オトコはツライよ #18

肌寒さを感じて自然と目が覚めた。
あ、リビング…
身体を起こしてテーブルの上を見れば飲み散らかした跡がそのままに。
リビングで飲んで寝落ちなんて、いつ振りだろう。
慌てて息子が眠る寝室を覗いたが、すっぽりと布団に包まって熟睡モード。
ホッと胸を撫で下ろすと、ツキンと鈍い痛みが頭に走る。
今日からまた一週間仕事だってのに…飲みすぎたかな…
少し気怠い身体を息子の隣に収め直して、残り僅かな起床時間まで仮眠を取った。
登園時間が迫り、急いで支度をした。
結局、仮眠の筈がそのまま爆睡したようで。
お腹を空かせた息子のぐずり声でようやく覚醒。
息子を急かして、息を切らせて社宅の敷地内を突っ切る。
小学生の集団に声を掛けながら、見覚えのある後ろ姿に出くわさなかった事に安堵した。
空を見上げれば曇天。
今日はひと雨きそうだな…
一日のスタートがつまづくと大抵その日は何かと物事が上手くいかない場合が多い。
今日の僕はまさにそれ。
やる気はあるのに、何故かワンテンポ遅れてしまう。
けれど、幸いな事に仕事には支障を来すようなミスは今の所。
無い。
けれど。
このまま午後も乗り切って、さぁ飯だ。
って時に。
いつもなら愛妻弁当を窓際席で広げている支店長が僕の肩を掴み。
そして、その脇に課長も佇んでいた。
あ、なんか嫌な予感。
けれどこの状況で誰も僕を昼食に誘う者は居なかった。
支店長は会議室を使用中のプレートに変えるなり。
手に提げたランチボックスを会議テーブルに置き出した。
初めからその段取りだったとか思うしかない量の昼御飯が僕と課長の目の前に並ぶ。
支店長の御宅は息子さんが既に独立していらっしゃるとかで、奥さんを連れて転勤暮らしを楽しんでいるとか。
そんな話は前に誰かから聞いていた。
そして………
夫婦揃って世話好きだ、とも。
支店長の奥さんの手料理は懐かしい味がした。
彩りも鮮やかで、やはり女性ならではのセンスが所々に感じられる。
勿論、どれを食べても美味しい。
課長も僕同様に美味しそうに食べていた。
しかし、男3人でお弁当を突っついて話す内容は仕事の話ばかりで華は無く。
食事は思ったりよりも早めに終わり。
食後のコーヒーを2人に出した所で、支店長は姿勢を正して本題へと切り出した。
やっぱり今日は夕方から雨が降り始めた。
傘を片手に保育園前で僕を待ち伏せをしていた課長を素通りする。
スーパーに付いて来なかったのは、こっちに先回りしていたのか…
「…シム君、怒ってんの?」
怒ってる、って何に。
アンタが勝手に僕の物を横取りしたから?
昼、支店長は僕にやんわりと見合いの話を進めて来たんだ。
それを何故か課長が受ける事になって。
支店長も支店長で、僕への話だったのに何故かそれで納得してしまい。
結局、僕は奥さんの手の込んだお弁当をご馳走になって終わり。
確かに今日はワンテンポ遅れていたけれど。
こう言うのはもう少し考える必要があるんじゃないだろうか?
正直。
横取られたって言うよりも、簡単に見合いの話を受けた課長に。
…腹が立っていた。
なのに。
「…別に…」
今日はもうそれについてとやかく言う気が起きずに、僕の口から出たのはそれだけ。
そして、スタートからつまづきまくりの一日の締め括りは。
「え、、シム君……!?」
課長の腕の中で倒れるなんて。
ベタ、過ぎる…だろ。

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