オトコはツライよ #8

僕が朝食の支度をしていても、課長はまだリビングで大の字で寝ていた。
そこへ目が覚めて起きて来た息子が、課長を見つけるなり大ジャンプ。
確かに。
飲むと碌な事が無いか。
…確かに。
「シム君……笑ってないで助けてよぉ…」
笑うと幸せが来るって言ったのはアンタでしょ?
確かに、課長の昨夜のお土産は美味しかった。
そして3人で囲む食卓も楽しかった。
だけど、だ。
「あれ?今日は鍋じゃないの??」
「昨日も鍋じゃ無かったです」
「そっか、まぁ鍋以外も食べたいしね」
「………」
誰が?
会社を出た僕の後を課長が追って来て。
当たり前のようにそのままスーパーへついて来る。
そしてカゴの中の食材を覗いては今夜のメニューを予想してニヤついていた。
会計の段階になって、僕が出すよりも前にサッと財布を出してお支払い。
おいおい。
「荷物貸して」
「あ、いや…」
「これから抱っこするでしょ」
「………有難う御座います」
…何だかな。
何なんだろうな。
「飲みに誘われたりしないんですか」
「ん、するよ?」
「…行ってます?」
「行ってない」
「………勿体無い」
「はは、そう?そっか。じゃあ今夜は飲もうかな」
「え」
「シム君ちで飲んでいい?」
「はぁ…いいですけど…」
いやいやいや。
そう言う意味じゃ無かったんだけど…
ま、飲んでも大した事無かったしな。
あんな程度なら僕も許容範囲だ。
御飯を作るのは僕。
その間に息子と遊ぶのは課長。
息子に食べさせるのは両方でやって。
後片付けは僕が。
そして、息子とお風呂は課長が。
って、おかしいだろ。
何でこんなにスムーズに分担出来てんだ?
「…お疲れ様です、どうぞ」
「あ、キンキン。……っぷは」
「じゃあ僕も頂きます…」
「うんどうぞ。グイッと飲んじゃって」
実は毎日飲んでるビールも、先日の鍋の買い出しの時に課長が払ってくれたんだ。
光熱費の代わりって言ってた。
だけど。
自分ちで飲んでるのに、何だかな……
「それを飲んだらさ、風呂に入っちゃいなよ」
「えっと…でもまだ」
「その間にボクが寝かし付けるから」
「毎回は悪いですって…」
「別にそんな事気にしなくていいから」
「じゃあ……お言葉に甘えて…」
「うんうん」
お言葉に甘えてゆっくりと風呂に浸かって上がると。
寝かし付け終わった課長がリビングに戻っていた。
「有難う御座います」
「いやいや、こちらこそご馳走様」
「それは僕がなんですけど」
「え?そうだっけ」
「…酔ってますか?」
「うん…ちょっとだけふわふわはしてる」
「まだ一缶目なのに…」
「言ったじゃん、弱いって…ふぁぁ…あのまま布団で一緒に寝そうだったぁ…」
「……寝てもいいですよ」
「いやいや…流石にね、悪いから…」
お、今日はちゃんと帰るつもりなんだ。
ふらりと立ち上がった課長は徐に手を伸ばして。
「よくやってるよ、本当に…偉いね」
ヨシヨシって。
アンタ……
子供じゃないのに………
僕は。
子供じゃないのに、、、、
上司に
撫でられてどうすんだよ……
本当。
飲むと碌な事が無いな。

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