2016_11
02
(Wed)00:00

オトコはツライよ #96







「あ、こんばんは~」


「チャミパパーっ!」

声はするけど全く姿を見せる気配が無いので、勝手知ったる家だって事で、遠慮無く上り込む。


「お邪魔します」

12畳ほどのリビングには既に鼻先を擽るようないい匂いが漂っていた。

「あら、お疲れ様チャンミン君」

キッチンに立つチェリンさんが今僕の存在に気付いた様子でにこやかに笑みを向ける。

「チャミパパ~お帰りなさいっ」
「エナ、ただいま。あれ?うちのテヤンはどこに…」
「あぁ、、テヤンね…隠れんぼかなぁ、、」

チェリンさんの一人娘のエナは気さくで明るい性格の為、クラスでも目立つ存在だ。

その彼女にいつも尻に敷かれ気味で、それでも側を離れようとしないのが僕の息子のテヤンで…

学校帰りもこうして隣の家に住むチェリンさんの所に入り浸りだった。

「隠れんぼ?」

僕がエナにそう聞き返すと、チェリンさんはくすくすと笑い。
目の前のエナが苦笑いを浮かべる。

「…宿題をしていない、とか?」

エナが小さく首を振る。

「ご飯の前におやつを食べ過ぎた、とか?」

エナの顔付きが一瞬だけ微妙に歪む。

「おやつ…んー、沢山食べちゃったけど、それは違うかなぁ、、」


普段、物事をハッキリと言い切るエナにしてはこんなに濁すのも珍しい。

「…何だ?何をしたんだ、、」


小さな手が僕のスーツの裾をキュッと掴むと。

「…チャミパパ、、テヤンは悪く無いの…」

まるで許しを請うように瞳を揺らしてじっと見つめて来るんだ。


それで大体察しはついた。


「うん、エナ…分かったよ。テヤンの事は怒らないから」

僕のその言葉を聞いて、エナの顔にやっといつもの笑顔が戻って来る。


「…ぱ、、ぱ…」

エナに言った言葉を身を潜めて聞いていたテヤンの耳にも届いたらしく、ソファの影から半べそをかいた顔を出した。

けれどその顔に出来たばかりの擦り傷があった。

「テヤン…こっちにおいで。怒らないからどうして喧嘩をしたのかパパに聞かせてご覧」

「う、、っ…」


昔はよくその感情のままに泣いたり喚いたり、素直に気持ちをぶつけるような子だったけど。

大きくなるにつれてその感情を抑える事を覚えたようで、滅多な事ではテヤンからクラスの子らに喧嘩を仕掛けたりはしない。

だからこそ、偶にそう言った事があると本人は気不味さから僕から隠れる事が多かった。


何故なら。

大抵の理由が、僕と、ユノの事で……

「ユノパパがテヤンと本当の親子じゃないのに一緒に住んでるのが変だって、言われたのよね?」

隣からエナがテヤンの代わりに口を挟む。
下手するとこのままだんまりを決め込む可能性が高い為、僕を思っての事だろう。

変な所に頑固なんだよな…誰に似たんだかっ…

そのくせ、僕に内緒だって言ってユノには結構な割合で相談しているのも知っているんだ。

内心は複雑だけど、テヤンなりのルールみたいなのがあるからこれは言っても直らないと思って諦めはついている。


「…そうか…それでテヤンは言って来た子に何をしたんだ?」

「………僕は、、間違った事は言ってない…」

運動はあまり得意じゃない分、本を沢山読むテヤンは少し大人びた口調を使う。

それは時として、小学三年生の同級生からは疎ましく思われる事もしばしば。

手は出さない代わりに理屈で丸め込まれてしまうから、相手も言い返す事が出来なくなって腹ただしさを覚えるんだろうな…

「…テヤン…」

ごめん、とその言葉は胸の中で呟き、震える身体を腕の中に抱き締める。



この街に家を建てる、と唐突にユノから提案を受けた時点で、僕の中ではまだ提案だと思い込んでいた。

だけど、言葉にして発信した時点でユノの中ではもう決定事項になっていたようで。

それからはもう目まぐるしい早さで物事が進み出した。

宣言通りにユノはあっさり会社を退職し、そして直ぐに転職先を見つけて今もそこで働いている。

僕は家を建てると言う理由を元に、次年度に予定されていたであろう異動のリストから外され、変わらず支店勤めの身だった。

ただ、かなりのフライングでユノが退職してしまった為に。
ユノだけ社宅から出る羽目になって家が完成するまでの期間は別居。

でもそれはその時だけの話。

ユノと僕の折半で完成した家に入ってからはずっと三人は一緒に暮らしている。


…その事を、言われるんだよな。

子供は正直だから仕方ないと思うけど、恐らくそう言い出す子の親も僕等を良い風には思っていない事の現れだと思っていた。

だから以前、言い返した事で今日のように傷付いて帰宅したテヤンに対して僕は思わず『ごめん』ってそう言ったら…

『パパもユノも悪い事なんてしてない!』

僕の胸を叩きながら、大粒の涙を流したテヤンに言い切られた過去があったんだ。


それ以来、僕はこの件に関してテヤンにごめん、とは口にしていない。


「あぁ~寒いね、、」

「あっ!おばあちゃんっ」

エナが駆け寄ると、今日の残り物だよって売れ残りの惣菜の品を手渡す。

エナはそれを母親の元に持って走る。


ユノに土地を提供し、今も現役でスーパーの惣菜部門を任せられているおばちゃんはエナの祖母で、チェリンさんの母親だった。


「おや、テヤン。…男の勲章だね」


僕の腕の中に収まるテヤンの顔を見て、おばちゃんはそう呟いてにんまりと微笑んだ。



シングルファザーの僕はテヤンとユノと男三人で一つの家に住み。

同じ敷地内に寄り添うようにして建つ一軒家に、惣菜のおばちゃんを筆頭に、一度は結婚して出て行ったチェリンさんが幼いエナを連れて戻って来てからずっとこの家にも女しか居ない。

ある意味、この二つの家が一つの家族になっていた。















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