オトコはツライよ #10

季節は冬から春に移り変わろうとしていた。
そして、鍋の登場回数も減り始めていた。
なのに。
課長と一緒にスーパーへ寄っては夜の献立を相談したり。
会計の段階になると、僕よりも課長が前に立ったり。
保育園にお迎えに行けば、僕じゃなくて課長に手を伸ばして抱っこされる息子。
食事の支度も、遊び相手も、食事の補助も、お風呂に入るのも、寝かし付けも。
言わなくても分担が当たり前に出来ていた。
風呂上がりにビールを煽る僕の隣で、相変わらずとうもろこし茶の課長。
飲んでもいいって言ってんのに、本人はあまり飲みたがらない。
だから、課長のお金で買ったビールを僕だけが飲む。
何だかな、って。
思っていたのは最初のうちだけ。
今は「いただきます」って建前だけのお礼を述べてプシュッと一口。
課長もそれに対して「あぁ」って聞いてんのか聞いてないのか、テレビを見ながら気の無い返事。
上司なんだけどさ。
まるで友達みたいな感覚。
けどさ。
もうこのまま泊まっちゃえば?っていつも思うのに。
律儀に自宅に寝に帰るんだ。
そこまで馴れ合うと仕事に支障を来たすからなのかな?
課長から明確な理由は聞いた事も無いけど。
僕も別に頑なに引き留める理由も無いからそのまま背中を見送るだけ。
そして会社では上司と部下をやってる。
いや、初めからその関係性であって。
今もこれからも。
…変わる事は無いんだろうけど。
息子を寝かし付けて、ゆっくりとビールを飲んだ。
テレビをつけてダラダラしてもいいんだけど…
そわそわして何も耳に入らない様な気がして止めた。
…別に、待ってる訳じゃ無い。
ビールの缶が二本空いた。
だから。
そろそろ、寝てもいいんだけど…
控えめなノックが一回。
時計は23時を過ぎていた。
「ごめん…遅くなって…」
「いえ、別に。待ってませんから」
「ん、…そっか…」
「で。楽しかったですか?」
「う……ん、お陰様で…」
「それなら良かったです。水、飲みますか?」
「あ、う…ん、ありがと…あと、これ…」
今日は部下達に誘われての、飲み会だった。
恐らく課長にとっては初めてだったんだろう。
前に酔ってウチに上がった時よりももっとふらついている。
楽しくて飲み過ぎたに違いない。
けれど。
こうして自宅に帰る前にまたお土産を渡しに来るのも、律儀と言うか。
何と言うか…
水を飲み干して、ネクタイを緩める。
そして部屋で寛ぐ。
ここまでは以前と一緒の行動だった。
もう一杯、コップに水を注いでやろうとして近付いた所で。
「ごめんな…一人で…偉いよ…」
酒臭い塊が僕を包む。
僕は決して酔ってなんて無いのに。
その塊に。
大人しく、頭を撫でられてしまったのは。
何でだろう。
…酔うと碌な事が無い…か。
確かに、そう思った。
お友達から「いつ甘くなるの?」と言われて、無言でした(笑)
そう言えば今までは、ほぼ肉体関係から始まるお話ばかり書いてましたからね(^_^;)
それに一年も何年も季節も簡単にすっ飛ばしたりとか、そんなんばっかり。
こんなにのんびりと展開を進めているのが珍しいです。
皆様のお陰でランキングトップテン入りしておりますが、それこそもうただただ感謝しかありません。
この様なお茶漬け、お茶請け、サラサラ、サクサクなお話を読み応え抜群なブロガー様の中に入れて下さって本当に有難う御座います(T-T)人(T-T)

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