オトコはツライよ #22

また前の冷たいイメージに戻ってしまった課長を見て、同僚達の間にも不安な声が囁かれていた。
僕はそんな社内の不穏な空気を肌で感じながらも心の中では一刻でも早く仕事が終わる事を願うだけだった。
退社時刻を過ぎて、真っ先に僕は席を立ち。
チラッと課長の席に目線を移すと、まだ仕事を切り上げて帰る様子は感じられない。
それだけを確認するとそのまま周りに挨拶をして、会社を後にした。
息子の保育園に向かう前にスーパーに寄り、迷う事なく僕の手は課長が好む食材に伸びる。
少し前まではカートを押す課長と並んで歩き。
夕飯の献立を相談しながら余計な食材に手を伸ばす課長をたしなめたりして。
まだ会社帰りでスーツ姿の大の男が揃ってスーパーなんかに居たら、目立って仕方が無かっただろうに。
だけど、課長と居るとそんな周りの目すら気にしていなかった僕が居た。
それは勿論、保育園でのお迎えだってそうだ。
前は父子家庭である事で息子に負い目を感じさせたくなくて、あまり目立たずにサクッと園から帰らせる事だけを考えていたのに。
課長が一緒だと、そうはいかず。
息子に強請られるままに園内まで手を引かれて遊んだ事もあった。
本来なら、防犯上の理由からお迎えを登録している保護者以外は立ち入り禁止な筈なんだ。
だけど、先生方から見れば課長はもう既に息子の家族として認識されてしまっているんだろう。
だからこそ出張の際の代理送迎の申し出もすんなりであって。
…昔の僕ならこうじゃなかった。
そう振り返る事ばかりが課長との出会いでは生じている。
つまり、僕は盲目になって来ていた。
冷えたお弁当を手に提げた課長を。
無理矢理ウチに引っ張り込んだのはつい先程の事。
不意打ちを食らって驚きを隠せない隙を突いて体当たりをした。
本当はもう少し別のやり方だってある筈なんだけど。
そこはやっぱり、僕も、男だから…
「僕だって、男なんです」
「…うん?それは…分かってるけど、、」
いや、分かっていない。
改めて宣言せずに僕は。
「え、、、ちょっと………シム君、、、っ?」
こんな事は出来ない。
突然眼鏡を取り外されて、動きを封じ込められた課長は腕の中でもがいた。
「煩いです…暴れないで大人しくして下さいよ」
「え、あ…はい」
「………僕だって、男だから…だから散々悩んだんです」
「…う、うん?」
「男にバッグハグされて嬉しか無いんですよ」
「…そっか」
「そうですよ、普通はね」
「だよね、ごめん…」
「…でも………………」
「で、も?」
実際は普通じゃなくて。
悩んだんだ。
「………でも…、僕だってアンタを…抱き締めたかったんですよ、、、」
腕の中に収めた塊が一瞬強張り、そして脱力をした。
「…それは、、、つまり……?」
僕の腕に支えられてへたり込んだ課長は眉尻を下げて僕を見上げ返す。
「こ………好意、ですよ…」
まだ肌寒い冬に出会い。
雪解けと共に氷解した僕の心に訪れた春。
固く閉ざした蕾から漸く芽が出始めたと言えば美しく締まるのか?
…好き、とは言えない。
これが僕の中の男としての精一杯の告白だった。
やっと、進展…お待たせしました(;^_^A

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