イクメンウォーズ Season2 #18

「け、ケッコン?」
不意を突かれた格好で砂場に押し倒された僕は、今しがたコウ君が放った言葉に面食らっていた。
「うん!ケッコン!」
「え、わ!ぐぇ、、」
砂場に背を付けた僕の腹の上にのし掛かったコウ君は、何度も「ケッコン」と叫んで僕の唇にぶちゅぶちゅとキスをする。
「ん、ん、、っ、、!」
その熱烈なキスのお陰で僕の顔は涎と砂まみれ。
流石に助けを求めようとコウ君にストップを掛けたそのタイミングで。
園児達が取り囲む輪の中に、今一番見られたくない人の顔を見つけてしまった。
「園長…っ」
慌ててコウ君を抱っこしたまま身体を起こそうとしたら、ふいと園長は輪の中から抜け出し。
僕に声を掛けるでもなくスタスタとそのまま屋内へと歩いて行ってしまう。
園長…今日はスーツなんだ…また接待の方の仕事かな、、、
ここ最近は殆どエプロン姿の園長を見ていない。
折角こうして園に寄っても僕に声も掛けないなんて……
「はぁ~、、、、」
思わず重い溜め息が口から漏れてしまう。
腕の中に収まるコウ君が、そのくりっとした瞳を細めて心配そうに僕を見上げるから。
無理矢理笑って誤魔化した。
僕とコウ君を取り囲んでいた園児達の興味はすっかり削がれて、みんな散り散りに遊び始めていた。
……僕に興味、無いのかな……
屋内に消えて行った後ろ姿を恨めしく思った。
今、園長の心を占めるのはボアさんから指示を受けたCMに絶対起用をしたい"誰か"なんだ。
あの甘ったるい匂いを放つ人がどんな人で、どうして園長じゃなきゃ折衝出来ないんだろうって。
考えれば考える程、僕は自分勝手な妄想の闇に堕ちて行く。
園長に限ってそれは無いと思いたいけど、、、
あんなに匂いが移る程、接近する事ってどんな接待なんだよ……
園長を好きになって、園長からも好きだと言われて。
初めて恋人と呼べる関係の人が僕は出来た。
こんな性癖だからそれだけでラッキーだと舞い上がって浮かれていた頃が、本当にただただ幸せだった。
好きの継続の先に。
真っ黒い感情に支配された、嫉妬の塊の自分が居るなんて………知らなかった。
「…醜いなぁ、、」
勿論、コウ君に難しい単語は通じない。
「ミンせんせ?」
「うん……大丈夫だよ…有難う」
ぎゅっと小さな身体を抱き締めると、柔らかな弾力に少しだけ心が癒される。
コウ君のように純粋に好きだと叫んでみたい。
それが今の僕の切実な願いだった。

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