2016_11
15
(Tue)00:00

Sweet honey #13













パリの気温はソウルとそれ程変わらなかった。






だけど寒がりの僕等はもこもこのダウンに更にネックウォーマーという出で立ち。
ショーウィンドウに映った姿はタイヤメーカーのマスコットみたいで顔を合わせて笑い合ったり。

ユノさんとこうしてパリにいるのが不思議で、何度も頬を抓ってはその痛みに嬉しくてにやけたり。

些細な事全てが胸を弾ませる。

わくわくって、こんな感じだったっけ?
今の僕なら何でもやってのけるかもって勘違いするくらいにハイになっていたんだ。

















「チャンミンこっちこっち」

「あ、はーい」

道も知らないのに勝手にあちこち歩き回る僕をユノさんが軌道修正をする。

機内で宿泊先のホテルを聞いたら、知り合いの所に泊めて貰うからって言われてその時は少しだけ緊張はしたんだけど。
すっかりとその事も忘れ去って夢心地な僕だった。


「ここにお世話になる」

緩やかな坂や階段を登って行くうちにもしかしてって…思いは薄々あった。

モンマルトルは祖父が住む地域。
だけど僕はどんな所に住んでいるのかさえも知らないでいた。
知りたいなら自分の足で来てみなさい、祖父はそう言う人だから。


一目で、分かった。

「じいさまの店…ですよね」

ユノさんは静かに頷く。


僕には引退すると言ってあの丘の煉瓦造りの店を譲ったのに…やっぱり辞められなかったんだ…

外観もそうだし、このお店の持つ雰囲気が僕の店と似ていた。

…そう言う事か、ユノさんが前に確かに僕の店に来た時の感想を何処かと比べて話していたのはこの事を言っていたんだ。


「じゃあいい?」

お店の傍にインターフォンがあり、それを押そうとするユノさん。
僕の胸の高鳴りはワクワクとはまた違ったリズムで跳ね上がっていた。

暫くすると呼び掛けに対してくぐもった声で「よく来たね」と。

久し振りに耳にする祖父の声だった…


だけど僕等を中に招き入れたのはユノさんよりも歳上の男性で、驚いた僕に対してニッコリと微笑んで握手を求めて来る。

「えっ、、?」

「チャンミン、この人はお祖父さんのお店を手伝っているクロードさん。此処で下宿しながら目下修行中らしい」

おずおず出した手をユノさんに引っ張られてクロードさんの手に重ねられる。

片言だけど僕もフランス語は話せるし、ヒアリングは8割ぐらい出来たからその後は直ぐに彼とも打ち解けてホッとしたけれど。

僕の知らない祖父の生活をユノさんはどうして此処まで知ってるんだろう…



その答えを祖父が教えてくれた。


「やっと来たね、私の仔犬。何処で道草をしたらこんなに遅くなるのかな」

はは、と相変わらず僕をいつまでも子供扱いの祖父は《ウリ カンアジ》と呼んで目を細める。

するとユノさんが、傍でぷっと吹き出し。

「やっぱりそっくりだな、その片目を細くする癖。一発で血の繋がりを感じた」

確かに、偶に会う両親は僕の顔を見て祖父に年々似て来ているとは話していたけど、、、

まさか…ユノさんまで…


「じいさま…どうしてパティシエを続けている事を教えてはくれなかったんですか、、」

「おや、久し振りにあった年寄りに対して可愛げのない事を言うねチャンミナ」
「…っ」
「はは、冗談だよ。これでもお前にはすまないと思っているんだ、突然隠居宣言した私をバックアップしてこうしてパリに出してくれた頼もしい孫だからな。…けどね、こっちに来てみてしみじみ感じたよ。ばあさんと過ごしたあの思い出の詰まった店が恋しいってね…」

最後は呟くようにそっと絞り出した祖父の声が少し震えていたと思う。



祖父は昔、パリで修行を重ねて帰国後にソウルの有名なレストランのパティシエとして名を馳せていた時代があった。

けれど晩年は祖母と二人で僕が今任されているあのお店の丘でひっそりと過ごす事を望んで小さな菓子店を開いたんだ。

どうしてあの建物を手に入れたのかは未だに分からないけれど、恐らくそれも祖母の趣味を重んじたからじゃないかと思っている。

「お前が居るあの店にはばあさんが選んだ宝物が詰まっているから、あれはあれでいいと私は思ったんだ。だけどせめてその思い出に浸りながら、青春の時と共に此処で最後を迎えたいと。そう考えてクロードにいつかは託すつもりでまたパティシエの道を選んだんだよ」

昔、僕には職人の顔をした祖父は怖い存在だったけれど。
でもふとした時に見せる孫を愛でる祖父の一面が大好きでもあった。

「…じいさま…っ…」

皺々の手が、年季の入った建物と同じように味があり。
僕の手を握る温もりもまた、心の塊を溶かして行く。

ゆっくりと時間を掛けて湯煎で溶かされるバターのように…外側からゆっくりと…


「私を許してくれるかな、チャンミナ…」

「…勿論ですよ、、」

「ふふ、すっかりと男前になって。ユノさんがお前を欲しいって言い出した時はどんなに愛らしい男性に変わってしまったかと憂心を抱いたもんだが、逆にユノさんにそう言わせたお前を今は誇らしく思うよ」

「え、、///」
「あ!、それは言わない約束で、、」
「ユノさん!?どう言う事ですか…」
「あー・・チャンミンごめん…実は」

「ユノさん、私が代わりにチャンミナに話してやろう」

ユノさんの話の続きを祖父が引き継ぐ。

その話は、奇跡と運命を思わせる一人の男の物語だった。



















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