オトコはツライよ #64

デートねぇ、、、
映画?ショッピング?美術鑑賞?
デートなんてもの自体、久しくしていない。
だから今更改まって、はいどうぞって言われてもなぁ…
妻の御両親の突然の訪問の際に出されたデートの提案に、課長は手を叩いて喜んでくれていたけれど。
いざその日が近付くにつれて僕は何だか緊張し、課長は明らさまに浮き足立っているような感じで。
お互いにふわふわと落ち着かない心を抑えながら残りの数日間を過ごす羽目となったんだ。
「うんと楽しんでらっしゃいね」
「え、はぁ…、まぁ…」
息子を迎えに来た義母はホクホク、という例えがぴったりな笑顔を貼り付けて僕を見送った。
そう、今日がデート当日。
やって来てしまった、、それで、これからどうするんだ…?
昨夜の甘えタイムで、課長が自分に任せて欲しいみたいな事を言い出して来て。
僕としても自分のプランに自信が持てなかっただけに願ったり叶ったりの申し出。
即、二つ返事をした為に今日の詳細を全く知らない。
でも、ここ数日間。
課長が僕に隠れてこそこそと何かを準備をしているのは知っているんだ。
果たして…それが何かかは…、、知らないけれど…
社宅に戻ると、既に玄関で準備万端な課長。
そして、その背にはパンパンに詰まった大きなリュックが担がれていた。
「えっと、、登山とか…?」
明らかにそれは、映画館やショッピングなどの街場に行くには相応しく無い装いで思わずそう尋ねると。
「ぶぶーっ不正解!でも惜しいかな??いや、惜しく無いか??」
なんて一人で僕の答えにくつくつと笑う姿は、遠足に向かうバスの車内によくいる児童そのもの。
「あの…アウトドアならそれなりの格好がいいですよね…?着替えてきましょうか?」
答えを一向に教える気が無くても、僕だって少しはこれから行く先に合うような服装を心掛けたい。
のに、だ。
「あは、シム君は動きやすそうな服だからそのままでいいよ。あと今日は手ぶらでさ、その代わりに…ね?」
ね、って言われて。
ニッと少年みたいに笑う課長に僕の右手が掴まれる。
「折角のデートだから」
…あぁ、本当にこの人は一瞬にして僕の心を奪い去るのが上手いんだよな…
普段、手を繋いで歩く事なんて殆ど無いのに、今日は人目を忍ばずに堂々と歩く事が出来た。
課長が選んだデートプランは恐らくアウトドア系なんだろうなと、予測はしていたけれど。
事前に予約をしていたであろうレンタカーを運転する課長は道中鼻歌混じりで、一切行き先のヒントを与えることもなく。
そんな中で向かった先は、街から結構離れた所に鬱蒼と茂る森だった。
「前に来た事でもあるんですか…?」
慣れた足取りで僕の手を引きながら少し前を歩く課長。
明らかに土地勘があると思える行動の数々に僕は素直に疑問をぶつける。
内心、誰と来たかは少しだけ気になる所ではあるけれど…
「あぁ、うん。前にね一度だけ来たんだ」
「…へぇ…そうなんですね」
気になる事を放っておけない性格は今日だけは封印したい。
だって折角のデートだから…
「前は一人の時間を作りたくて来たけど、今日はどうしてもシム君と来たかったんだ」
まるで僕の胸の内を見透かしたような答えと共に、僕と課長を繋ぐ手にぎゅっと力が入る。
「……そうですか、…それなら…嬉しいです」
考えている事を課長は先を読んで言葉を選んでくれたんじゃないとは思うけど。
僕がまた勝手に抱いた不安を一瞬にして掻き消すのがこの人の持つ言葉の力。
じわりと湧き上がる好きだという想い。
手を繋ぐだけじゃ物足りなくて、つい指まで絡ませた僕。
途端、ぐいっと強い力に引き寄せられ。
「ごめん、限界」
森の持つ特有な静寂の中で、ドクドクと鼓動が跳ねる。
誰も見ていないのに、触れた唇から緊張が伝わるようで。
逆に、…恥ずかしかった。

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追伸。
18時に短編をお送りします。
そして、末尾に追記として完全に私事のメッセージを添えさせて頂きましたのでその旨をご承知の上、お時間が御座いましたら遊びに来て下さいませ。
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