清く、正しく、美しく -男の過去と今-
俺はそれまで必死に抱えていた物を手放す程、怒りで我を忘れた。
危うく、チャンミンを失う所だった。
同僚で、友人で。
密かに胸に秘め続けた、想い人を─────
「…趣味で自分で作るんです」
体型に見合う、か細い声でラッピングされたガラス細工を手渡された。
あれは高校三年の冬だった。
誕生日も過ぎ、バレンタインまであと二日と言う中途半端な日。
俺の帰りを待ち伏せしていた女子生徒は他には誰も居なかった。
手作りは正直、ちょっと重い。
手編みにしてもチョコにしても、誰かの想いがそこに詰まっていると考えるだけで気が滅入る。
「サンキュ」確かそんな感じで受け取った筈だった。
ぞんざいな扱いをすれば、後が怖いのが女と言う生き物だと過去の自分が警告をする。
単体では弱者を装っておいて、徒党を組むと途端に強気に出て来るからだ。
無論、目の前の女子も気弱そうに見せて腹の内で何を考えているやら分かったもんじゃない。
そうだ、確かに俺はちゃんと御礼を言った筈だった。
それから数年がして、その他大勢に埋もれてしまっていた女の存在が突如浮き彫りになる。
大学の同級生にとても気の合ういい友人が居た。
勿論、俺は友達以上の好意も抱いていた。
しかし想いを告げる事はしなかった。
そいつには彼女が居て、その惚気をそばで聞かされる限り俺の付け入る隙なんて更々無いのを思い知っていたからだ。
自分でも本当に不器用だと思う、遊ぶ相手なら幾らでも居るのに。
そいつらを恋人として、特別な想いで見る事は到底出来なかった。
故に、セックスは生理的欲求を満たす為にする。
俺の中ではそれ以上の意味を持たない行為にいつしか位置付けられていた。
学生結婚も匂わせていたくらい彼女に没頭していた友人を。
結局俺は四年間も見守り続けた。
卒業してからは互いに仕事に邁進する日々が続き、それにつれて関係は疎遠になる。
けれどふと、時々思い出す事はあった。
一夜限りの相手と戯れ合う一瞬に、あいつともこんな事を言ってみたかったとか。
思い出すと無性に声が聞きたくなって、一度だけ電話をした。
「元気か」とか、たわいも無い話をして。
切り終わる間際に「…別れたんだ」って、友人の詰まるような声が耳に響いて。
考えるよりも早く、身体が勝手に動いていた。
学生時代と同じアパートに居てくれて助かったと思った。
彼女の痕跡があちこちに感じられるその部屋を殆どあの頃は行かずじまいだった。
「ユノ、、」驚きと嬉しさが入り混じった様子で玄関のドアを開けてくれた友人の顔を見た瞬間。
壊そうかと、この友人関係を壊して。
何度も思い描いた願望を吐き出してしまおうかと。
そう…思った。
けれどそれも出来なかった。
彼女を失った友人から、俺と言う存在まで失わせたらこいつは本当に壊れるんじゃないかって、、
そして、確かに見たんだ。
一歩、踏み止まった俺の視界に。
いつぞやのガラス細工を────────
気の所為だと、心の何処かで思った。
そしてまさかとも思った。
答えは簡単だった。
入社してから俺をとても可愛がってくれていた上司のデスクにも、同じガラス細工が飾られるようになったからだ。
常に俺は見られていた。
自重した。
迂闊に特別に親しい関係は作らないようにした。
適当に遊んで、恋はしないと決めた。
なのに。
高嶺の花と言う言葉がしっくり来ると思った。
他人と一線を引いて付き合っているのが目に見えて分かるのに、それが全く厭味じゃない。
寧ろ、孤高に咲く薔薇のようで誰も触れずにそっと咲かせてやりたいと思う不思議な魅力を持っていた。
禁猟区を侵さない、それが暗黙のルールみたいに彼はいつも独りで居た。
気付いている。
彼を好いている人が沢山いる事を。
俺の中の警鐘も勿論、鳴った。
でも駄目なんだ…恋って自分ではどうする事も出来ないもんだって。
あぁ、忌々しい。
「…勃たない」
チャンミンと言う同僚を好きになってから、どう言ったわけか適当に遊んでも満足感が得られないようになってしまっていた。
しかし、相手もある話でこっちが乗り気じゃないのは当然伝わるわけで。
適当に遊ぶのも自粛。
欲求の捌け口として残されたのは自分の手のみ。
けれど気持ちが全然乗って来ないんだ。
「はぁー・・・」
胸の奥底の良心が囁く。
それだけはやめろって。
利き手をそっと離して、右手に持ち替える。
慣れた手とは違う感覚。
「……チャンミンっ…」
長い睫毛だった。
意志の強そうな眉毛。
「………っ…」
形のいい楕円の耳に、薄い耳朶。
なだらかな肩、首筋の黒子。
整った…歯並び…
掌の筒が、ししどに濡れそぼる。
この時の達した満足感は例え用が無い。
正式にお付き合いをする前提として、例のガラス細工の女の話を包み隠さずチャンミンには話をした。
すると、チャンミンの口からは意外な発言が返って来て…
「ちゃんとその子と話した?僕はユノと付き合う事になった直ぐ後にもう一度会って言ったから」
「は?なんて、、」
「僕には恋人が居て、その人に悪いからこういうのはやめて欲しいって」
「………」
「分かるよ、多分。あの子なら」
チャンミンは時々怖いと思う。
遠目で見ていた時と今では全然印象が違うけど、だからと言って幻滅した事なんて無くて。
知れば知る程、その魅力に嵌って行くと言うか。
人の事をタラシだと言う自分こそ、天然の人誑しじゃないかって。
「……うわの空」
真剣に考えて答えを導き出してくれたのに、俺は確かに別の事を。
だけど拗ねたチャンミンもそれはそれで可愛い。
あからさまにプリプリした顔で「勝手にしろ」と投げやりに言いつつ、全身では構ってちゃんなオーラを出している。
あー、ほんと可愛い可愛い。
「風呂入って来る!」
勝手に下がってしまう目尻が、更にチャンミンの怒りを買うのは分かってんだけど。
駄目なんだよねぇ。
「俺も入ろうかな~」
「来んな!絶対に入るな!!」
何でかチャンミンは俺と一緒に入りたがらない。
「襲わないって」
「…っ、馬鹿か」
「今日はあんまり時間無いから入っちまおうぜ」
「ちょ、!もーっ!」
嫌だ嫌だと言っていたチャンミンはさっさと先に風呂場へと逃げ込む。
この時の俺は、別に風呂場で襲う気なんて無いのに変なチャンミンだと思っていた。
「チャンミンさーん・・・」
「だから嫌だって言ったんだ、、!」
本当に勘弁して。
俺、本当に襲う気なんて無かったんだよ?
その証拠にまだ通常モードだし。
なのに、どうして貴方が元気なんですか…
隠そうと必死に内股なのが逆に煽るんですけど、って知っててわざととか?
「あーもう、、、」
「こっち見るなっ!!」
「いやいやいや、無理っしょ。えーっと、何で?」
気になって素直に聞いたらボンッとチャンミンの顔から火が噴き出した。
だって、まだ何もしてないのに可笑しいでしょ。
「………っ、、だから嫌だったんだ…ユノと一緒に入るのなんて…」
「だから何で?」
「…ユノの、、」
「うん、俺の?」
「か、らだとか……っ」
・・・、えっと。
それって要はあれですか、俺の裸に萌えたのか…いや、燃えたのか…?
「あーーー!もう、、チャンミン!!」
「来んな馬鹿ー!」
いや、もうね貴方。
恥ずかしいからって顔もお股も隠したらただ単に可愛いだけのチャンミンなんだって。
浴槽に蹲るチャンミンを無理やり引き上げる。
やだやだって暴れるけど、もう本当に嫌なら殴ってでも抵抗する筈だろ。
なのにチャンミンは嫌だって言ってんのに身体の中心部はかなり反り返っている。
「…嫌じゃねぇだろ」
チャンミンに対しては、時々俺のブラックな面が顔を出す。
普段は無意識だけど、今はわざと低音でキツめの口調に変えてみる。
すると途端にチャンミンの身体から力が抜けて行く。
俺達の関係性はどっちがリードすると言うのは決まってなくて。
チャンミンが積極的な日もあれば、こうして俺が少し強気に出る時もあり。
そうするとまた知らない顔も見れたりするのが楽しみだったりもした。
俺は大人しくなったチャンミンの手を引き、浴槽の縁に座らせて徐ろに跪くと。
几帳面に切り揃えられた爪先から心臓に向かう血流に沿って口付けを進めた。
もしこれが身分差の恋だったら、こうして乞う真似をしてまでチャンミンの心を射止めるんだろうか…
そう考えたら俺の唇がチャンミンの肌に触れる事さえ尊い行為に思えて仕方が無い。
チャンミンに言ったら馬鹿げてる、って一蹴されるけど。
今でも俺にとってはチャンミンは特別な存在なんだ…
「…ユノ…っ…」
しかし、恭しく落とされる唇は当の本人には拷問のよう。
でもこんな切羽詰まった声を聞いちゃうとちょっと意地悪したくなるんだよねぇ。
困ったもんだ。
縁に、腰掛けた状態で俺を見下ろすその顔が欲に染まっていて。
多分、次の行為を期待して胸を高鳴らせているんだって重々伝わるんだけど。
それを分かった上で敢えて肝心な所はスルーしてやった。
唇が際どい部分を掠って行った時のチャンミンの息遣いなんて、聞いてる方が毒なのに。
何やってんだろうね、俺は。
だけどお預け食らった後の方が喜びも倍増するって話。
足元に丁度ボディソープがあったから、ワンプッシュだけ掌に馴染ませれば即席ローションの完成。
口付けは続行しつつ、掌をチャンミンの上半身にある2つの膨らみに撫で付ける。
ピクッと身体が揺れて、角度が下がり気味だった昂りがまた持ち上がる。
胸とあそこは直結すんだな。
あー・・いつか胸だけでイカせたい。
ぬめつく指を胸の輪っかに沿ってくるくると円を描くと、ビクビクと快感の波を身体が逃す。
いつの間にか俺の肩にチャンミンの手が乗せられていた。
胸の突起を摘めば、肩に爪が立ち。
粒を潰せばそのまま肉に食い込んで来る。
俺が直接的に愛撫を受けているわけじゃないのに、ありありとチャンミンの官能が伝わるからこんなのも堪んないって思う。
チャンミンの前ならSでもMでもどっちにでもなれそうで困る。
胸を離れた俺の指は休む事なく次のポイントを辿る、胸から下へ。
「ヒッ」
丁度、臍の辺りに指が差し掛かった所でチャンミンの喉が鳴る。
普段は人から触れられる事の無い箇所が大抵は隠れた性感帯だったりするからだろう。
それが分かればここは丹念に。
下生え迄の道筋にある繁りを上から下へと指を這わし。
くしゅくしゅと泡立たせるとその泡を掌で揉み込む。
揉み込んだ泡で今度は下生えを。
その間、チャンミンの身体はヒクつきっぱなしだった。
「んッ!」
下生えを揉む時に指が際に触れると、肩に強い刺激が走る。
もう限界か。
ぬる目のシャワーがかえって逆効果だったのか、泡を流されているってのにチャンミンはずっと涙目で。
俺はいけないと思いつつもわざと長めに流したりなんかして。
だから、今にもはち切れんばかりにプルプル震えてるのをやっと口に含めて数度扱いた途端。
口の中を苦味が占領してしまったのだった。
焦らしに焦らされてやっとイカせて貰ったチャンミンは風呂の逆上せも手伝ってかなりぐったり。
軽くシャワーで汗を流す俺を縁に座ったままぼんやりと眺めるだけ。
それをいい事に水滴を拭き取る為に巻き付けたタオルごと抱き抱えて風呂場を出たんだ。
普段なら、絶対にそんな事やらせてくれないんだけど。
一回抜いた後のチャンミンってやけに素直になるんだよな。
ま、有難いけどねぇ。
寝室に戻ろうとしてリビングでふと足を止めてみた。
足の裏にラグの感触が当たって心地いい。
初めてチャンミンの中に挿入ったのはこのラグの上だった。
やけに手触りが良くて、2回くらいこの上でやった覚えがある。
後で聞いたらマイクロファイバーだとかで、家で洗濯も可能だって。
だから次にお邪魔した時に綺麗になっていたわけかって納得して、今がある。
ごめんなー、チャンミン。また洗濯行きだわ。
だってさぁこれ、緑色で手触りも良くて。
こうしてチャンミンを四つん這いにしたらまるで草原に産み落とされた子鹿みたいなんだもん。
プルプル震える四肢が子鹿を彷彿させるんだけど、本人はそんな事分かっちゃいないから顔をクッションに突っ伏してんだよね。
大人しいし、なすがままだし、可愛いし。
だから遠慮なくお尻をもっと突き出させて、穴の中までじっくりと拝ませて貰っちゃう。
初めてやった時は正直、冷静じゃないのもあって気付かなかったけれど。
チャンミンのここって凄い締まってる。
お付き合いしてからチャンミンが女しか抱いた事が無いと聞いて軽くショック受けたけど、今思えば感謝しなきゃだ。
俺の為に今まで守っていてくれたんだな、ありがと。
敬愛の念を込めてそっとキスをした。
ぷんっとボディソープが香る。
いつの間にか自分で洗ってんじゃん…
「もぉ、、チャンミン………っ」
このまま突っ込んでやろうか?
あぁぁぁ、、ほんと好き…めちゃくちゃにしてぇ・・
まるで捕食者になった気分だった。
狭い入り口を掻い潜って進んだ先は天国で。
その天国に導いた者は緑の草原で打ち震えている。
奥を突く度にビクビクとヒクつく身体を全然優しくしてやれなくて。
何度も細い腰を抱えて突き上げた。
なのに中は動く度に蕩けるように気持ち良さを増すから抜いてやる事も出来なくて。
俺、全部このままチャンミンに吸い取られたりしてー・・・、とか。
捕食してると思っていたのに逆に捕食されてたりしてー・・・、とか。
散々抱いた後に馬鹿な事を、ラグの上で荒く息を吐きながら考えた。
多分、チャンミンは名器だ。
それを言ったら顔を真っ赤にして怒るから言えないけど。
女に盗られるのも癪だけど、男に奪われるのも絶対に嫌だ。
「…飽きて捨てんなよ」
疲れ切って眠りこけてしまった愛しい人の寝顔にごちる。
……チャンミンを失ったら、俺は無理だな。
週末に珍しくチャンミンと喧嘩をした。
謝るタイミングを逃したまま月曜日を迎えた俺は、仕事の間も己の女々しさに鬱々。
頭では分かってんだ、全面的に俺が悪いって。
コトを押し進める流れとして、最初にチャンミンの身体と心を解すとその後がスムーズに行くと知ってからは。
必ず先にチャンミンの身体を弄るってパターンを決めた。
それは多分、チャンミン自身も分かってくれているみたいで。
そんな雰囲気になると割と素直に俺に身体を預けてくれるんだけど。
なんて言うか、、、結局は俺の度量の狭さなんだろうな。
後孔を弄る時は自分がここを開拓したって悦びに浸りながらテンションMAXになれんのに。
前に張り出してる昂りの方に関しては、これを過去に交際した女に突っ込んでたのかって弄りながら沸々と怒りが湧いて来て。
俺と同様にチャンミンの股に顔を埋めて善がってた女が居たのかって考え出したら、、、
「…も、いいから…っ」
チャンミンの口からこんな台詞を何度も言わせるくらいに執拗にしゃぶり尽くしていて。
イキたくてもイカせて貰えないし。
かと言って待てど暮らせど挿入する様子も無いしで。
限界ギリギリまで達した所でチャンミンがブチ切れたわけだ。
真っ裸の俺をそのまま追い出す勢いで。
あの時素直に謝っていたら…
いや、俺も色々な意味で興奮をしてたからあのまま理由をベラベラと話したら火に油だったかもしれないし。
…はぁ、どうしたもんかねぇ。
久しく口にしていなかった煙草を手に、フロアを出て角にある喫煙ブースに向かう。
ちょっとした気分転換のつもりだった。
ドアノブを押し回して開けると先客が居た。
「…どうも」
正直、この社内で会いたく無い人物の一人。
向こうは驚いた様子も無くゆったりと白煙を燻らして俺を一瞥する。
昔はこの人に随分、可愛がって貰った。
「畏まって何だ、気味悪りぃな」
目尻に寄った皺が前よりも増えたように見えるのは、それだけ俺がこの人を直視しないようにしていたからなのか。
妻子あるこの人に、ハナから淡い期待なんて持っていなかった。
ただこの人の包容力に甘え過ぎていた感があったのは否めないけれど。
だからって、その家庭まで手を出してしまったあの女を俺は許せない。
そして同時に。
家族をあんなに大切にしていたこの人に嫌悪感が隠し切れなかった。
女なら、誰でもいいのかよ…って…
「そういやお前も独身だったよな?今はフリーか」
班割りで別れてからはプライベートな話は殆どしなくなっていた。
こう言った話も久し振り、相変わらず世話焼きな事で。
「何すか、急に」
「いやさぁ、俺の姪がいい歳してまだ独身でよ。いい男余ってんならアタックしとけってアドバイスしといたわけ。そしたら玉砕したって。選りに選ってシム・チャンミンに行ったあいつもアホだけどなぁ…」
呆れて出た溜め息は深く。
ジリジリと焼け焦げる煙草をまた口元に添えて。
「大学ん時の彼氏と俺はてっきり結婚すると思ってたんだ。気さくですげぇいい奴でさ、でも駄目なんだと。罪悪感がどうとか…面倒クセェな人の恋路は」
「……貴方が首突っ込むとかえってややこしくなりますよ」
「はっ、俺のキャパ超えてるってか!?キッツいねぇ~お前は」
まったくよ…そう言ってくしゃっと頭をひと撫でして俺は一人残された。
友人の顔が浮かんだ。
そしてチャンミンも…
言ってやらないと、あの子に。
週の初めの月曜日、一番帰りが遅いこの日にチャンミンは嫌な顔一つせずに。
玄関のドアを開けて俺を迎え入れた。
「遅くなった」
「うん。で、話出来た?」
チャンミンの家に来る前にカトクで用件を軽く伝えてはいたから。
「あぁ…話した。って言うか、もっと早く聞いてやれば良かった…逃げてたかな、俺…」
あの子の口から"好きでした"と、涙を流しながら過去形の告白を受けた。
まじまじと向き合って見たのは今日が初めてで、細いと思っていた印象が相当昔の事だったと知る。
凛とした大人の女性なのに、いまだに過去の想いに囚われていたんだと同情する。
「…あいつの事、まだ好き?」
わっと突っ伏して泣く姿にもう言葉は要らないと思った。
それに人の恋路に首を突っ込むのはよくないと昼に自分が口にしたばかりだし。
俺も向き合わないとな、当人と…
「チャンミンごめん!俺、本当は嫉妬深くてうざい奴なんだ。チャンミンがノンケだって知って嬉しい反面、過去にすげぇ嫉妬するし。女とやってたんだって馬鹿みたいに意地悪くなったり…チャンミン、、?」
一気に謝罪を捲し立てるつもりでいたけれど、当の本人は赤面して固まっていた。
怒ってる感じはしないが…
赤くなった頬をそっと撫でると、サッと視線を逸らして口元を手の甲で隠してしまう。
「…どうした?」
頬から頭へ。
柔らかい髪を撫でてやると、ふるふると被りを振り。
「…僕だって、、」
「ん?」
「ずっと、ずっと、、ユノの過去に嫉妬してた…っ」
「え、、」
「全然挿入れてくれないのも僕と相性が悪いんだって、、」
「はぁ!?」
「だって、、早くって言っても来ないからっ」
真っ赤だったのに、更に熱が上がって火照ったチャンミンは。
熟れた林檎のようで。
「食べたい」
「え、?」
「今直ぐ。チャンミンを」
言ったそばから齧り付く。
予想通り熟れた林檎は甘くて、一口噛み締める度に甘さに混じって締め付けるような酸味が胸に広がる。
縺れ込みながら服を脱がし合い、生まれたての姿で緑のラグの上であちこちにキスをしあった。
背をラグに押し倒すと、自然な流れでチャンミンが脚を開く。
「…なぁ、上と下。チャンミンは本当はどっちがいいわけ?」
俺の中で以前から抱いていた葛藤が口からついて出る。
「えっ、、それは絶対に下!上なんて無理、、なんで今更経験値計る様な事をっ、、」
急に焦って、怒って、しょげて。
俺は一瞬遅れて、チャンミンの誤解に気付いて思わず破顔した。
「…ごめ、、言葉足りなかった…」
「は、?上ってそう言う意味じゃ無いの?」
「うん、チャンミンが俺に挿入れたいかって」
そして、もっと逡巡するかと思っていた、なのに。
「下がいい。断然、…下」
口を尖らせて、何を今更みたいな顔をして言うなんて。
「男前だねぇチャンミンさん…」
「侮辱してんのか!?」
あぁ、もうほんと。
「ううん、敵わないなぁと思ってさ…俺をどんだけ堕とすの、…貴方は」
呟いて口付けを落とすとチャンミンの身体が弛緩する。
俺で、いいんだって…やばいよな…
衝動的に及ぶ行為もそれはそれで燃えるだろうけど。
好き…好きだ…好きだなぁってしみじみと噛み締めて抱く悦びには到底敵わないと思う。
「…中、あったかい…すっげいい…」
正直に言えばチャンミンは嬉しそうに睫毛を伏せる。
チャンミンを好きになって良かった。
そしてチャンミンも俺を好きになってくれて良かった。
セックスは生理的欲求を満たす為って、誰が言ったよ。
こんなに幸せなのにな。
「な、今度さぁ。上に乗ってよ」
事後独特の気怠い雰囲気に紛らわせて提案を試みる。
結果、
「……前向きに・・善処させて頂きます…」
だと。
お役所かよって独りごちそうになって、ふと思い留まる。
善処…
検討じゃなくて善処?
「チャンミンっ、、!!」
「うわっ!やめっ、、」
ほんと、…敵わないわ。

~おまけ~
「頭いてぇ…」
企画練るとか、営業先回るとか、そう言ったのは全然苦じゃないけど。
これはちょっと苦手っつうか…
「…お疲れ」
眉間に皺を寄せている俺の視界に女神降臨。
パソコンとにらめっこする姿を気の毒そうに見つめるのは、愛しのチャンミンだった。
「珍しいな」
プライベートだとあんなにラブラブな俺らも、出社すれば一切関わりを断ち切ってお互いに素知らぬ振り。
俺はもっと普通に話してもいいような気がするんだけど、何となくチャンミンがそれを嫌がっている気がしていたんだけど…?
「そうかな」
「あぁ。で、なんか用?」
「…ユノ」
「ん?」
「ファイティン!!」
両手をにぎにぎして可愛くファイティンポーズ、、
あ、逃げた。
周りの視線が俺に突き刺さってるのは気の所為じゃないだろう。
「なぁ…今、ユノって言ったよな」
隣の後輩が俺の問い掛けに、戸惑いながら頷く。
「お」
雄叫びは腹の中に何とか押し留めれた。
ほんと、敵わないわ。
チャンミンさーん…

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