オトコはツライよ #61

「何だよ、、笑ってばっかりで感じ悪っ」
「あはっ、すみません、、」
あー・・・何だ、そう言う事だったのか。
機嫌を損ねた原因がドレッシングだと思って勝手に器の小さい男だと思った事を心の中でこっそりと詫びた。
自分で恐ろしく単純だな、って思うけれど、それだけ課長の可愛いヤキモチが嬉しかった。
女子と喋っていたと思ったらちゃっかり僕と先輩のじゃれ合いを盗み見てたなんて…ふはっ、
既に僕のモヤモヤはモヤが一個減って、半分くらい浮上しかかっている。
だけど、だ。
そんなヤキモチに舞い上がってモヤを一気に消し去る程、僕の脳内はまだ平和ボケしていない。
やはり気になる事は聞かなきゃ気が済まない性質がここに来ても抑え切れず。
「…上書きと言えば課長こそ、、、今日のお店を僕と上書きする前は誰を誘ったんですか!?」
言った、、、うわー、女々しいって思われたくないけどどうしたって気になるんだから、それは覚悟の上、、
「店?今日の??」
「え、えぇ…今日のイタリアンですよ!」
覚悟した割には、課長の反応が意外にもあっさりとしていて。
キョトンと聞き返されたのには少し力が抜けるけど、でもここで怯むわけにはいかない。
「あー・・気になる?」
「まぁ、大体予想はつきましたけど…」
「そっか」
「で、二人っきりだったんですか、、?」
「んー、まぁね」
「・・・」
ガーン、ショックだ…
今日の様子だとあのキャピキャピした感じで、ずっと課長のランチタイムを独占していたと思うと。
怒りを通り越してなんだか谷底に突き落とされた気分になる…
「…そうですか…」
「そんなに気になる?」
や、これ以上掘り下げても僕の気持ちが浮上する事なんて無いんだから押して来なきゃいいのに、、
「そっか…気になるか…」
気になってたから聞いたけど、聞いたら聞いたで嫌なんだよっっ!、、
けれどそこは最後の強がりで「別に」って答えてやるつもりでいたんだけど。
「シム君はやっぱりあぁいう娘と一緒に行きたかったのかぁ、、そっか…俺が余計な事をしちゃったか……」
…ん?待て待て待て。
「よ、余計な事??あと、別にあの娘と行きたいわけじゃないですけど…?」
一瞬、話が見えなかった所を僕はちゃんと聞き返した。
「え?本当に!?……んーーー、実はさぁ・・・」
実は、って切り出した課長の話は。
課長が昼休みに二人っきりで女子を食事に誘ったわけじゃなく、あっちから強引に誘って来たのを断りきれずに仕方なく同行はしたものの。
蓋を開けてみたらばどうやら恋バナの相談をしたかったらしく。
出来ればその橋渡しを課長にお願い出来ないか、と最終的に頼まれて。
先ずはその好きな人と課長とまた三人でこのお店に来たいと言い出したとかで。
でも、その場で課長はキッパリと断りを入れて、同じお店に一週間もしない内に僕を連れて来たって…
だから??
「シム君の事が好きなんだって」
「!!!」
晴天の霹靂、、、それは全く考えもしなかった展開ですが、、
「うぇー、、?」
「はぁ、、ごめん。俺が恋路の邪魔をした…」
「いや、いえ、、、全然いいです、、」
「ふぅん」
まさかシングルファザーになってモテ期到来とは…ね…
「はは…」
「…嬉しそうだね」
「いや、なんかまだ頭がついていかないんで、、」
「あーぁ、だから言うつもり無かったのに」
「え、どうしてですか!?」
「……だって…」
「はい」
「……女々しいじゃん。影でこっそりと芽を摘むなんてさ」
はぁーーーっと盛大な溜め息と共に屈み込んだ課長がボソッと「カッコ悪」と、呟く。
ガシガシと頭を掻くそんな姿は今まで見た事も無い課長の一面であって。
先輩へのヤキモチから生まれた仏頂面も、思わず吹き出してしまった僕を目を剥き出して見つめたあの顔も。
そして、こうして今、目の前でカッコ悪い姿を隠さずに晒しているそんな課長を。
僕は、僕は、、、愛おしくてつい…
「じゃあ、、これからも遠慮なく摘んじゃって下さい…僕はこの芽だけを育てますから」
屈み込んでいる課長を上からギュッとして、そして額に触れるだけのキスをした。
僕は…
課長との愛だけを、育みたいんです… って

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