オトコはツライよ #66

「ソーセージの塩味が麺に生きてますよ、、!」
「うんうん」
脂身がない分ベーコンよりもくどくない、食が進む感じ。
「それに、麺とソースと卵の絡みが絶妙ですし、、、」
「うんうん」
パスタよりも乾麺の方が縮れている為、こってりとしたソースとかき混ぜた卵がいい感じに絡み付く。
「んー、、そしてこれ!トッポギが最高にうまいです!!」
これに関しては、ぶっちゃけ要らないんじゃね?って実は思っていた。
でもそれは違っていた。
最後の方にトッポギを投入したから、食感がやや硬めのままなんだけど。
それがいいアクセントになっていて食べ応え抜群。
ブラックペッパーを少し掛けるとまた味が締まって大人テイスト。
「あー、ワイン飲みてぇ…」
考えるよりも先に思わず口から溢れ出る。
「言うと思ってました~」
「エッ!!?」
またまた不思議なリュックからポンッと飛び出したのは、よくペットボトルなんかを保冷したり保温したりする縦長の袋で。
そこからぴょこっと顔を覗かせているのは明らかにワインのキャップらしき物、、
「白って気分じゃない?」
ニヤニヤしながら少しずつ袋から全体像を露わにする課長は、まるで手品の種を明かすみたいにどこか楽しげだ。
「えぇ、…そうですね…確かに白って気分かな…」
その答えに満足したらしい課長は、うやうやしくハーフよりも更に小さい200mlのワインボトルを僕に差し出す。
「つめた…」
キンキンに冷えている。…いつの間に…
「昨日の夜にこっそりと冷蔵庫の奥に冷やしておいたんだ。今朝はバレないかってすげえヒヤヒヤしたけどね」
その顔は全ての種明かしが終えて大満足してますって感じ。
いや、、大満足してるのはこっちなんだけど…ふふ、まぁいいか。
貴方が笑顔ならそれだけで僕も幸せですしね。
「んんんんんー、、ウマっ!」
きりりと冷えたワインが五臓六腑に染み渡る。
はぁ、…本当に幸せだ、昼間っからワインなんて滅多に飲まないし。
「冷え加減はバッチリ??」
「えぇ、バッチリです。…と言うか、赤ワイン以外は何でも冷やしちゃうんで。それが合ってるのかは分からないんですけどね。でもキンキンに冷えてるのが好きなんです」
「知ってる」
「・・・そうですか?」
へぇ…よく見てるんだな…
「だって好きな人の事ならついつい何でも気になるじゃん」
「お、、」
この人って本当に…
「とか大口叩いちゃってるけど、実はこんな風に知りたいって思ったのはシム君が初めてだけどね」
一瞬にして僕の心をぎゅっと。
…掴むんだよな…
「…僕も、ですよ…」
「…そう、?」
そこは少し。
照れるんだ…?
「はは、、」
「やべ~、、、!恥ずかしい!!」
「ははははははは、、!」
あぁーー、、、
楽しい。
デート、最高。
ワインはコッヘル2杯分。
ほろ酔いぐらいが昼間の柔らかい森に注がれる日差しに丁度いい。
お腹も満たされて二人してレジャーシートの上にコロンと寝転がった。
両手を広げた際にコツンとぶつかった指は自然と絡み合って。
触れた指先だけがじんわりと温かい。
そんなに酔ったわけじゃないけど、もう動きたくない。
このまま時間が止まればいいのにな…
「シム君」
「…はい?」
目を瞑ったまま、少しだけ繋がれた指を返事と共にちょっとだけ握る。
「…今度は、3人で来ようよ」
あぁ、僕って馬鹿だ。
時間を止めたら。
ここに息子の存在は永遠に無いのに…
「そう、…ですね…」
鼻の奥がツンと痛い。
「俺。家事ももっと頑張るから」
「…はぁ、、?…」
会話の流れが急変更して、込み上げた物が引っ込んだ。
「俺も父役でも母役でもどっちにもなれるように努力する」
「え、、、ちょっと、、それって、、」
「だから」
ぎゅっと、痛いくらいに指がしなる。
「ずっと、3人でいよう」
痛くて。
つい、振り解きたくなる程の力。
でも…
それだけの覚悟を持って、言ったんだって。
伝わり過ぎるから、、、、
どんなに指が痛くても。
僕には、…………解く事が出来なかった。
だって、、それって……

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