オトコはツライよ #16

流石に、前からのハグは僕には辛かった。
「良くないですよ…ぜんっぜん…」
「えー」
「えー、じゃないですって…早く離して下さい」
「わかった…ごめん」
ベリッと課長の身体を剥がしても、何だか身体が熱い気がする。
酔ったか…?
「シム君…なんかふわふわして来た…先に寝るね」
「あぁ、はい。布団はもう敷いてありますから」
「うん…有難う」
課長に息子を預ける為に、少しでも課長のいる生活に息子を慣らしたいと考え。
だから、出来る限り出張までの平日は課長にこの家に居て貰う事にした。
息子を挟んで川の字に布団を敷いた寝室へと向かう課長を見送る。
でもふと、課長は僕に振り向くなり。
腕を伸ばして。
「耳、真っ赤」
ヨシヨシと、火照った耳を指先で摩る。
や…め…ろ…………
でも。
心の叫びは声には出せなかった。
「…おやすみ」
ふっ。と、笑った課長はやっぱり菩薩なのに。
それに反して僕の心はまがまがしい気がぷすぷすと燻り…
その場にへたりと力尽きた。
だけど、既に課長は布団の中。
も、なんなんだ…
訳も分からない疲労がずしりとの伸し掛った夜だった。
あれ程心配していた出張初日が訪れると、頻繁に僕のスマホが震える。
一番最初に届いたのは、保育園の前で息子と課長のツーショット写メ。
恐らくこれは保育園の先生にでも撮ってもらったに違いない。
この時点では二人共満面の笑みを散りばめている。
僕は懇親会が始まって数分が経った頃だった為に、それを確認してまたポケットにスマホを仕舞った。
次に写メが届いたのは、そこから1時間後の事。
プリンを頬張る息子と、半分見切れた課長。
自撮りか?
出張に出かける間際まで夕飯の支度を僕がやっていた為に。
課長はそれを温め直して息子に食べさせればいいだけだった。
プリン、という事は課長が食べたくてコンビニにでも寄ったのかな。
【御飯はちゃんと食べましたか?】
テーブルの下で短くメッセージを送る。
即既読されて、数分してから。
【完食!】
僕よりも更に短い答えに噴き出した。
そしてその次は風呂上がりの写メ。
ホカホカの息子と逆上せ気味な課長。
これはお風呂場で遊び過ぎた所為か?
僕は二次会に誘われて少し気分が高揚していた。
最後は息子の寝顔。
課長は写っていない。
【泣いたんですか?】
トイレに行くついでにメッセージを送る。
数分後に帰って来た一文は。
【ごめん】
息子は泣き腫らした後みたいな顔をしていたんだ。
僕はトイレを済ませても席には戻らずに、店の外に出て。
スマホをタップした。
『お疲れ様です』
『…ごめんな、心配掛けたくなかったんだけど…』
『いえいえ、大丈夫ですよ。凄く助かりましたから』
『そっか…』
『えぇ、あの…』
『ん?』
『有難う御座いました。課長のお陰で久々に外で飲みましたよ』
『………うん、良かったな』
『はい…』
『まだ飲んでるんだろ?』
『あ、はい』
『今夜はゆっくり飲めよ』
『…はい』
『じゃあ、おやすみ』
『…はい、おやすみなさい』
課長との通話を終えてから、店内に戻っても。
さっきまでの高揚感は無かった。
少し寂しげな声色がまだ耳に残って離れない。
…寂しい?まさかな。
単に疲れただけだろ。
そうは思うのに…
心の何処かでは。
甘えさせてやりたい…
そんな風に考えた、僕がいた。

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