オトコはツライよ #80

課長は背を向けているから、その顔は見えなかっただろうけど…
僕の視界に映り込むジェミンの表情は。
…複雑そうだった。
「帰るよ」
そんなジェミンに振り向く事なく、課長は僕の背で暴れる息子を腕の中に抱えてそのまま玄関のドアを閉めたんだ。
息子に手を焼いて、助けて欲しくて。
そして…課長に会いたくて。
その一心で何も考えずに単身寮に乗り込んでしまったけれど。
僕は、全然…ジェミンの気持ちを思いやっていなかった…
何だろうな……折角会えたのに……複雑な気分、、
あんなに泣いていたのが嘘みたいに、元気を取り戻した息子は。
泣きながらも決して離そうとしなかった唐揚げの袋を、満面の笑みで課長に手渡していた。
もしや…大好物の唐揚げを食べなかった理由って、、
好きな課長と一緒に食べたかったとか…っ、、
……はぁ…、健気だ…
僕の最大のライバルはやっぱりこの息子なんだろうけど。
老若男女問わずしてモテまくる誰かさんが元凶だと思う。
だけど、渦中の人はもうジェミンの事なんて忘れてしまったみたいに目の前で息子と仲良く唐揚げを頬張っている。
「…この、人誑し、、」
「ん?シム君が??」
「ち、ちがいますよ!!」
「はは。殺気立ってるね、はい、あーん」
暗いとはいえ、一応ここは公の園。
「誰も来ないって…ほら」
手掴みで口元に持って来られると、自然と喉が鳴る。
ガブッと、噛み切るのが面倒で全部口の中に押し込めると。
結構大きい一口の所為で、頬がパンパンになった。
課長は親指と人差し指についた脂をペロッと舐めて、もぐもぐする僕を見つめるなり。
「リスみたいで可愛い」って。
でも、僕は口の中が唐揚げで一杯で何も言えないから。
ただ首を横に振るだけ。
すると、「自覚ないの?」と。
心底不思議そうな顔をした課長は、はぁ…、とこめかみを押さえて溜め息を漏らすんだ。
「罪だよね…シム君って、どっちが人誑しだよ」
ははって、今まで聞いた事もないような課長の乾いた笑い声。
いまだにもぐもぐ状態の僕は、目で「はぁ!?」と訴えるしかなく。
そんな僕に対しても、「その目、それそれ!それで何人落とした?」とか。
反論の意味で咀嚼しながら、頬を膨らませると。
「出た、頬っぺツヤツヤぷっくり攻撃」って言いながら。
まるでりんごに齧り付くみたいにカプッと噛み付かれてしまう。
「それ見せられる度にこうしたくなるんだって」
って、噛み付かれた側の僕よりも、何だか拗ね気味な課長。
腕の中の息子はいつの間にか眠りの中へ落ちていた。
「あの、、!さっきから大人しくしてれば一方的に、、!!」
やっとの事で全部飲み込んで、言われっぱなしは癪だと言わんばかりに反撃を繰り出そうとした僕に。
「怒る時も、照れた時も。そうやって耳まで真っ赤になるよね」
ギラギラに脂が付いた僕の唇を躊躇せずに、課長はチュッと軽く唇を押し付けて来る。
不意打ちでドキィッと心臓が勝手に跳ねた。
キスは…ずるい…戦意が一瞬で喪失されるから、、
「無意識でやってるみたいだけど、舌をちょっとだけ出して考え事してる時があるでしょ。あれ、ただ可愛いだけだし」
そして、またチュッて。
「あ、あとあれあれ!目を瞑ってさ、僕は幸せだなぁ~って顔。あんなん目の前でやられたら一発で悩殺だから」
話しながらキスされてるけど、、これってもしかしたら僕に対する抗議とか、、?
「全部、自覚無いでしょ」
拳一個分が開いた距離で傾く顔。
「…はい、、」
「だろうね…だからジェミンも好きになってしまったのは仕方がない事なんだけど、、」
えっ、て口が開いた瞬間。
懐かしい味がした。
課長は僕と付き合い始めてから煙草を吸うのを辞めたって言っていた。
だけど、当初はキスをすると仄かに煙草の香りが舌から伝わっていたんだ。
でも、宣言通り近頃はめっきりその香りがしなくなっていたのに。
今の課長の舌は煙草の香りを乗せている。
「…煙草、、」
まさか………ジェミンと、、、!?
「あぁ、、口寂しくてつい…」
う、浮気確定だ、、、、
「…………うっ、、」
「だからさ、今急速充電してんの」
ぶちゅぅ。
・・・・え?
(*∵)シム君って案外鈍チン…そこが可愛いんだけどね…
舌ペロ

頬っぺたぷくっ

耳まで真っ赤

幸せだなぁ

(੭´・J・)…可愛い…かっ、、!?
ヤル気スイッチ入りまくってます♡
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