オトコはツライよ #63

にこにこと満面の笑みを浮かべ、僕を招き入れようと両手を広げていた課長の背後に…
所在無さげな感じで、妻の御両親が僕の息子と手を繋いで立っていた。
幸いな事に、息子の担任の先生はその場には居なかったから今のこの会話は聞かれてはいない事に若干、安堵し。
でも、、、あの様子からだと御両親にはバッチリ聞かれていたに違いなく。
手を広げても一向に僕がその腕の中に飛び込んで来ないのを不思議に思ったのか、課長からずいっと一歩その距離を縮めた時。
こほん、と、義父が発した咳払いが課長を挟んで僕と御両親を包む微妙な空気を打ち破る事となり。
えっ?と手を広げたままの姿勢で後ろを振り返った課長は、そのままその手を義父に差し出して握手を交わそうとする。
この行動には、流石に義母も笑いを堪え切れずに吹き出していた。
保育園から社宅までのそんなに遠くない距離を、義父の運転する車に僕と息子、そして課長を詰め込む義母。
今回の訪問の意図する所がイマイチ分からないままに、車中には無言が続く。
あ、いや。
この大人の事情をまだ理解出来ない息子だけは、一人ではしゃいでいたんだけど…
訳あって今日の買い出しに行きそびれた旨をやんわりと伝えた所、義母は薄っすらと笑みを浮かべたかと思うと。
手にしていた袋から、息子と僕の好物の物を沢山詰め込んだタッパを何個も取り出してくれたんだ。
「あー、助かります…」
父子して、完全に胃袋掴まれてるなぁ、、。
….だけど、とどめの一発がキツかった。
義母は最後のタッパを取り出すと、息子にせがまれて肩車をしていた課長の目の前に差し出し。
「ユノさんのお口に合えば」って。
確かに、課長はその内容物を好んで食べる事は確かなんだけど。
いつの間に、、!?
「主人から大体の話は聞いてるわ」と、少し頬を染めてパタパタとキッチンに戻る義母。
僕との関係性、そして課長の好み、…義父、あんなに大人しそうにしていてちゃっかり聞く事は聞いてんだな、、
亡くなった妻は大人しくて、僕に合わせてくれるような性格だったけれど…義父に似てたのか、それとも義母に似ていたのか。
今となればそれは確かめようも無い事。
でも、、絶対に知らず知らずに尻に敷かれるようになったんだろうな、と。
妻の御両親を見て、僕は無意識に背筋を震わせた。
「あの、今日はまたこの近くに仕事でもあったんですか…?」
前回の突然の訪問は、仕事の関係で近くに来たついでに僕の女性関係を調べに来たと義母は言っていたんだ。
それならば、今回だって何か目的があって来たに違いないわけで。
そういう事はなるべく早めに知っておきたいと考えるのは純粋な心理。
…だけど。
「チャンミンさんったら、また日を改めて遊びに来るって言った割には全然そんな様子も無いじゃない。だから私達から行っちゃおうかしらってね?」
ね?で、アイコンタクトを投げ掛けられた義父は若干苦笑い気味。
連れて来られたのは、義父の方なんだろうけど義母を止めれない所がこの夫婦のパワーバランスを物語っている。
「あぁ、、そうでしたか、すみません…」
遊びに行くって約束は別に社交辞令なんかで言った言葉じゃ無かったけど。
課長を置いて出掛ける事がなんとなく嫌で、、段々とその約束が億劫に感じていたのは確かであって、、
「ユノさんに気を遣ったのかしら…」
「エッ、、!?」
ズバリと痛い所を突くなぁ、、
「一緒に来てくれて構わないのよ、うちはね」
そう言われましても、、、
「そんなに来づらいかしら?私としては女性を連れて来られるよりは、ユノさんみたいに素敵な男性の方が目の保養になって嬉しいわ」
「…はぁ、、」
「ね、じゃあこんなのはどう?今週末、二人っきりでデートでもして、その帰りにうちに寄ったらいいじゃない?その間、私達も孫を独占出来るんだからいいわよね、ね、どうかしら??」
「で、、でぇと!?…ですか、、」
はぁ…、やっぱりあの会話は丸聞こえだったのか、、
結局。
提案にごねる僕の尻をパシッと叩いたのは義母の
「男ならはっきりとしなさい!デートしたいってあんなに駄々こねてたじゃないの!!」
この一言だったんだ…

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