2016_07
31
(Sun)00:00

オトコはツライよ #38







「あれ…」


上機嫌な口笛がピタリと止み、課長が不審な声を上げたから。

僕は息子の身に何かがあったのかと思い込んで、下を向いていた顔をパッとあげてみた。


「あ…」


園の門の所に寄り添って、こちらに微笑む夫婦と目が合う。

それは妻の御両親だった。











「シム君、大丈夫?」

事が落ち着くまで課長は自宅へと戻り、嵐が去ったのを見計らってウチに上がって来た。

だけど。

僕は課長の問い掛けに頭を少し振って答えただけで、それ以上身体を起こすのも億劫で。

脱力したまま床に寝転がっていたんだ。


だって冷たい床が今は無性に恋しくて…


「ビールでも飲む?」


帰りに一緒に選んだ食材はまだスーパーの袋に入ったまま、キッチンに放置され。

それに気付いた課長がゴソゴソと中身を取り出してはそれぞれ適した場所へと保管していく。

その過程で、冷蔵庫の3段目の右端に冷えたビール缶が縦にズラッと並んでいたのも見たんだろう。

景色が真横の僕の視界にコトンとビール缶が置かれ。

その隣に課長が腰を下ろす。


「それ飲んだら俺も手伝うから」

そんな事を言いながらいつも以上にやわやわと頭に触れる指先が、妙に擽ったくて。


「…はは、、戦力になるんですかね、、?」

思わず悪態をついて照れを隠した。



けど。



「今夜は初めての二人きりなんだし。普段出来ない事をしてみたいな…」


横になったままの僕の視界は突如真っ暗になり、額の上あたりにむにっとした物が当たる。


…き、、、、!



「ふふ、これ以上はしないからそんなにガチガチにならなくてもいいよ」




確かに。

くつくつと笑いながら言った通り、課長はその後も本当にそれ以上の事は僕にしては来なかった。





…本来の予定でいけば、明日の朝にあちらの御両親がこのアパートに息子を迎えに来る筈だったんだ。

なのに。

それが一日前倒し。


仕事を早めに切り上げてまで息子を預かるのを楽しみにしていたって言われれば。

僕は後はもう何も言えないわけで。


事前に用意していた荷物と、明日の朝に詰める予定だった物を掻き集めて。

お泊りに目を輝かせる息子を妻の御両親に託した。


じいじとばあばはうんと甘いもんな…


居たら居たで手が掛かったり、あくせくするのに。

居ないと何だか身体の一部が欠けたように感じる。

それが子供の存在。





「…やっぱり、…寂しいですね…」


空いた息子の布団を挟んで僕はまだ眠っていないであろう向こう端の課長へと想いを溢す。


それに対して、なんの答えも無い代わりに。


そっと伸ばされた手が、暗闇の中で何かを探る。




そして、その手が。


僕の手に重なった。




息子が居れば、


僕らは手を繋ぐ事さえしていなかったんだっけ…




「…うん、寂しいな」



俺が居るから大丈夫だろ、とか。

そんな気障な台詞よりも、今は僕に同調してくれた課長に。

優しさを感じる。


だから、僕はそっと重ねた手を握り返した。


実の祖父母に預けるよりも、課長に託した方が寂しいとは思わなかった。


…随分と前から僕はこの人に。



気を許してたって事か。













にほんブログ村 BL・GL・TLブログ 二次BL小説へ
にほんブログ村
関連記事