イクメンウォーズ Season2 #2

園長の口から職員全体への挨拶が終わると、園長代理がサッと動いて僕の脇へと寄る。
「園の存続の危機は貴方の対応に掛かっています…先程のような事は目を瞑りますから、大いに頑張って下さいね」
「えっ、、」
何を言われてるのかもよく分かって無いのにおもむろに手を強く握られ、無言の威圧。
園長もさる事ながら、この代理もなかなかの眼力、、、
「うっ…はい…」
って、実は何も分かっていないんだけど……いいのかな、、
「じゃあ、そう言う事ですから。後は宜しくお願いしますね」
「えっ…だから、、何がですか!?」
言い逃げしようとした代理の肩を慌てて僕が掴もうとすると、そこからスッと大きな塊が現れ。
「チャンミン先生」
ニコッと。
いや、あれはニヤッと。
と、言った方が的確な表現だったと思う。
代理の肩に伸ばした手を園長に絡み取られて、引き寄せられた僕はポスッと逞しい腕の中へと包まれる。
「友好のハグって事で、よ・ろ・し・く」
耳元でわざと生暖かい吐息を吹き込みながらそんな事を言うもんだから、僕は真っ赤に硬直。
…と、同時に部屋中を先輩達の奇声が鳴り響いたのは言うまでも無いよね、、、
つまり。
園長代理が僕に押し付けたのは、園長の子守り役って事だった。
そうなんだ……補助をやるなら何処かのクラスを受け持つ事になるんだから。
誰かが園長と組まなきゃならないって事だもんね。
僕は新人でありながら年中クラスの受け持ちを任させれているんだけど。
幸いな事にパートナーを組んでる先生は超ベテラン格の方だから、今までもその人に聞けば何でも教えてくれるもんで。
難無くここまで過ごして来れているんだけど。
でも、、、園長と一緒となると…そう今までみたいに上手く行くのかな!?
あぁー、、嬉しいけれど正直、複雑だよっっ!
「なんでそんなツラしてんだ」
「ちょ、、///近いですってば、、」
「熱でもあんのか?さっきもハグしたら身体が熱かったしな」
「いやいや、、あれは違うでしょ、どう考えても…だからっっ近いですって///!」
担当クラスに園長を連れて行く廊下でさえこんな感じで接して来るのに、、、はぁーーー。
先が思いやられる…
「皆さん、おはようございま~す」
「「「おはよーございまーす!」」」
早朝保育担当の先生達と、そのベテラン格の先生へも挨拶を済ませて。
今日のスケジュールをざっと口頭で園長に伝えていると、何やら下でピョコピョコと飛んでいる物体が、、、
「パパっ♡ママっ♡」
…ん?
ハッ!そうだった!
僕のクラスにはミヌ君が居たんだ!!
「あっ待って!園長、、」
「ミヌ~~!!」
「パパ~!!」
制止しようとした僕の声は完全に二人の声量に掻き消されてしまっていた…
久し振りの親子の抱擁にわらわらと集まり出す園児達。
その口からは「パパ?」「どうして?」「ミヌ君の?」と疑問が飛び交う。
慌てて僕はパニックになりながらも、グルグルと頭をフル回転させて、咄嗟に出た言葉が。
なんと、、
「今日からこの人が、、みんなのパパです!」
だったんだ、、、
相変わらず機転が利かない頭が憎い…
そしてそんな僕に助け舟を出す事を知らないミヌ君が追い打ちを掛けるようにして。
「そうだよ♪みんなのパパと、ママだよ~♡ねっ?」
と。
僕と園長の手を掴んでその真ん中でニコニコと笑い掛ける顔が、まぁ無垢な事。
お陰で……………
「パパ~!」
「ママ~!」
「パパは僕と遊ぶんだいっ!」
「じゃあ私はママとおままごとするんもん!」
本当に僕等はみんなの"パパ"と"ママ"になってしまったんだ。
でも、後日。
「チャンミン先生がママっですって!?教育上どうなんでしょうねぇ~」
キタキタ、保護者からの反発、、、
「あの…えっとですね、、、」
今日はベテラン格の先生が所用で系列の園へと出掛けているのに。
うぅ、、タイミングが悪いなぁ…
何かと前からこの保護者は僕に対して良い目では見ていない気がしていたんだ。
いつかはガツンとやられるんだろうなぁ、なんて思っていた矢先にこれだもん、、、はぁ…
いつまでもしどろもどろで上手く返せない僕を更にその保護者は執拗に責め立て。
どんどん追い込まれていく内に僕は俯いて唇を噛み締めるしか出来ないでいた。
けれど…
「ミンス君のお母さんですね。どうされました?」
一瞬、誰の声だか、僕にも分からない程の優しい響きで。
えっ?と名前を呼ばれた保護者と共に僕もその声の方へと振り返ると、
そこには。
「えっ、、///いえっ……あの//えぇ??」
ミンス君のお母さんがいきなりどもるのも分かるんだ。
何故なら、あの、園長が!
凄~く凄~く極上の笑顔を貼り付けて蕩ける視線を寄越して来ていたんだもん!!
「突然失礼しました。私はここの最高責任者のチョン・ユンホと申します。何か問題がありましたら私がお話をお聞き致しますので、どうぞこちらへ」
言うなり、ポォッと目がハートマークになってしまったミンス君のお母さんの手を優しく引き。
そのまま部屋を出て行ってしまう。
暫くして園長と共に戻って来たミンス君のお母さんは先程とは打って変わり、満面の笑みを散りばめながら。
「チャンミン先生ごめんなさいね~。そうよね、私達の代わりに子供達のお世話をしてくれているんですもの。お二人は立派に第二のパパとママですよね♡」
って、謝っているのか。
それとも園長に媚びを売っているのか。
語尾のハートマークは勿論、園長の目を見て言ってたし、、、
無事に解決、なんだろうけど……何だかなぁ………
ミンス君のお母さんの後ろ姿を見送っていると、いつものトーンに戻った園長は僕にも視線を寄越す。
でも、そこには極上の笑顔は無くて。
「何、膨れてんだ」
「…別に…何でも無いです…」
チッと舌打ちが聞こえて、ズキッと胸が痛んだ。
それと同時にじわっと目頭に熱い物が込み上げて来るからまた僕は無意識に唇を噛み締めた。
「ったく…俺の前でも我慢すんじゃねぇよ」
そんな声が頭上から降って来ると。
園長はギュッと噛んでいる僕の唇に触れ。
「血が出るだろうが…馬鹿…」
唇についてしまった歯型をそっと柔らかい舌先で舐めては血が滲む唇を優しくなぞったんだ。
「言ったろ、お前を守るって…」
そっと背中に触れる園長の手が、優しく何度も触れては離れて。
そこが、何処だったのか。
それさえも忘れる程に、僕は園長の肩で声を押し殺して泣いた。
でも、この日を境に。
守られるだけじゃなくて、隣でしっかりと歩んでいけるようなそんな男になりたいって。
そう密かに心に誓ったんだ…

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