オトコはツライよ #59

アンティパストの次に来たのはアツアツのピッツァで。
うわっ!と目を輝かせている間にまた店員さんがパスタを運び、狭いテーブルをあっとう間にその二つの大皿が埋め尽くした。
あれ?これってどっちを誰が頼んだんだっけ?なんて一瞬戸惑ってどちらにも手を伸ばせない僕に対して。
「どっちも食べていいから」
課長からの願っても無い言葉にまたパアッと僕の目は輝く。
「えっと、、じゃあ遠慮なく…」
ピザカッターを手にして生地にサクッと切り込みを入れた時。
斜め前の女子二人が「美味しい~♡」と声を揃えて歓声を上げたのが気になって。
カッターを二度三度生地の上を往復しながらチラチラとそのテーブルを見やる。
そこも僕等と同じようにピッツァとパスタを頼んでいたらしく、このテーブルと同様に大皿がテーブルの上を占めていた。
でも、僕等よりも更に何だか窮屈そうな感じに見えて、思わずジッと目を凝らして見たらば。
どうやらピッツァとパスタを半々に取り分けて皿に移しているようだったんだ。
あー。あれがシェアかぁ…
よく見れば僕等の周りは殆どが女子ばっかりの席だった。
そしてどのテーブルもシェア状態。
カチャカチャと何度か切り込みを入れたピッツァは大きな一枚から六等分になり、あとは皿に移すだけで、、、
皿に移したピッツァをサッと課長に手渡す。
「えっ、熱い内に食べていいのに」
僕がさっさと一人で食べると思っていたのか、課長はちょっと驚いた様子で。
でもちゃっかりとその手は差し出した皿を受け取る。
そしてその後も僕はピッツァを自分の皿には置かずに、別の取り皿を出してはそこにパスタを盛ってそれをまた課長に手渡す。
またそんな僕の行動に「えっ」と驚きを見せる課長に。
「この方が遠慮なく食べれますから」
前の人の顔は見れずにそう言って僕はピッツァを口に押し込んだ。
「そっか、ありがと」
喜びを隠さない課長はその後もニコニコと僕とテーブルの上に並ぶご馳走を交互に眺めて終始嬉しそうにしていたんだ。
普通、時間が限られた昼休みにあそこは行くべき所では無いんだ。
案の定バタバタとフロアに駆け込んだ時は昼休み終了5分前。
時間があれば汚してしまったシャツを買い置きに着替えるとか、袖口を水で洗うとか。
そういった事をしてあげられたんだけど、「時間が無いからいいって」と言われてしまえばそれまでで。
匂わないかな……なんて心配をしている僕を他所に平然と席に着いてしまう課長。
「匂うな」
「えっ、!?」
「すげぇいい匂い、何食った」
隣の席の先輩がすかさずクンクンと鼻を鳴らして僕の服の匂いの元を嗅ぎ分けようとする。
「あ、、パスタとピッツァを」
「はぁ~!?昼に、、なんつう優雅な事を、、」
「優雅って(笑)大袈裟ですよ…」
「いやいや、俺となら絶対にお前はそんな所に行かないだろ?」
「ですね」
「即答か!つーか、俺もお前と二人なら嫌だし」
「は、?嫌って、、それは言い過ぎですって…」
「あーん?もしや傷付いたとか?」
「えぇ、ちょっと…」
「ばーか。お前じゃなくても男同士なら無理だって話だっつーの。パスタとかピッツァとか、そんなのは女子とのデートで使うべきアイテムだっての」
「デート…」
「そっ。あ、やべ仕事始まった、じゃあな」
・・・デート。
確かにあそこはそんな場所だった………
『美味しい?』
そう言えばしきりに課長はそんな風にして僕が自分の取り皿のご馳走を平らげる度に聞いてきていたっけ。
黙々と掻き込む僕を、少し顔を傾げて見ていた様な気がする…
あぁ、、そうだ。
あの形の良い目を眇めて、終いには頬杖付いてまで満足気に僕の食べっぷりを眺めてたんじゃないか。
『この前食べに来て美味しかったから、多分シム君も喜ぶと思ってさ』
…そうだ、僕の為。
って事はあれはやっぱりデート、、、…だったのか…

にほんブログ村
- 関連記事
-
- オトコはツライよ #61 (2016/09/10)
- オトコはツライよ #60 (2016/09/09)
- オトコはツライよ #59 (2016/09/08)
- オトコはツライよ #58 (2016/09/07)
- オトコはツライよ #57 (2016/09/06)