イクメンウォーズ Season2 #19

仕事が終わって帰宅をすると、今日は珍しく玄関に園長の靴があった。
ここ最近、園長は本業の方での仕事が続いてたから夕飯を共にする機会が減っていて。
一人で広いダイニングテーブルでご飯を食べるのが寂しいと感じていた。
ふと、ミヌ君を預かっていた頃は張り切って料理をしていた自分を思い出したり。
広いダイニングテーブルをミヌ君と一緒に作った料理で埋め尽くすのが楽しみだったり。
一人で居る時間はそんな事を思い出させてばかりで正直、…嫌だったんだ。
だから久し振りに僕よりも先に帰宅している園長の顔を見たさに、小走りでリビングのドアを目指した。
「早かったんですね!?」
ドアを開けると同時にその姿を探すと、ソファに身体を沈ませるように横になっている園長を発見する。
「…あれ、、?」
恐る恐る近寄って顔を覗き込むと、口を開けて微かな寝息を立てていた。
「寝てるんだ…」
ソファの背にスーツの上着が掛けられているから、帰宅して間もないのかな?
僕が帰って来たのも気付かない程に疲れて爆睡しているのなら、ここで起こすのも悪い。
かと言って園長が目を覚ました時に一緒にご飯を食べられるようにしたいし、、、
少し悩んで、僕はあまり音を立てずに済むような簡単な物を拵える為にキッチンに入った。
簡単な物だけど、なるべく音を立てずに調理するのは思ったよりも時間が掛かり。
漸く出来上がるってタイミングで、突然園長のスマホがけたたましく鳴り出した。
「あっ、」
僕が駆け寄ってスマホを取ろうとするよりも早く、園長が手探りでスマホを掴んで鳴り響く音を消す。
「…ん…っ」
止めたスマホを放り出して園長は伸びをする。
よく眠れていたみたいで、半身を起こして顔を擦る動作に寝惚けた様子は見られない。
「アラーム掛けてたんですね」
ソファの傍に立つ僕の気配に気付いて園長の顔が向く。
「あぁ、疲れが抜けなくてな。一眠りしたらだいぶクリアになったが」
「そう…良かったですね」
アラームをわざわざ掛けて仮眠を取った。
その行動が意味する事…
胸がざわつく。
「これから飯か…?」
キッチンから香る匂いを察してくれたのは嬉しいけど。
その言い方が少し引っ掛かる。
自分の分も作ってくれたのを喜んでる雰囲気じゃないから…
「えぇ、園長が寝てたから簡単な物しか作れませんでしたけどね」
嫌な予感が外れてない気がして、言葉に棘が含まれてしまう。
だって…っ、スーツを脱がずに仮眠を取るって…そう言う事でしょ、、、?
「…そうか。悪りぃな、気を遣わせて」
僕の揺れた気持ちを知ってか知らずか、ソファの傍に立つ僕の手を園長が強引に引っ張る。
口では謝罪の言葉を並べても、その行動がちっとも悪びれてないんですけど…
「ちょっと、、皺になりますよ!」
強引な園長の手は、僕の手だけじゃなくてしっかりと腰も掴んで。
無理矢理にでも僕をソファに腰掛ける園長に跨がせようとしていた。
「あ?お前が動けば皺になるだろうが、、」
腹の底から響くような低音ボイスで僕が騒ぐのを捩じ伏せる。
動けば、皺になる。
だからジッとして従えって話か。
……暴君め。
「仕事…、行くんですか…」
静かになった僕に満足して、園長は腰を掴んでいた手を緩める。
「そうだ。まだ終わってないんだ。今日も遅くなるからな、その前に"補給"をさせろ…」
補給。皺になるのを避けながら何をすると言うのだろう?
だけど。
腰を掴む手を緩めた園長に僕は寂しく思っていた。
離さないで欲しい…
僕をもっと、もっと掴んでそして雁字搦めに縛り付けて欲しいと。
そう、思った…

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