2016_10
31
(Mon)00:00

オトコはツライよ #94







上質な豚は脂も美味しいらしく、カリカリに焼き上げた肉をハサミで切り分けている側から課長の手が伸びて来て。


キムチやニンニクを乗せたサンチュを片手にいそいそと肉を包み込み。

「はいっチャンミン、あーん」

バタバタ動き回ってる僕を捕まえてはそう言って口元に添えてくれた。

「ん、うまっ」

「だろ?ユノスペシャル最強~♪」

…そもそも肉自体が美味しいですからね、とは口が裂けても言わない。
それが恋人に対する思いやりだと僕は思っている。

それにこんなに甲斐甲斐しく交互に僕とテヤンに食べさせてくれる課長の優しさが。

何より嬉しい事だと思ったから…

「ここに来てまで働かせてごめんな」

テヤンは完全に食べるのを専門としていて、僕は調理係に徹していた。

非日常のキャンプなのに普段と変わらない役割りに申し訳ないと言った様子で課長が僕を見つめる。


貴方の喜ぶ顔が見れるから、全然苦じゃないんですって…言ったらもっと喜ぶんだろうけど…

「はい、あーん」

「ん、、なんか僕ばっか食べてません、、?」

さっきから自分で焼いた肉を課長の手を経由してまた僕の元に戻って来ている気がする。

「いいのいいの、チャンミンが喜んでくれるだけで俺はお腹が一杯になるんだから」
「………っ、、」
「おっ、もう酔った?顔真っ赤だけど??」


はぁ…、もう本当にこの人はっ…


「じゃあ…お腹一杯ならデザートは要りませんよね」
「あ、それは別腹」
「と、言うと思いました。じゃあちょっと早いけど…デザートです」

「えっ、…!?」


キスしてから、テヤンの目がある事を思い出して。
あぁ、、しまったと思ったけどそれはもう遅く。

脂でギトギトに濡れていた僕の唇目掛けてテヤンが噛み付いて来たのはちょっと予想外と言うか、、

「痛っ!!」

事故と呼べばいいのか、、


歯型の付いた唇を見て青ざめる課長と、熱烈的なキスに悶える僕を尻目に。

テヤンだけがてっきり美味しいデザートが貰えた筈だとしきりに不思議がっていたんだ。

非日常。

確かに…僕はちょっとだけ浮かれていたかも、だった。











いつも僕等が見上げている夜空と同じとは思えない程、今の僕の目には沢山の星が映り込んでいた。

テヤンにとっては恐らくこんなに星を眺められたのは初めての事かもしれない。

「綺麗、ですね」
「あぁ、、本当に…」
「……綺麗」
「…うん…」
「……」


こうして息子と課長と三人で肩を寄せ合ってゆったりとした時間を過ごせるのもあと何回だろうと、ふとした時に考えてしまう。

僕等がお互いに抱いている想いが一過性のものでは無い事は重々承知していても。

今の状態が今後も継続出来る保証なんてどこにも無い事を、当人である僕等が痛いほど分かっているだけに……


「テヤン。そろそろテントの中でユノとパパとねんねしようか?」


前回と同じくして、僕の心には。

このまま時間が止まって欲しいと願う気持ちが込み上げてしまう。

明日になったらもうこの森から離れなければならない…

次、ここに来れるのはいつなんだ…?

あと何回この森に三人で来れる…?



課長は多分、僕と同じ時期にこの街を離れてしまうんだから、、、






大人二人に子供一人でも余るくらいに広いテントの中で、何故か中央に身を寄せ合って横になり。

まだ寝袋なんて本格的な物を必要としないでいいような気候だったから、軽いハーフケットを半身に掛けるだけで済んで助かっていた。

だからかな、それがまるで家にいるような錯覚に思えて。

つい…

「なんか変に落ち着きますね」

感じたままの感想が口からポロッと溢れてしまう。

だけど課長がいつものように笑ってくれるんだって、僕は勝手にそう思ってその横顔を見たんだけど。

その視線が交じり合う事は無くて…


「…うん、妙に落ち着くよね。テントなのにさ」

テントの天井を見上げたままで僕への返答をした。

「えぇ…テントなんですけどね…」

戸惑いを隠しきれないまま、僕も鸚鵡返し。


すると次の瞬間、寝息を立て始めたテヤンを飛び越える勢いで課長の身体が僕に向き。




「家を建てよう」


そう、言ったんだ。













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