イクメンウォーズ Season2 #10

「う゛、、、」
「ママ?…どこか痛いの??」
「あ、いや、、大丈夫だよ。心配してくれて有難うね、ミヌ君」
うん♡なんて、ニッコリ笑ったミヌ君は本当に天使みたい。
なのに僕はその無垢な笑顔に引き攣った笑みを返すんだから、泣けてくる…
今日はお天気も良く、午前中は園庭で砂遊びをする事になり。
それぞれの手にはスコップやらジョウロやら、ゼリーの空きカップやらを持ち。
キラキラと目を輝かせて砂場に突進して行った。
僕は子供達の後を必死で追うも、まだ股関節の動きはぎこちなくて。
ヨタヨタと歩いてはやっとの事で砂場に到着。
よし、と腰を下ろした所で今度は鈍い痛みを感じて、、、で、さっきの会話に繋がるわけなんだ。
「はぁ、、、」
こっそりと子供達に聞こえないように溜め息を吐く。
こんなんじゃ一日中腰が重くてダメだ、、、
ふぅ、とまた小さく息を吐いて。
その溜め息の元凶を探した。
…いた。
あれ?誰だろう……あの女の人は…
元凶を目で探していたら、その足は僕らのいる砂場に向かっていたんだけど。
その前に突如立ちはだかる人影が見えて。
目を凝らして見ても園の関係者じゃない事は確かだった。
……保護者かな?
タイトなパンツスーツにピンヒールでツカツカと詰め寄ったかと思えばいきなり園長に何かを突き付けていた。
紙??
園長は突き付けられた用紙を奪い取ると、その女性を振り切りながらこちらに歩き出す。
けれど、その女性は全然食い下がる様子も無くて大股で歩く園長を小走りに追い掛けながらも何かを訴えていた。
やだな、、クレーム、、とか??
「もぅ、、ちゃんと聞いてんの!?ユノッ!!」
その女性は少し掠れがかった声を張り上げて背を向けるその人の名前を呼ぶ。
その声はキンッと耳をつんざくハイトーンで、園児達も思わず遊ぶ手を止めてしまう程。
砂場まであともう少しで辿り着く所だった為に、僕には園長の表情がよく見えていたんだ……
「煩えぞ、、、ボア」
完全に怒り心頭といった様子で爽やかなルックスに不釣り合いな青筋を立ててしまった園長。
けれど、ボアと呼ばれたその女性は怯む事なく。
腕を構えて仁王立ち。
「何だ、ちゃんと聞こえてんのならいいのよ」
ふふんと鼻を鳴らして余裕の構え。
だけど。
「あ゛ぁ!?お前なぁ、、」なんてキレ気味に振り向いた園長をスルーしてボアさんは。
「あっれーー!?もしかして、、、チャンスニ!!!?」
園長の影から現れた僕を見つけては、園長の名前を叫んだ時よりも大きな声を上げて。
園長の大きな身体を押し退けては僕の腕を掴んでブンブンと振り出すんだ、、、
「え、、あの、、、、!?」
この時の僕は腰の痛みも吹っ飛んでいた。
だって、僕はこの女性に面識なんて無いんだもん、、、
なのに何でチャンスニなんて名前を知ってるんだ!?
戸惑う僕を見て、ボアさんは更に畳み掛けるように。
「うわ本当!ユノの言ってた通りね~おどおどして何だかからかいたくなるって!?分かるわーっ」
アハハッて笑った声がまるで園長の女版。
一見、小柄で愛嬌のある感じなのに、笑い方も動作も快活で豪快。
バシバシと僕の肩を叩く手には遠慮なんて微塵も感じ無いし、、、
「おい、、そいつに余計な話すんじゃねぇよ!」
僕を掴んでいたボアさんの手を振り払う園長は珍しく取り乱していて。
「ふーん、ケチね…あ!じゃあチャンスニに余計な事を言わない代わりに…さっきの件、よ・ろ・し・く♡」
「な゛っ、、!」
園長が振り上げた手をサッと交わして「お邪魔してごめんねーっ」と。
固まったままの子供達に先程とは打って変わって聖母の微笑みを残してボアさんは嵐のように去って行く。
竜巻のような人だ…
残された園長は確かに怒りに震えていたんだと思うけど。
それを砂にぶつけるように、ドカっと砂場に腰を下ろして。
チッチッチと舌を鳴らしながら。
ザクザクと砂を掘り起こしては、あっという間に大きなお山を作り上げた。
「おい!」
うわ、、怒りの矛先がまさか………
僕へ、、!?

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