2016_04
29
(Fri)00:00

Moon Drop 後編







突然、空へと引き上げられ。
そしてまたあの地へと再び舞い戻る。

しかし、そこにはあの儚げな青年の姿は既に無かった。




「せめて名前ぐらい聞く時間でもくれればなぁ…」


天に向かって独りごちた所で、その呟きがあの大天使の耳に届いているとは思えない。
けれど、こうしてごちなければ気持ちが晴れない気がした。

空を見上げればそこには俺を下弦の月が見下ろす。
満月まではおよそ八日程。

時間があるのか、無いのか。
今までは死者の手助けの為の日数のカウントでしか無かった物が。
突如、身近な物になる感覚に戸惑いが隠し切れない。

焦り…俺が、か。


今までは感じ得なかった寒気に身を竦める。



"ユノ"


彼が発した言葉に。
身体が震えた時点で俺は再び蘇生への準備段階へと入っていたんだろう。


先ずは彼を見つけるしか無い。


この町のどこかに居る、…あの青年を………






彼はこののどかな町をただ闇雲に歩いていた訳では無い事を今、知る。

再び一人でその道を歩くと、あの時には無かった感覚が蘇る。


覚えが…ある。


俺もこの地の記憶を残している。
それをはっきりと感じ取れるのに、その記憶の中にはあの青年の姿は無い。

しかし、彼の足跡を再び辿ると。
その一帯がある施設だった事に気付いた。

開けた広大な敷地に、介護施設と養護施設。
そしてもう一つ大きな建物。

それのどれも俺の記憶には無いのだけれど、ここに確実に彼がいる気もして。
俺の足はその敷地内を踏み締めていた。




「…居た」


俺が天でミカエルと話している内に、下界での彼は動けるまでに回復をしており。

頭には痛々しくまだ包帯が巻かれたままで、それでも彼はにこやかに車椅子の老人を補助していた。


俺は彼から姿を見つけられる事は無いので、そばに寄って一日の動向を見る事にしたんだ。

残された時間が無いと言えばそうなのだが、俺はやはり自分を探すよりも彼の事が気になって仕方が無かった。

けれど、彼の事を知って何になる?

分からない…、ただどうしても気になる…ただそれだけ…



彼は良く動いた。
自分が怪我をしているのも忘れて誰かの為に尽くす一日。

本来は介護職が彼の仕事なのだろうが、手が空くとは隣の養護施設で育てている菜園の手入れも手伝う。

汗を掻き、少し焼けた肌に玉の汗を作りながらも笑顔を絶やさない。


…あぁ、こんな人が生き延びれて良かった。

俺は心底。
彼の生を喜んだ。


そして。
一日の労働を終え、申し送りを済ませた彼は介護施設を出るとは門を抜けずにそのまま大きな建物へと入って行く。


背を追った俺をツンと薬品の匂いが迎え入れた。


俺は…この先へは進めない、、、



身体が拒んだ。

いいや、意思が先か……どちらにしろ、前にはもう進めなかったんだ。




あくる日も俺は彼のそばから離れなかった。
ただし、あの建物だけへは着いては行けないままだったが、、


彼はお年寄りからも子供達からも本当に好かれる心根の優しい人物だった。

致命傷となった頭の傷は、養護施設の児童が興奮をして階段を踏み外した際にたまたま居合わせた彼が庇って頭を強か打ち付けた為だと言う事も判明し。

俺の関心は更に彼へと注がれていった。


しかし、月は日に日に満ち。
明日で満月の夜を迎えるまでに、その形は丸みを帯びて。
姿の見えない俺を寂しく照らした。



そうして、満月を迎える日。

彼は夜勤をあけた身体でそのままあの建物へと入って行く。


俺の足はまた、入り口で立ち止まったままだった。

けれど、どう足掻いても今日まで。


その想いが背を押す。






真っ白い清潔な空間。

各部屋に振られた番号、そして名前。


その一つずつを目で追って、俺は歩いた。




大きな物音がして、少し先の部屋から彼が飛び出す。

彼は一直線で俺の脇を通り抜け、そして叫んだ。


「先生!!ユノさんが……っ!」





彼が出た部屋の引き戸がゆっくりと閉まる。



俺は。

見たんだ。




「………はは、やつれて酷い顔だな…」


肉が削げ落ちた酷い男がそこに眠っていた。


このまま。

永遠の眠りに。


堕ちた方がいいんだろう……?

、、、なぁ。













俺が意識を取り戻して、医師が口にした言葉は「奇跡」だった。

筋肉がすっかりと落ちた身体は自分の意思で動かす事も出来ず。
口元を開く事さえ難儀な程。

それでも家族は涙を流して喜んでくれた。



五年…それが俺の止まった時間だった。

その間に妹もすっかりと大人の女性になり、それこそ若さが眩しい位で。
そんな妹の隣に、家族同様に涙を流す青年の姿があった。

妹の大事な人か…?

身動きのままならない顔を向けて目を細めて見つめると、その青年は固く口を結んで目尻を下げた。

…あれ、何だ…この違和感……

懐かしい様なそんな既視感を彼に覚えた。
けれど記憶を幾ら掘り起こしてもやはり青年に面識は無かった。


それでもジッと視線を外さずに彼を見続ける俺の様子を、真っ先に気付いたのは隣に立っていた妹の方だった。


「あ、、そっか…お兄ちゃんは知らないんだもんね…」

そう言った妹がそっと隣の青年の身体を前に推し進めると、青年は遠慮がちに一歩俺に近付き。

「あの…すみません、僕なんかがこの場に居ていいのか悩んだんですけど……」

まだ頬を濡らす涙を手の甲で拭いながら話し。
そんな彼を俺の母親は「もう家族同然よ」と漏らしてはまた声を詰まらせた。

家族同然…この青年が、、、?

俺が恐らく不審がった目で彼を見つめてしまったのだろう。
その視線を逸らす様にして、結局青年は…

「今日は御家族だけの方がユノさんもいいと思います…でも、、一言だけ。有難う御座いました……じゃあ僕はこれで」

そんな言葉を残して逃げる様に部屋を出て行ってしまったんだ。



けれど、それ以来。
その青年はこの部屋に来ていない。





長い間、動かしていなかった身体を徐々に戻す為にリハビリが始まり。
歩行がまだ困難な俺は車椅子生活を強いられた。

行ける範囲は敷地内のみ。
家族が交代で訪れては俺を庭へと連れ出してくれるのが唯一の気分転換だった。

そして、その庭では時々あの例の青年を見掛けた。

その頃には家族から彼の事は全て聞かされており、どうして彼がここに居るのかも俺は知っていた。



五年前……俺は事故に遭った人を助けて、そのまま意識が戻らない状態が続き。
そして、今に至る。

その時に助けた人が、あの青年であり。

それから五年の間、俺が転院する度に彼もその土地で職に就き。
仕事の合間を縫っては寝た切りの俺の世話を家族と交代でしていたと言う。


だから、あの一言だったのか…


けれど…時折、庭で視線が交わされると彼は慌てたように顔を背けた。




そうして暫くは車椅子頼りで生活していたのが、段々と歩行距離を伸ばし。
遂には自力で庭まで出れるようになった頃。

俺はまたいつもの様に庭で作業をしていた彼に自分から声を掛けてみたんだ。


「あのさ、ちょっといいかな」

「…はい」

「俺が寝ている間、君がマッサージとかしてくれたんだってね。有難う。礼を言わなきゃいけないのはこっちの方だったのに。遅くなってごめん」

「いえ…そんなのは別にいいんです、僕はユノさんに恩返ししたかっただけなんで…」

「…じゃあさ、なんであれから俺と会ってくれなかったの…?」

「……それは……」


その時点で、彼の顔は太陽の熱とは別に真っ赤に染まり。
様子を窺う為に更に近付いた俺に彼の身体が強張ると、吐き出す様に。

「僕は、、、毎日寝ているユノさんしか知らなくて……ユノさんに見つめられると何だか……駄目なんです…って、変な話ですよね…っ…すみません」

って….




「何だよ…」

「すみません……」

「…良かった」

「え…っ」

「俺が嫌われてるんじゃないならいいんだ」

「そんな、、あ…本当にすみません…っ…誤解させてしまって……」

「ん、じゃあ。はいっ、握手」

「……」

「ほらっ。先ずは友達から始めないか、俺達」

「…ふっ…」

「何だよ、何か可笑しいか?」

「いえ、その。…ユノさんの事を知ってる様で知らないんだなぁって思って」

「…そっか。じゃあやっぱり一からやり直し。俺はチョン・ユンホ、宜しく」

「…シム・チャンミンです、宜しくお願いします」



強く握手をした途端、俺の体勢が崩れ。
ふらついた身体は彼の腕の中で抱き留められた。



「「…なんか…」」


同時に発した言葉に互いが驚き、その先を促しても彼は口籠るばかり。


「あのさ、…俺。この太陽の匂いが何だか懐かしい気がするんだ」


まるで誤解を受けるかの様な台詞に俺は少しだけ照れ、彼の身体から離れようするとそれを拒む力。


「……チャンミン君?」


合わさった身体から彼の心音が服を通して伝わる様だった。



「友達から…ですよね…」




「あぁ…友達から…」







ふわっと解かれた腕の中。


燦々と照り付ける太陽の下で、儚げに笑った彼の横顔に。



トクン…




俺の中の止まっていた時が漸く。






流れ出した。











end





エロ封印。清いお話でした( *´艸`)

そして、素敵な画像をお貸しくださったAliさん~有難う御座いました♡






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C.O.M.M.E.N.T

では爽やかに。(笑)
太陽のしたで、ふたりはキャッチボールをするのかしら。
あ、ユノ! 爽やかもいいけど、元気になったら髪は紅く、
あとピアスもね? えへへ。

2016/04/29 (Fri) 01:05 | 723621mam #- | URL | 編集 | 返信

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2016/04/29 (Fri) 05:19 | # | | 編集 | 返信

723621mam様

mamさんおはようございます( *´艸`)コメント有難う御座います♡

あは!爽やかなコメントを(笑)ふふっ。
ですねヽ(〃∀〃)ノやっと2人の時間が始まったんですもん。
これから先はデジャヴを感じながらお互いの距離を詰めていきますよ♡
そうそう、赤髪とピアスと黒い服〜♪

2016/04/29 (Fri) 07:14 | あゆ #- | URL | 編集 | 返信

na***様

na***さんおはようございます( *´艸`)コメント有難う御座います♡

封印(笑)というか書ききれなかったんでค(TㅅT)ค
2日半で仕上げたので色々と書きこぼしあります。いつか書けるといいんですけどね〜

うふ。そう、両思いだから♡ナニが始まってもおかしくはない(笑)ので。。

あら〜〜コナン♡いいですね!そして大型(笑)!
私も奇遇です〜似たようなスケジュールで、休み=家族サービスなのでお話の更新もストップします(笑)
na***さんごめんなさいค(TㅅT)ค
さして、初日から子供が熱出してます、、、風邪だ!

2016/04/29 (Fri) 07:18 | あゆ #- | URL | 編集 | 返信

おはようございます♡

あゆさんおはようございます♡
大変遅くなってすいませんでした!!
素敵なお話ありがとうございます、こんなバースデーは初めて、ゆんちゃすみさんにも祝宴していただいてほんとに幸せです!!
MoonDrop 素敵な語感(●´艸`)ムフフ
月って神秘的で大好きなんですよね、やはりハラハラドキドキ、どうなるのか先が知りたくなるあゆさんワールド、素敵でした♡

やっぱね、昨日ご飯食べたら寝てました←
オールとか言ってたのに(笑)
どうにか連休を迎えられた安心感というか、油断してましたね〜
娘ちゃんお熱ですか?(  Д ) ゚ ゚
昨日の夜からこちらもぐっと冷え込んでますよ、早く元気になりますように!!
ほんとにありがとうございました\( ˆoˆ )/

2016/04/29 (Fri) 09:23 | しおん #- | URL | 編集 | 返信

こんにちは~(*'ω'*)

とっても爽やかなお話に汚れきったババァの心が洗われるようでしたぁ( ๑˃̶ ॣꇴ ॣ˂̶)♪⁺
読み始めるとどんどんと引き込まれていく、あゆちゃんワールド♡
流石、師匠ですねΣd(≧ω≦*) グッ

2016/04/29 (Fri) 13:51 | Ali #- | URL | 編集 | 返信

爽やかな😁

あゆさん こんにちは〜
爽やかな😁ここあゆさんの
ブログですよね?wwwwwwww(笑)

なるほど!そういう事でしたか〜
事故にあったチャンミンを
かばって5年間意識不明で
入院してたユノさんを
家族と交代でお世話してたんですねぇ〜
しかもユノさんが転院する度
その土地で仕事を探して お世話
してたなんて 誰にでも出来る事じゃあ
ないよね(๑•̀ㅂ•́)و✧
チャンミンの献身的な看病と家族の愛が
奇跡をもたらしてくれたファンタジーな
お話で LINEで ユノをグイグイ
攻める毒舌テ○ンを貼り付けた人と
同じ人だとは思えませんわ( ✧Д✧) カッ!!
えっと ここほんとに
あゆさんのブログですよね(゚Д゚;≡;゚Д゚)wwwwww

あゆさん 忍者熱があるんですか?
子供ってなんでかゴールデンウィークとかに
熱出すんですよねぇ。゚(゚´Д`゚)゚。
暑かったり寒かったり気温の差が
激しいから風邪が流行ってますもんね😣
あゆさん お大事に♡

2016/04/29 (Fri) 14:59 | くみちゃん #- | URL | 編集 | 返信

しおん様

しおんさんこんにちは( *´艸`)コメント有難う御座います♡

改めましてお誕生日おめでとう御座いまーす*・゜゚・*:.。..。.:*・'(*゚▽゚*)'・*:.。. .。.:*・゜゚・*
いやー、間に合って良かった(。>∀<。)♡
私のは即席で作っただけなんですけど、ゆんちゃすみさんのは「あぁ〜その手があったか!!」と驚きましたよ(*´罒`*)ニヒヒ♡
こんな所でお名前が役に立つとはねー!!
良かったですねしおんさん♡

オールといいつつ寝ますよね(〃艸〃)ムフッ
身体は休めてから、大いに遊んでくださいませ♪♪
私はLINEの途中でもう子供の様子が変で、慌てて寝かし付けたんですけど。
夜中に熱出しまして、今日も変なテンションで家で安静にさせてました!
やっとスマホが弄れる(笑)

ゴールデンウィークはほぼ帰省しますヽ(〃∀〃)ノ遊び倒して来ます!!

2016/04/29 (Fri) 15:07 | あゆ #- | URL | 編集 | 返信

Ali様

Aliさんこんにちは( *´艸`)コメント有難う御座います♡

いやーん、困った時のAliさん頼みですよ\(//∇//)\
何も話が思い付かなくても、Aliさんの画像を漁ると降って来るから不思議〜〜!!
でも今回は時間が無くてエロエロには行けませんでした(笑)
でもたまには清いのもいいですよね!?
汚れきった(笑)あはは、あー耳が痛い(艸д゚*)

2016/04/29 (Fri) 15:09 | あゆ #- | URL | 編集 | 返信

くみちゃん様

くみちゃんさんこんにちは( *´艸`)コメント有難う御座います♡

えーっと(笑)ここは確かにあゆのブログです( ー`дー´)キリッ
私の本来の姿は無垢なチャンミンの寝顔くらいに澄み切って透明なんです(〃艸〃)ムフッ♡
LINEのアレは、某芸能人の〇〇〇〇さんに似ているあの方の御所望ゆえに即席で作った次第なんですってばー(੭ु ˃̶͈̀ ω ˂̶͈́)੭ु⁾⁾
まさか私が常日頃、「ハッ!この白豚が、踊れなきゃ意味がねーんだよ。デブヒョン!」と罵るテ〇ナを妄想してるなんて、、、あり得ません!!

むふ。折角の月の素敵な画像を活かし切れなかった。。。
ちょっと反省点ですค(TㅅT)คぐすん。

忍者がね!深夜に熱出して〜〜今日は旦那も居ないし、お医者さんはやってないしでお家でテンションがおかしい忍者と過ごしてましたよ(+_+)
でも、昼寝を少ししたら回復したのでホッとひと安心♡
連休は帰省する予定だから治して元気に帰らなきゃですよ\(//∇//)\

2016/04/29 (Fri) 15:17 | あゆ #- | URL | 編集 | 返信

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2016/05/02 (Mon) 21:55 | # | | 編集 | 返信

ひま***様

ひまさんこんにちは( *´艸`)こちらも返信を長らくお待たせしましたค(TㅅT)ค

このお話は、続編も考えてたんですけどね・・・
休みを挟んだ途端。その熱がシューッとしぼんでしまいました(;-ω-)ゞ
これ以上は広げれません。がーん。

本当はなんでキャッチボールをしたかったのかとか、赤い髪とピアスの風貌になったのかとか。
ユノさんの過去が描かれる予定だったのに〜
ま、ざっと言えば。
野球バカのユノさんが大学時代に肩を壊して野球から離れ。
それからは何かに執着するのを止めてしまって荒れた生活。
で、人助けはしたものの自分の蘇生には無関心になり。
いつしか天国へも行けずに下界にも戻れずに天使の見習いのままでぶらぶらしているうちに記憶も薄れてしまった。みたいな感じでいこうとしてました!
ふふ。ま、これ以上は書けないのでネタあかしでした(笑)

2016/05/09 (Mon) 15:07 | あゆ #- | URL | 編集 | 返信

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