オトコはツライよ #60

たかが昼飯、と思えばそれまでだけど。
好きな人とその時間を共有出来て、しかもあんなお洒落なお店で美味しい物を食べれたんだから。
やっぱりそれは恋人同士の僕等にとってはデートと言ってもおかしくはない。
そう言えば食べ終わって席を立つ段階でも、先に伝票を持ってレジに向かったのは課長の方で。
『俺が誘ったんだから奢るよ』ってスマートに会計を済ませてくれたんだった…
その時はラッキーと言わんばかりに心の中でガッツポーズなんかしてたけど。
思い返すと課長の行動とか言動に惚れ惚れする事ばっかりだったと気付く。
僕なんて先輩といつも行くのは安くて盛りのいい定食系ばっかりだってのに。
課長は誰かと食事しながらも、これを僕に食べさせてやりたいなって思ってくれていただなんて…ふは、顔が緩むな…
はぁー…やっぱりかっこいい///
仕事中には【熱視線禁止】って言い渡されてるけど、ちょっとだけならって横目でチラ見。
げっ、女子社員に絡まれてるし、、
僕の耳はすかさずダンボになり、チラ見のつもりがその女子の一挙一動を見逃すまいと自然とガン見に変わる。
…チッ、あれは完全に課長に媚び売ってるな、、あ!今触った!!袖口を、、は、?何で!?
前は社内の女性に対して良い印象を持たれたいって下心を少なからず抱きながら接していた僕も、課長を好きになってからはその想いは何処へやらで。
仕事中に課長の周りに纏わりつく女子はみんなライバルに見えてしまう。
《いいや、それは違うぞチャンミン。お互い仕事で接してるだけだから、課長の周りに近寄る女子をそんな風に見ちゃ駄目だ!》と僕の良心がそう説き伏せて来た。
の、にだ、、、今の女子は明らかに行動がおかしい、、
元々大きな耳を更にピンと立てると女子の黄色い声で「えーッあのお店にまた行っちゃったんですかぁ~!?」って…
…えっ、、、あの娘と行ったんだ、、へぇ…
「…シム」
「…はい」
「もう腹減ったとか?」
「・・・・」
機嫌悪い=腹減った。
この方程式を今は出して欲しくないけど、先輩の気遣いだと思うと邪険には出来ない。
「…多分、あそこじゃ食い足りなかったんです」
だろー!?なんてケラケラ笑いながら引き出しからおやつをこっそり分けてくれる。
くそっ、、くそくそくそっ!
一人で浮かれて馬鹿じゃないか僕、、なにがデートだッッ!
先輩の引き出しにあったおやつのストックを更に一つ奪って口の中に押し込む。
隣で先輩がぶうたれながらも笑ってくれているのが何だか唯一の救いに思えた。
やっぱり…僕には定食系が似合うってか…
モヤモヤオーラ全開。
なのが、何故か僕じゃなくて課長から発しられているのが不思議でならない、、、
はっ、なんで?
いつもの帰り道、決まって並んでスーパーまでの道のりを歩く二人には会話という物が一切生まれないんだ。
僕だって正直面白くないけどお昼に奢って貰った手前、「お昼はご馳走様でした」って顔を会わせた瞬間にちゃんと御礼を述べたのに。
課長は「そう」って明らかにムスッとした感じを隠す事なくそう一言吐き出しただけで、あとはずっとだんまり。
えぇーーーっ!?って感じなんですけどぉ、、、
何かしましたっけ僕、、?あ、まさか今になってドレッシングの怒りが込み上げたとか!?
そんなんだったら器ちっさ…はあぁ、、まじかよ…
「あのさ」
あ、喋った。
「はい…」
「ソッコー上書きされて、…嫌なんだけど」
うわ、がき??は???
「分かんない?俺と美味しい物食べた後から直ぐに隣の奴からお菓子貰ってたじゃん」
「・・・おかし、ですか…?」
「そっ、シム君の美味しかったって記憶が俺がご馳走したイタリアンからお菓子に取って代わった瞬間を見ちゃってほんとガッカリした」
「・・・・ぶふ」
思わず吹き出した僕を課長は目を剥いて見つめる。
あ、そんな顔もするんだ。
僕は更に可笑しくってついに口を手の甲で押さえながら声を出してしまった。
だって。
それってつまり…妬いてたって事。
だろ…///

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