Sweet honey #10

「…ん、…痛っ…」
頭が少しズキズキする…
あぁ、、そう言えば昨日、ヤケ酒したっけ…しかもお菓子に使う為の新品のリキュールを空けたんだった…
あれ…今、何時だ…
「うわっ、、お店が、、!?」
視界に入った時計の針は起きる時間と言うよりも、お店を開けるべき時間をとうに過ぎている。
だけど身体が重くて思うように起き上がれない。
と言うか、、何かに纏わり付かれていて……
「……チャンミン…うるさい…」
「ユノさん、、!?」
「…お店は休みだよ…シウミンって子がそうしてくれってさ…俺…時差ボケでまだ眠たい…ほらチャンミンも大人しく寝ろ…」
ユノさんの目は一度も開く事は無かったのに、僕の身体は見事に腕の中にすっぽりと包み込まれる。
久々に触れたユノさんの身体にドキドキしたのに。
自分以外の体温に包まれている内に自然と僕の瞼も閉じて行った…
何だかやたらと擽ったくて、もぞもぞしたら。
今度ははっきりと唇の周りをぺろりと舐める感触にガバッと起き上がる。
「やっと起きた~俺腹減って死にそうだよ~」
そう言いながらユノさんは僕の唇をぺろぺろとまだ舐め続けている。
「チャンミンの口も甘くて美味しいけど、全然足りない…もっと食べ応えがある物って無いの?」

「……あ」
「あるんだ?」
僕はユノさんの身体を潰さないように腕を伸ばして、ベッドの脇に隠して置いたマロングラッセを取り出す。
「おぉっ」
途端にユノさんの目に光が宿る。
いつものキラキラのユノさん、僕の大好きなユノさん…
「食べていい?」
「えぇ…勿論です」
「やった、俺これ好きでさ」
「そうなんですか?」
「そう。…いただきます」
僕の勝手な想像では、ユノさんはマロングラッセをパクパク口に放り込むイメージだったのに。
「うん…やっぱり懐かしい…」
一口、噛みしめるようにしてゆっくりと一粒を味わった。
ほっくりと栗の甘みを楽しむユノさん…嬉しいな…
「…俺さぁ、昔これと同じのを食べた事があって。初めてこのお店に来た時もあれ?って思ったんだけど、ケーキ食べてみたら、んん?ってなって。それをあっちで確かめて来たんだ」
ユノさんの手には2個めのマロングラッセ。
チュッと軽く口付けて、一口齧る。
そして、残りは僕の口の中へと放り込んだ。
「なぁ…チャンミン、突然俺が居なくなって寂しかった?だからあんな馬鹿みたいな真似したんだ?」
栗に歯を立てるとじわりとラムの香りが広がっていく。
ユノさんが言う馬鹿みたいな真似って言うのは昨夜の僕が飲み干したリキュールの事。
口の中はまだそのリキュールが少しだけ残っていて、ラムと混ざり合って独特の味わいになっていた。
そんな複雑な味が顔にまで出て…僕は…
「…泣くほど寂しかったか、そっか…ごめんな。はぁ、、、チャンミンにこんな想いさせて、くそっあのタヌキジジイ!」
「タ…ヌキ…?」
「あ、…あぁ。俺、今の美容室のオーナーに呼んで貰ってあそこで雇われ店長やってんの。でもその前はずっとパリに居てさ。有名なヘアメイクアップアーティストの下で仕事してたんだけど、いきなり追い出されて…」
…シウの話と一致する、本当だったんだ…ごめんなシウ…
「その追い出した本人からまたパリコレの手伝いしろって突然連絡が来て、拒否ったら俺を囲ってくれたオーナーの立場が危うくなるとか脅しやがって、、渋々協力だけしてさっさっと帰って来たわけ」
そう話すユノさんは苦々しい顔で栗を齧っては、その後、頬を緩めていた。
怒ったり笑ったり、くるくる変わるユノさん…
そっか…そんな事があったなんて僕は全然知らないから…
「あっちを出た時点でソウルに到着したら真っ先に此処に来ようって思ってさ。でも店も勿論開いてないし、裏に回ったらチャンミンがあんな風になってたから悪いかなって思いつつ泊まらせて貰ったんだ」
「……そう言えば、此処に泊まるのって初めてですね」
「そっ、いつもヤるだけだったし」
「…そうでした…///」
「ずっとさ」
「ん?」
「俺はいつ泊めてくれんのかなって思ってたよ」
「………」
ユノさんの手は最後の一粒を摘んでいる。
「これって。男相手に贈っても意味は同じだとチャンミンは思う…?」
問うでも無くて、柔らかく微笑むユノさんはその答えを待ってはいないようだった。
「パリの仕事は時々するかもしれないけど、俺は坂の下の店の方を選んでこうして戻って来た。ずっとチャンミンのお店と繋がっていたいし。って、まどろっこしいな、、」
ユノさんは僕の唇に栗を押し当て。
「俺の全てをチャンミンに受け入れて欲しい」
ゆっくりとそれに近付きながら。
「…此処で一緒に暮らそう」
キラリと光る宝石を挟んで僕等はキスをした。

永遠の愛を誓う、このマロングラッセに…

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