Feeling 盲目

「刺客っすね」
「急に何だ…喋ってねぇで仕事しろよ、お前は」
「へっ!ユノさんともあろうお方がまさかのノーマークっすか!?」
「あ?」
ひゃー、マジか!と、相変わらずアホ丸出し発言の後輩の戯言をいつものように俺は聞き流していた。
刺客?何だそりゃ。と。
…この時までは全くの他人事だと俺は思っていた。
この時、までは。
「おはようございます、チャンミンさん」
チャンミンと伴ってマンションを出た所でいきなり知らぬ男に声を掛けられた。
だがチャンミンは知った顔なのか、『なんで、、』とか『困るよ…』とか。
俺の顔をチラチラと窺いながら焦ったように声を掛けて来た男の腕を掴んで小声で話し込む。
「ッチ…」
思わず舌打ちしてしまうと、その知らぬ男はキョトンと俺の顔を見つめ。
「あ。」
と、今ようやく俺の存在を認めたとばかりに手を打ち。
「初めましてですよね、僕テミンって言います。春の異動でチャンミンさんと同じ部署になってから色々とお世話して貰ってます」
春風がその挨拶に乗って吹き抜ける程、男は爽やかに笑う。
「おぅ…俺は営業のチョンだ、部署は違うが。宜しく」
…別に。
俺がとうに置いて来た眩しい程の爽やかさに圧倒されたつもりはないが、少し目を細めたくなる輝きについ言葉のキレが悪くなる。
勿論、春の異動の話はチャンミンから聞いていた。
若い子が来て華やかになったと。
華やか。
確かにこのテミンと言う男は白磁かと見紛う艶肌がつい目を惹く。
それに加え整った顔立ちとくれば、チャンミンの居る経理やその隣の事務の女どものかっこうの獲物だろう…
その男が何故にわざわざチャンミンのプライベートまで知っているのか。
此処は人事の者しか所在地を知らない筈。
それを口外したのであれば話は…別だが。
「どうして…僕は住所なんて教えた覚えは無いよね」
俺の疑問は、チャンミンの疑問でもある。
だがテミンはまたその大きな目を丸くするとこう答えたのだ。
「好きな人の住んでる所なら知りたいと思うのは普通じゃないの、かなぁ??」
無垢な笑顔を向けられると聞いた事が愚問だとでも言っているようで。
呆気に取られた。
「好きとか、、!本当に好きなら僕の困る事はしないで下さいって、、何度も言ったよね!?」
チャンミンは手の甲で口を押さえて抗議の声を上げるが、俺の目にはその様子さえ可愛いと思えてしまう。
「うわっ。萌える…チャンミンさん、、可愛いね」
ほうっと溜め息のように言われ、チャンミンの顔は更に赤くなった。
…こいつは本当に俺と同類項かよ。
「チッ、厄介だな…」
つい、思った事が言葉に出た。
その漏れた呟きにビクリとチャンミンが身体を震わせる。
「あっ、そっか。チャンミンさんが付き合ってて、同棲してるのってチョンさんなんでしたよね。噂だけじゃ信憑性に欠けるなぁって思って、それで今朝確かめに来たんです。昨日は此処に入るチャンミンさんしか見てなかったから」
えへっ、とか。
無意味な笑顔が俺の苛立ちを募らせるのだと、この男は知っててやってんのか…?
「僕を、、つけたの?」
「はい!帰りにスーパーとか寄って、胡瓜とにらめっこしていたチャンミンさんに物凄く萌えました。料理するってのは知ってましたけど、あの胡瓜をどんな風に使ったのかなぁとか。勝手に妄想しちゃいました…ふふっ」
勝手に妄想すんじゃねぇ。
「胡瓜は、、、中華サラダだよッ!!」
顔を沸騰させながら妄想を否定するチャンミンに対してテミンは萌える!を連発した。
「あぁ、、本当に理想…チャンミンさんみたいな綺麗で背の高い人を組み敷いて喘がせれたら…」
終いにはマンションの真ん前で恍惚の表情で馬鹿な事を言い出す。
「テミン君///!!」
「させるか、クソッタレ、、」
奮起したチャンミンの肩を抱き、まだしつこくついてくる気配を見せるテミンを撒く為に大通り沿いのタクシーを拾って乗り込んだ。
タクシーの運転手に行き先を告げ、人心地ついて窓の外を眺めると。
そこには焦りも何も無くただ爽やかに立つテミンと目が合った。
「しつけぇな…」
聞こえはしない筈の俺の呟きにテミンが、『ま・た・ね』と口を動かしたのをこの目で確認したと同時に車は緩やかに進み出した。
また、は無い。
お前の恋なんざ進ませるかよ、クソッタレ…
タクシーの運転手が居る手前、腹ん中だけで吐き捨てる。
しかし。
無意識で強くチャンミンの手を握り締めてしまい、またチャンミンは身体をビクつかせた。
「…ごめん」
どんな顔して言ってんのか、見る余裕すら正直無く、ふいと窓の外を見ながら。
「お前が俺に対してやましい事がねぇなら謝るな…」
それだけを言うと、チャンミンは口を閉ざし。
あとはもう何も言う事も無かった。
それで話は終わったと、俺は思っていた。
「刺客、分かったんですよね?なんか正々堂々とユノさんから奪還宣言したって専らの噂ですよ」
終わったと思っていた話をまた後輩の口から振り返されるとは。
「あいつが。…そう言ってんのか」
挑発に乗るな、俺は冷静だ、と。
それを見せつけたいが、出した声の低さに己自身も驚く程だから笑えない。
「ユノさん~怒んないで聞いてくださいよ?あいつね、テミンってスーパーオールラウンダーの逸材って言われる程の凄い奴なんですよ」
「ふん。そんな奴が何で経理なんだ」
オールラウンダーなら、真っ先に営業で会社への貢献度ってもんを叩き出させるのが経営陣の思惑だろうに。
「それがテミンの希望らしくてですね。数年先に新しい支社の立ち上げに関わる人材集めをどうやらしてんじゃないか~って話です。ま、噂ですけど」
「は?あいつが、、?そんな重要なポストを…あんな若い奴がかよ…」
おいおいおい、それが本当ならどんだけ出来る男なんだって…
「その白羽の矢がシムさんにってやつですよ、多分。つうか、能力よりもテミンの好みで選んだんじゃないすか??」
「…チャンミンは優秀だ」
「はいはーい、今は惚気要りませんから。だってテミンって何処でも女に苦労した事無いって話なんすよ。それなのに異動してから彼女作る気ゼロで、それでも告った子には丁重に断りながらシムさんの事を匂わせてるって聞いたんですよねー」
「あいつ、、何を勝手に…」
「ユノさん。それだけならまだいいんですよ、断られた女の子達がテミンの優しさに絆されてシムさんとの恋を応援してるって話です。テミンって顔はあんななのに腹は六個に割れてて、あっちのテクもすご・・・」
そこで後輩の話は途切れた。
「ユノ、ちょっといいかな…?」
何処まで話を聞かれたか分からないが、気まずそうに俺達の会話を遮るチャンミンが居た。
滅多に社員が使用しないと、俺も認識している5階のフロアの一番奥のトイレへと。
先に歩くチャンミンに従い、大人しくついて行く。
「…さっきの話は、…本当。テミン君は僕を支社の立ち上げに引き抜きたいって言ってた」
扉が閉まると。ボソボソとチャンミンが突っ立ったままで話し出す。
「…そうか」
俺はどうする事も出来ずに腕を組んで個室のドアに凭れる。
「僕も最初は自分の能力よりもずっと優れている人がいるって遠慮したんだけど…経理のシステム開発に尽力してみるのも面白いよって、、、」
いつかの寝物語で話したあれか…
今使っている経理のシステムの開発に携わってみたいって言ってたな、確か。
うちの社は外注をせずに昔から独自のシステムを開発してそれを全社に導入させている。
よって経理のシステム開発には経理の部署からの声が多く吸い上げられながら日々改良が加えられているとチャンミンは教えてくれていた。
「それで、…決めたんだろ?」
「…うん、、、この機会を逃したらもう後はないって思うから…」
「なら俺は何も言う事は無いだろ」
これで話は終わり。
別にチャンミンが引き抜かれたと言っても元々は同じ部署でも無い。
そう思い、先にトイレを出ようとした俺の腕を今度はチャンミンが掴む。
「待って、、まだ話は終わってないから…」
「……」
嫌な予感が背筋に走る。
「テミン君が言うんだ…『貴方のやりたい事も見つけてあげられるし、大事にもする』って…」
「…だから、何だ…」
怒らないように抑えても声のトーンが落ちる。
「僕の頭も、心も、身体も欲しいって…そう言われてる…」
「んっ、、!」
押さえ付けた拍子に個室のドアにチャンミンの背中が激しく当たる。
それでも辞めてはやれない。
噛み付くキスを繰り返し。
無理矢理こじ開けた口から舌を引っこ抜く勢いで吸った。
「ん、、、っ、、」
苦しげに鼻を鳴らせば更に舌を吸い上げる。
根っこギリギリまで、苦しいのは分かってても辞められない。
止まらなかった。
吸い上げた舌を練りつくように舐め回していくうちにチャンミンのスーツの上着から手を差し込み。
ぷくっと立ち上がり始めた粒の先を思いっ切り爪で引っ掻いた。
「ッ!!」
「…悪いな」
心の籠らない謝罪を聞いたチャンミンは。
睫毛を切なげに揺らした。
赤く腫れ上がったであろうその粒をぐにっと指の腹で潰すと、腰を押し付けた下半身の中央がぶるりとするのが手に取るように伝わり。
俺の中の興奮剤にまた一つ繋がっていく。
「やだ、、ゆのっ、、!」
硬くなりかけのそれを擦り合わせる動作だけでチャンミンはもう泣き出す寸前だった。
「…嫌か…そうか、、、俺よりもあっちの腹筋ムキムキの若いのがいいよな?そうだよな…はっ」
チャンミンの身体毎吐き捨てるように離し、熱く持て余したままトイレから抜け出す。
中途半端に勃ち上げたそれをチャンミンがどうするのか知ったこっちゃ無い。
寧ろ…
「痛えな、、くそッ」
ギンギンに反り返る自身の下半身の熱に虚しさが込み上げた。
「……っ」
帰宅したらチャンミンは居ないとか、ありとあらゆる想定を考えいざ玄関のドアを開けて絶句する。
「…早く…閉めて」
「あぁ、、」
後ろ手にドアを閉め、しっかりと施錠もした。
何故ならもう誰か訪ねて来ようが開けるつもりは無いと言う意思表示でもある。
「…ユノも脱いで」
一糸纏わぬ姿で立ち竦むチャンミンに言われるまま、手にして居た鞄を床に置くと。
ネクタイを緩めるチャンミンの手が巻き付いてきて。
「…せっかちだな…」
巻き付いた腕が俺の髪の毛を掴んで唇を引き寄せる。
半日前に噛み付いたばかりの唇を舐めるように愛撫して、シュルシュルとネクタイを引き抜く衣擦れの音にドキドキと胸が高鳴る。
「…俺なんかでいいのかよ…」
出会った頃はお互いに締まった肉体を保っていた。
しかし気付けば俺は自己管理を怠り、チャンミンは自らを律してそれを維持していた。
身体を重ねる度にその弾力の差に現状を思い知って焦りはしたが、また数日して失念するのを繰り返すだけだった。
久し振りに明るい所でまじまじと見たチャンミンの全裸は眩しかった。
どこの肌を撫でても程よく締まっていて若々しい。
「…脱いで」
有無を言わせずに俺を剥くチャンミンに興奮した。
下着一枚だけの姿にされた所で、チャンミンは俺の足元に跪き。
「…僕はユノがいい…誰が何を言おうと…」
呪文のように唱えたチャンミンは布の中でもがく熱を愛撫した。
形をなぞり、歯を立て、先端から滲んだ汁を吸い。
下着が唾液でぐちょぐちょになるまで離す事は無かった。
「…僕を、、こんな風にするのはユノだけ、、僕も此処を許すのは、、ユノだけ…っ」
湿った下着を唇で挟んで足元まで下ろし、チャンミンは俺を誘う。
長い脚は大きく左右に開かれ、陽の目を見る事が無いそこをヒクつかせて淫らに誘う。
「…嫌じゃないのかよ、、トイレでは拒んだくせに…」
我慢の限界を超えたチャンミンは既に自らの熱を擦り上げていた。
「トイレなんか、、ユノと…何度もできない、、から…嫌だっ、、」
優しくなんて。
出来るわけない。
「あっ、あっ、、ッア、、!」
一晩で出来る回数なんて以前に比べたら確実に減った。
その分、繋がる時間を延ばせばいいだけの話だと今更ながらに知る。
俺がしつこく穿つ間、チャンミンは最高回数に達していた。
この場合、質より量なのか分からないが。
久し振りに意識を飛ばした身体を労わりつつ、俺の痕跡を掻き出す。
その行為を虚しいとは全く思わず、寧ろチャンミンを更に愛おしく思える自分に笑えた。
「俺じゃ無いと駄目か…それは俺の台詞だろ…」
啄むキスに乗せて囁いた。
「…おはようございます」
マンションを出ると例の男が立って居た。
ものクソ不機嫌面していてもテミンと言う男は不細工にはならないらしい。
変な所に感心している場合じゃないが、チャンミンの愛を再確認した俺は無敵に強いと思えた。
要は単純だって事だ。
チャンミンさえ良いと言えばいい。
「はぁ、、テミン君、いい加減ね…」
だが、チャンミンの言葉を遮るようにテミンが割り込む。
「僕。…外されました。チャンミンさんは貰うけどお前は駄目だって…上から言われたんです」
「「は?」」
昨日の今日で何があった、、、?
「誰も居ないと思ったのに!!なんでよりによってあのトイレなんかで言っちゃうんですかぁ!?もぉーーっ、、!全部聞かれたんですよぉ~!!」
テミンは指を電話のジェスチャーにしてプイッとそっぽを向く。
「…メールで出来ない話を上の人としなきゃいけない時によくあそこ使ってて、、でもいきなり二人が来て喋り出すから切るタイミング損なっちゃって、、、あぁーーー!さいあくっ!!」
地団駄踏み出したテミンに同情しつつ、俺達はその場を離れた。
と、ここで話が終わる筈だった。
後日。
スーパーオールラウンダーは思惑通り?
営業に回されて来たのだ…
end
Happy birthday ゆんちゃすみさん(*´罒`*)ニヒヒ♡
素敵な一年を💕
素敵なイメージ画像はAliさんのブログからお借りしてます♡
↓↓↓
ホミンを愛でるAliの小部屋

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