オトコはツライよ #4

バツイチほやほやの課長は今日も笑っている。
自身の噂があちこちでされているのを本人も知っているんだろうか?
この手の噂はあっという間に広まって、尾びれ背びれが付いてその内消える。
もしかしたら、課長もそう思って呑気に構えているのかもしれない。
昼は部下を誘って外食。
夜はスーパーのお弁当。
確かに独り身だけど、何だかそんなに悲壮感が本人から滲み出ていないから不思議だ。
寧ろ、あんな爽やかな印象の課長の離婚となれば今後は夜の外食の機会も増えるだろう。
鍋の材料を羨ましそうに見ていた課長を。
妻帯者の同僚達から羨望の眼差しを向けられるのも時間の問題だったりするのか…
ま、どっちにしろ。
僕には関係の無い話だ。
独り身の課長が、僕を飲みに誘う事も無い。
ましてや、外で食事なんて事は絶対に無い。
だって、…課長は自由を手に入れたんだ。
「冷えるね」
「…えぇ、冷えますね…」
何で今日もスーパーへ?
冷えるなら誰かを誘って飲みに行けばいいだろうに。
「今日もシム君ちは鍋っぽいね」
「はい…鍋にする予定ですけど」
「で、ビール」
「まぁ。セットみたいなもんなので」
「へぇ、そっか」
「はぁ…」
待ってる?まさかね…
「…食べますか…」
「ん?」
「鍋を一緒に、…どうですか?」
「いやぁ。悪いでしょ…?」
目の奥が輝くって、初めて見た。
たかが鍋ごときにそんなに喜んでくれるのか…
「息子と二人でも一晩じゃ食べ切れませんからどうぞ遠慮なく」
「じゃ、お言葉に甘えて…あ、お金はボクが出すから」
「いやいや、別にそれはいいです」
「いやいや、それこそ遠慮なく」
「いやいや…」
って、何だこれは。
「あ、笑った」
「…は?」
「シム君、やっと笑ったね。初めて見たよ」
「いやいや、僕はいつも笑ってますよ」
「いやいや。いつもはこんな感じに口を真一文字にして笑ってないって」
「いやいや…」
だから、何なんだ。このくだりは。
ぷっ。
「…あのさ、もっと笑った方がいいよ。笑うと幸せがシム君にやって来るから」
課長はそう言って、自分で笑った。
失礼な。
僕は充分、幸せですよ。
じゃあ、課長は幸せになりたいから
…笑うんですか?

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