オトコはツライよ #14

ある夜。
僕はそんなに上の空だったんだろうか?
いつもは僕を後ろから抱き締めながらテレビに集中する課長なのに。
何故か落ち着きなくお腹の前の指を何度も組み直したり。
肩に乗っかっている顎も何だかそわそわしていた。
「…何ですか?」
「ん、いや。シム君こそさぁ…何?」
「何って…」
「なんかさ、いつもと感じが違う気がするから…」
…へぇ、分かるもんなんだ。
昔から何を考えているのか分かりにくいってよく言われるのが、僕だ。
だけど、課長にはその微妙な違いが伝わってしまうのか。
ま、どうせ隠す程の事でも無いし。
話してみて何か解決策が見つかればラッキーなぐらいにしか。
この時の僕にはそれ位の軽い考えしかなかったんだ。
「来週の研修会議の事なんですけど」
「あぁ、うん金曜日のやつね」
「えぇ。…………」
「…で、?」
「……懇親会に出席しないで日帰りのつもりでいたんです…」
「うんうん、知ってる。ハンコついたのボクだし」
「…それが…」
「それが?」
「却下されまして…」
「はぁ?何で、、」
「子会社とか関連企業の方々も出るのに、主体の社員が出ないとはどういう事だって…」
「…アルハラかよ」
「いや、上が言ってる事は最もで分かるんですよ、僕だって…でも、、、」
息子がね。
前の勤務地は、たまたま僕の実家も妻の実家も近かったから。
こんな風に懇親会込みの会議とかがあった場合には、息子をどちらかの家に預けて出張出来ていた。
だけど、今はその両方から離れた土地に居る。
前々から言われていれば前の週にでも預けに行って今週迎えに行くとか、そんな選択肢だってあった筈だった。
日帰り出来ると踏んでいての、この急変更。
正直、誰に預けたらいいのか、、、
「ボクじゃ駄目かな」
………え、?
「あ、いえ、、でも……」
他人に、しかも上司だぞ。
あーうーあー、、、どうするよ、…
「もっとさ…他人に甘えなよ?」
課長の回した腕が僕のお腹を少し締め付けたから…
心まで何だか苦しい気がした。
優しさって、こんな感じだっけ…?

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