2017_08
05
(Sat)00:00

Yes, my lord.~試用期間にて~#1





《登場人物》
◾️チョン・ユンホ(30)・・・チョン家当主

◾️シム・チャンミン(28)・・・チョン家の新執事

◾️イ・ソジン・・・チョン家旧執事

《設定》
国、時代背景、全てにおいてFreedom。

《管理人から一言》
非常に緩いお話です。





・・・来るべき時が来たという事か。


「ユノ様、じいがまだ老いぼれぬ内にどうか後継者を御受け入れ下さいませ」

長きに渡りチョン家に仕えてくれていた執事のじいこと、イ・ソジンが改まってこの俺に話があると言った時点で薄々は感じていた事ではあったが、実際にその口から告げられてしまうと一抹の寂しさが込み上げるものだ。


「じいはまだ若いだろう?もう少し俺に尽力してはくれないか」
「…ユノ様、執事に定年制は御座いませんが自身で感じるのですよ。潮時と言うものが。ユノ様に御迷惑をお掛けしてからでは遅いのです」



確かにチョン家の執事には年齢制限は設けていないが、65歳を迎えた辺りからじいは運転に自信が無いと言い出し。
それ以来専属の運転手を雇うようになっていた。

「まだ70歳の祝いも終えてないのにか?俺の目にはじいに老いは感じないのにな」

実際、じいは職業柄か背筋が常に綺麗に伸びており実年齢よりも遥かに若く見えるのだ。
だが俺のそんな言葉にもじいは目を眇めて首を横に振ってしまう。

小さい頃からずっと一緒だったじいが…


「じいが居ない生活など俺には想像も出来ない。後継者を連れて来たとしてもじいはこのまま屋敷に欲しい」
「……ユノ様…っ」

白い手袋を嵌めたまま、口元を押さえて肩を震わせるじいの心中もまた複雑なのだと重々承知の上でもやはり想いを隠す事は出来なかった。


「お願いだ、じい…どうか俺を一人にしないでくれ」
「ユノ様…身に余る御言葉で御座います」

涙声で震えるじいの肩をそっと掴んで胸元に引き寄せる。

昔は悪さをしてはじいに抱えられたのは俺の方だったと言うのに…

無情に過ぎ行く時をじいと二人でずっと一緒に居たのだ。
もはや家族同然のじいを解雇など出来る筈がない。


「じいは今のままあの部屋を使っていい。その代わりに後継者なる人物に試用期間を与え、その者の管理監督者として屋敷に仕えてくれ」

チョン家当主の俺に命じられたじいは腕の中で小さく震えた。

「あぁ…ユノ様…貴方様に御仕え出来てじいは幸せで御座います……」



こうしてじいは42年間の執事職に幕を下ろし、俺のいち家族として新たにチョン家に迎えられたのだった。


が、しかし。
新たにチョン家に迎えられた人物がもう一人居たのだが…


「なぁ、チャンミン」
「ユノ様。何度も申し上げますように私の事はシムとお呼び下さいませ」

じいが後継者として連れて来た新しい執事は俺と大して年の差も無いような若い男で、名前をシム・チャンミンと言った。

「シムは堅苦しい。俺は執事の事を自分の家族同然に昔から思っている。だから呼び方一つ気にしなくても構わない」
「そうは言いましても…」

じいが自分の代わりに連れて来るような人物である限り間違いは無いのは初めから分かってはいたが。
少々、物事に対してやたらと堅いのが難点な男───それが、俺のシム・チャンミンに対する印象であった。

「俺が父も母も早くに亡くしてるのは知ってるな?チャンミンがこの家に来てからじいは本当の意味で俺の家族になれたし、チャンミンだけ余所余所しいのもどうかと思うのだ」
「………」

チャンミンはこの手の話に弱いらしい。
15歳という若さで両親を失った俺に同情でもしてるのか、これを切り出されると途端に口を引き結び言葉に詰まらせるのがいつものパターンだ。

そろそろわざと俺が同情を誘ってると勘付いてもいいようなものだが、チャンミンはいつもその策に見事に嵌るから面白い。

…人が良い証拠だ。


「ところで御用件はまだお伺いしてませんでしたが」

引き結んだ唇はまだ納得いかない様子でへの字になっているが、職務を全うしようという姿勢がいじらしい。

それだからこそまだ試用期間の三ヶ月は終えていないチャンミンを、俺は早々に本採用として心に決めていた。

仕事に対する実直さ、そして性格が真っ直ぐな所もいい。
じいのような目上の人にも、当主である俺に対しても、屋敷に住む使用人達に対しても、平等に距離を置いて付き合おうとする謙虚さもまた良かった。

だが、その謙虚さがツンツンしているように見えると言われれば俺は否定はしない…


「今日は巷で話題の塩シュークリームなる物を買ってみた。俺の分とじいのは分けてあるから、こっちはチャンミンと皆の分だ。後で感想を教えてくれ」
「………畏まりました」

渋々と言うか、困ったようなと言えばいいのか、チャンミンは僅かに顔を強張らせて俺の渡した箱を受け取った。

当家専属の料理人は果物は切るが、菓子は滅法苦手ときていて。
時折、こうして俺が直々にスイーツを購入して皆に振る舞う事があるのだ。


「チャンミンが気に入る物ならいいな」

俺のその一言に、チャンミンの眉がピクリと動く。
と、同時に耳の縁がじわじわと赤く色付くのをこの目で確認してほくそ笑んだ。

「では私はこれにて失礼致します」

シュークリームの箱を丁重に扱いながら恭しく部屋を出て行くチャンミンを見送って、ソファに腰を下ろす。

「…反応あり」

思わずふふ、っと堪えていた笑いを漏らしてしまう。

じいとは甘味の趣味が合うので、よく二人で俺の部屋で甘い物に舌鼓を打ったものなのだが…

いかんせんチャンミンは大の苦手と言い張り、何度部屋に誘っても頑なに拒まれっ放しなのだ。

それを聞いて益々チャンミンが食べられるようなスイーツは無いかと探求しだした俺に対して、真面目でお堅いチャンミンは内心戦々恐々な様子。

俺の一語一句に一喜一憂する姿が堪らなくツボなのだ。

だが決して虐めたい訳では無く、純粋にチャンミンと共に和やかな時間をここで過ごしてみたい。

その想いが何故か胸の中を占めている事に少々疑問を抱きつつ、堅物のチャンミンの僅かな変化にほっこりさせられる俺だった。









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