オトコはツライよ #42

「じゃあ双方異論無しって事で付き合おうか」
さっきまで真っ赤になって喚いていた僕が何だったのかと思う程に、あっさりと課長は言い切った。
だから、僕も「…はい」ってしか言えなくて。
一人で先走ったみたいな感がいまだに恥ずかしく。
晴れて恋人になったそばからまともに前を向く事が出来ない。
だけど、、
逸らした顔は節ばった長い指によって強制的に前へと戻され。
「あの、、」
「うん」
「これって、、」
「そう、だからもう」
"シッ"
お喋りは駄目だって、鼻先が触れる程に近付いた瞳がそう語っていた。
じゃあ…今度こそ……
き、き、き、
「…ん、っ…」
んぐ。
「…はぁ…」
逆上せそう、、、…はぁ…
僕だって既婚者だし、キスの経験はそこそこだって思っていたけど…
人の気配があれ程ゆっくりと近付くのを、空気を通して感じた事も。
もうそこに来ているって、目を瞑りながらもビリビリと全身が総毛立つ事も。
皮膚と皮膚が今、触れ合うぞって時に相手の唇が少しだけ開いたって分かった感覚とかも。
なんだか、、ぜんぶ、、スローモーションで僕に迫ってくるから、、、
そんな状況で触れ合った唇の感触なんて。
今も時を止めたみたいに、僕の唇の上に。
ぽってりと乗っかっているようなんだ…
「はぁ、、、なんか……凄いかも、、」
『何が?』
「ワッ!!」
ほんの数分もしない間に唇は離されて、それで初めてのキスは終わりだった。
だけど僕には物凄い衝撃が残ってしまい、また放心状態になった僕を見かねて課長は自宅に着替えに戻り。
それから数分して意識を取り戻した僕は速攻で風呂場へと駆け込んで頭から冷水を被った。
そして何故か浴槽を丁寧に洗って、湯を溜めている間は身体を浴槽よりも更に丁寧に洗うという行為に没頭し。
肌が赤むける手前で熱めの湯船にドボン。
で、そこからずっとさっきのを繰り返していた。
まさか、課長が浴室の向こう側に居るとは露ほど思っていない。
『何が凄かったのかは後で聞くとして、早く上がらないと逆上せるよ』
…確かに、それはそうだ。
「お疲れ」
そう言ったと思ったら。
半分逆上せてクラクラしていた僕を引き寄せて軽くチュッと唇が重なる。
何が起こったのか?恐らく僕は驚きのあまりに目を剥いていたに違いない。
「はは、じゃあ俺も入って来るから」
僕の身体を退けて、課長は当たり前のように浴室へと消えて行く。
「い、、家で、、入って来いよッッ!!」
なんかもうっ、、もう、、もうっ、、、、
………あ゛ぁ、、///

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