オトコはツライよ #77

灸を据えてもあんなにめげなかった課長が、近頃は何だか大人しくて。
有り難いやら、心持ち寂しいような。
複雑な想いを抱きつつ、先輩と昼に出掛けた定食屋での出来事。
始まりは。
「お前さぁ、気付いてた?」
この先輩の放った一言だった…
「…え、嘘だぁ、、」
気付いてた?と聞かれて、何がです?と答えた僕に対して明らかに悪い笑いを先輩がした。
その時点で嫌な話かな、、って思ったけど。
気になるような切り出し方をされて、そこで聞くのをやめるような勇気が僕には無くて。
最後まで話を聞いて…心底後悔をしてしまったんだ……
「お、?シムはこの話を信じないかー、ま、俺の予想だとジェミンの奴が課長に尻を開くのは時間の問題だと思うけどな」
場所が場所なのに。
会社の近くの定食屋だって事も忘れてドヤ顔を決める先輩の無神経さにも驚かされるけれど。
それよりも、、僕には…いつの間にそんな噂が立つほど、課長とジェミンの仲が良くなっていたのか、、
その事の方にショックが大きかった。
でも。
尻を開くじゃなくて、股を開くでしょうが!のツッコミが僕から無いのを先輩は別の意味でまた勘違いをしていたらしく。
「今まで一緒に住んでた課長が男に走ったら、それはそれでお前もキッツイよな。うん、分かる分かる。でも、大丈夫だ、安心しろ。多分、課長の好みはお前じゃないから」
「・・・」
それは…一体どういう意味で、、?
と言うか、現時点で課長は男に走ってますけど。
とも言えず。
「あ、ここだけの話だぞ?」
と秘密の共有を勝手に持ち掛けた先輩を。
ただただ、恨めしく思った。
【ごめん、今夜部下と飲みに行く事になったから】
普段なら、こんなカトクのメッセージにも、了解です、の短文を返すだけで。
特段、詮索もしないのに。
運悪く今日の今日。
ただただ嫌な予感しか無くて。
聞かなきゃいい、知らなきゃいい事もある。
【誰とですか?】
それが出来ないのがこの僕だ、、
【若い奴ら】
ジェミンは入社三年目、若手の部類に勿論入る。
【分かりました】
落ち着きを払って返したカトクのメッセージとは裏腹に、内心は燻って燻って、、
「何だよ…もう腹減ったのか?」
呑気な声が横から聞こえ、ガタッと手前の引き出しが開いた瞬間。
僕は根こそぎおやつを奪い取り。
ギャーギャー騒ぐ先輩を尻目にチョコ餅を頬張った。
…もう、課長の嫉妬なんて知るか、、!
前みたいに。
二次会を蹴って、走って帰って来るもんだと思っていた…
「…起きてなくて良かったのに」
あともう一本飲んだら寝よう、これで最後。
そう言いながらグダグダと飲み続けて、気付いたらかなり遅い時間になっていて。
鍵を自分で開けて入って来た課長が僕の顔を見るなり、そんな事を言うもんで。
つい。
「別に…っ、待ってませんけど、なんか、ちょっと自意識過剰過ぎるんじゃないですか?あ、それとも自分だけ飲みに行けたから僕が起きてたら帰り辛かったとか?」
「そんなつもりで言ったんじゃない、、」
「あー、はいはい、いいですいいです、、どうせ子持ちでアフターファイブに付き合えないような先輩よりも、スマートで?お金も自由に使えて?仕事もデキる上司しかお呼びがかからないのも分かってますから、、」
「……俺、そんな事、言ってないよな、、?」
この時点で、止めれば良かったのに。
僕は馬鹿だった。
「言ってないけど、、こうして僕が一人で居るのは事実じゃないですか…どうせ、僕なんか、、」
「シム君、、?」
「飽きますよね、、こんなつまんないオトコなんて、、ははっ、、いいんです、別に、、はははは、、!」
「いいって、、どう言う事だよ、、?」
「あー、、、すみません…そう言えばナイショの話でした、、はは、、っ」
相当、酔いが回ってたんだよ。
聞き流してくれれば良かったのに。
「何だよ、、その言い方。まるで俺が…」
そこで僕の記憶はプツリと途切れていた。
朝、けたたましいアラーム音が鳴り。
布団の中でズキズキと痛む頭を起こしてスマホを探す。
その時、息子の隣に居る筈の課長の姿が見当たらなかったんだ。
僕等は、初めて。
喧嘩をした、、、

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