Sweet honey #2

唇と唇がくっ付いて、離れる暇無くくっ付いて。
一体いつ皿を台に置いたのかも分からない。
不器用そうに見えてこの人は器用なんだった。
そうじゃなきゃあの商売には向いていないんだけど…

ユノさんはこの丘の下にある美容室の美容師さん。
一応、店のオーナーらしいけど本人はあまりそんな事を口にしないからその点は僕も深くは聞かないでいる。
僕が祖父に代わってこの店のパティシエを務める事になった頃にユノさんの美容室もお店を構えたらしい。
だけどその開店当初はユノさんはそのお店に勤めてはおらず、途中から来たって事だけは本人の口から聞いた。
そして美容室のお客さんの口コミで僕の店にふらっとやって来たのが数ヶ月前。
坂を下る事はあっても登る事は無かったとかで、物珍しそうに店内を見回していたのが印象的だった。
この時、既に僕はユノさんに一目惚れをしていたと思う。
もしかしたら僕の性的指向を知っているシウもこの時点で何かを察したのかな….
兎に角その日から僕はドアベルが鳴るとは直ぐに飛んで行った。
でも、ユノさんは毎日は来なかったんだ。
次の週に諦めつつまたドアベルの音につられて顔を出した所で、待ち人来たり。
ユノさんは一言、『恋しくて』
そう僕に向かって微笑むんだ。
だからその日は偶々早く上がってくれたシウに感謝をし、普段はシウと僕しか入れないスペースにユノさんを連れ込み。
お薦めのケーキを一口ずつ口に運ぶユノさんに見惚れた。
シュワッと泡のようにユノさんの口の中へ消えて行く生クリームに僕もなりたい…
美味しそうに最後の一口をフォークに乗せて、はむっと。
そんなユノさんにドキドキと心臓が高鳴る。
お約束みたいな口の端の生クリーム。
赤くて薄い舌がぺろり、心臓のドキドキは最高潮を迎えた。
僕はただ単に見ているだけで満足だったんだけど…
『そんなに美味しそう?』

自分が作ったケーキの味は大体分かってるから、美味しい!と改まっての感激は薄く。
だから目の前で食べられても羨ましい程でも無い。
『え、あ、、』
戸惑ってる隙にユノさんは唇を僕に押し付けていた。
そして『どう?』
って……
それが僕等の関係の始まりだ。
「チーズのケーキなんて昔は駄目だと思っていたけど、食べてみたら案外イケるもんだな。…要は食わず嫌いだったって事か…」
一人で納得して、僕の唇をまた塞ぐ。
ユノさんの舌を通してクレメ・ダンジュの爽やかな酸味が絡み付く。
僕だって闇雲にユノさんにお薦めしたわけじゃ無い。
多分ベイクドタイプのチーズ系よりもこう言ったさっぱりとした感じを好むと思ったから予め用意しておいたんだ。
ユノさんが来そうな日は大体ユノさん好みの仕様に変わるショーケース内にシウも薄々気付いてたりして…
だから帰り際に何か言いたそうな顔をしてたのかな?
ユノさんの舌を覆っていた甘味が感じられなくなる頃には、僕の身体は火照って熱を持て余していた。
そして。
デコ用とは別に作業台の隅に置いてあったホイップされた生クリームが入ったボウルに、ユノさんの手が伸びるのが僕等の次のステップの合図。

「本当は…ここで丸裸にして今直ぐ食べたいけど…ほら、舐めて」
ひと匙、指で掬ったホイップを僕の目の前に突き付ける。
本当は甘い物なんてもうお腹いっぱいで沢山なのに、ユノさんに言われると自然と僕の顔は指に吸い寄せられるから不思議。
多分、それは。
「美味し…」
生クリームに隠されたユノさんの指を食べたいから。
砂糖もチョコも何も加えずしても、その指を僕はいつまでも舐めていられる。
「こら。そんなに舐めたら俺の指が無くなるだろ」
顎の下をするりと撫でる指に背筋が粟立つ。
腰掛けから立ち上がったユノさん、顎はまだユノさんに持たれたままだ。
僕の顔は自然と上を見上げる形で、ユノさんに見下ろされていた。
「…ユノさん…」
「ん、?」
ユノさん、、ユノさん…
僕の顔はユノさんの膨らみに沈み。
鼻先を埋めて擦り付けると徐々に芯が硬くなっていく。
「チャンミンはこれが欲しいのか」
「…はいっ、、」
だから僕にもっと。
ユノさんを味合わせて下さい。

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