬間こめかみを押さえて唸った。

「もしや、俺が渡したワインの所為で二日酔いか…?」
「…………」

暫く沈黙があって、チャンミンは「美味しかったのでついダラダラと…」そう言って項垂れた。

そうか、そうか。
俺があげたワインが口に合ったという事か。

「あのワインが美味かったなら良かった。今日は仕事も無いし、ゆっくり休め」

チャンミンが気怠いのは不憫だとは思うが、俺があげたワインがついつい飲み過ぎる程に口に合ってくれた事が嬉しくて顔が綻ぶ。

そして食堂に行く俺とチャンミンが擦れ違う際に、ついでのように気になるあれの感想も聞いてみた。

「ところで塩シュークリームはチャンミンの口に合ったのか?」
「…ワインに合いました、御馳走様です」

ぺこりとお辞儀をしてまたふらつく足で厨房へと消えて行くチャンミンの後ろ姿に思わずガッツポーズをしそうになった。

「危なかったな…」

喜びのあまりにトレーをひっくり返す所だった。



俺があげたワインがチャンミンの口に合う。
そのワインに塩シュークリームが合う。

塩シュークリームはチャンミンの中で合格。

「ふふふ」



味気ないインスタントの味噌汁が美味く感じた土曜日の朝だった。












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